110.狙撃手と盗賊ども
俺はひとまず湖のほとりの別荘に戻ることにした。
ステルスの実戦はしたいが、その前に少し休憩もしたかったのだ。
やはりゲームは心に余裕を持ってプレイしたいからな。
そんなわけで森林エリアに移動する。
木々の間を歩いていると・・・・・・ん? 何だあれは?
俺はさっと木の陰に身を隠す。
前方を十数人の集団がぞろぞろ歩いていた。
見たところ全員、戦闘職のようだ。
あれはいったい・・・?
俺は嫌な予感がして、少し距離を置きながら後をつけることにした。
ただの狩りならせいぜい数人のパーティが普通だ。
それ以上は効率が悪いからな。
だから十数人ともなると、何か別の目的があると予想できる。
もしかすると森林エリアのエリアボスと戦うのだろうか?
それならまあいい。
しかし、もし嫌な予感が当たったら・・・。
俺は木の陰に隠れながら、少しずつ距離を詰める。
一団の会話に耳を澄ませる。
「こんな森の奥に家があるとはなあ」
「なかなかオシャレな別荘だったぜ。奪いがいがある」
「まずインテリアを根こそぎして、次に家をぶっ壊して素材に戻すぞ」
「おうさ」
・・・。
俺は顔をしかめる。
嫌な予感が当たったようだ。
あの十数人の集団は、どうやら俺とリコッチが丹精込めて建てた別荘を狙う不届きな盗賊どもらしい。
いや、実際に建ててくれたのはフローラなんだが、それはともかくマズい。
いかな金に糸目をつけず警備アイテムを張り巡らせているとはいえ、さすがにそれだけで撃退できる人数ではなかろう。
俺は小走りに盗賊どもを回り込みながら、フレンド欄を開く。
正直、俺一人では荷が重い人数だ。
リコッチにヘルプを求めたほうがいい。
『リコッチ:オフライン』
ログインしてないじゃねえか!!
くそっ、どうする・・・。
ダンチョーとクッコロに救援を要請するか?
いや、だがあの別荘は俺とリコッチにしか関係のない案件だ。
何でもかんでもダンチョーやクッコロの世話になるのはよろしくないだろう。
一人でやるしかない。
俺は覚悟を決めた。
別にタイマンするわけじゃあない。
別荘に立てこもり、警備アイテムを駆使しながら撃退すればいいのだ。
相手も数が減れば撤退するだろうし、全滅を狙う必要もない。
それでもかなり無茶だが・・・俺には新しく手に入れた頼もしきステルスがある。
自分を信じるのだ。
森が開けた。
目の前にキラキラと陽の光を反射する湖が広がる。
幻想的な光景だ。
だがその景色に踏み込む無粋な盗賊どもがいる。
俺はリコッチが愛したこの光景を守り抜く義務があるのだ。
やらねばならない。
「ヒュウ。いい家じゃねえか」
「洒落た別荘だなあ」
「誰が住んでるのか知らねえがいいご身分だぜ」
「リア充は許せねえよ」
盗賊どもがへっへっへっと下卑た笑いを浮かべながら別荘に近づこうとする。
俺は先手を取って、横合いからライフルをぶっ放した。
銃弾は過たず盗賊の一人をキルした。
「なにいっ!?」
「あっ、あそこだ! スナイパーがいるぞ!」
「あいつ、97位だぜ!」
「何だと! 邪魔する気か!」
盗賊どもが殺気に満ちた目を向けてくる。
俺は反撃が飛んでくる前に、素早くステルスを発動する。
そして木の陰から飛び出して、別荘へと駆け出す。
「おい、おっさんが消えたぞ!」
「くそっ、どこ行った!?」
「さては逃げやがったか」
「あっ、あんなところにいやがる!」
ステルスが切れて盗賊どもに見つかったが、もう遅い。
俺は転がるように別荘に飛び込むと、そのまま窓の近くに陣取った。
「あの別荘、まさかおっさんの家か!」
「なら遠慮はいらねえ!」
「お前らやっちまえ!」
「うおおおお!」
十数人の集団が、殺気を漲らせながら別荘に向かって突っ込んでくる。
玄関の前には、警備犬である柴犬とビーグル犬が唸りながら待ち構えている。
この2匹が今回の防衛における戦友というわけだ。
頼むぞ。
俺は窓から銃口を覗かせて構える。
正直なところあまり自信はない。
人数が違いすぎる。
しかし俺が敗北すればこの別荘は荒らし尽くされて、更地に逆戻りだ。
リコッチもさぞ悲しむことだろう。
俺しかいないのだ。守らねばならない。
防衛戦の始まりだ。




