102.狙撃手と警備アイテム
「リコッチ。せっかく街に来たんだから、警備会社に寄って警備アイテムを購入していこう。その後で家具も」
「あっ、そうですね!」
家を手に入れた俺たちだが、やることはまだある。
現実でもそうだが一軒家の購入はとかく手間がかかるのだ。
まず何より警備アイテムだ。
俺もリコッチも社会人であり、平日は夜しかログインできない。
昼間に強盗に押し入られて、せっかく買ったオシャレな家具などを荒らされてはたまったものではない。
また生産で作成した家はしつこく攻撃を繰り返せば破壊でき、量は減るが素材に戻るので、時間が有り余っている自宅警備員のPKプレイヤーたちに廃屋にされてしまう恐れもある。
そういうわけで俺たちが不在の時間を守ってくれる頼もしい警備アイテムが必要なのだ。
警備会社に立ち寄った俺たちは、早速カタログを開いて顔を突き合わせながら相談する。
「やはり屈強な警備員NPCだろうか?」
「うーん・・・せっかくの別荘なのに雰囲気が壊れちゃいませんか?」
「それもそうだな」
警備アイテムは実に多種多様であった。
それはいいんだが、何だよこの警備ドラゴンって。
家よりでかいじゃねえか。高いし。
「雰囲気が壊れない警備アイテムとなると、何がよさそうだ?」
「そうですねえ・・・。あっ、センパイ! これなんてどうです?」
リコッチが指差したカタログの一角には、警備犬がいた。
犬か・・・。
別荘の周りを犬がワンワンしているのは、何というか微笑ましいかもしれん。
悪くないかもな。
「なら犬にしよう。種類があるようだが、リコッチはどれが好きだ?」
「犬種はセンパイが決めてください! 私は犬を採用してもらったんで!」
「別に気にしなくてもいいが・・・。そうだな、この柴犬かビーグル犬がいいな」
「わあー! どっちもカワイイですねっ」
リコッチが目を輝かせてカタログを見つめる。
そうなのだ。
柴犬は老若男女問わずその愛らしさから人気があるし、ビーグル犬もややマイナーながら垂れ耳が可愛いと評判である。
そしてここが重要なのだが、この2種はどちらも元々が狩猟犬なのだ。
まあここはゲームの世界ではあるが、それでもプードルなどよりは明らかに番犬に向いているだろう。
「センパイ! どうしましょう! どっちもカワイイです!」
リコッチが俺の袖をつまんでくいくい引っ張ってくる。
決めかねているらしい。
気持ちはわかる。どっちも可愛いもんな。
「リコッチ。番犬は一匹だと足りない思わないか?」
「・・・! 思います! めっちゃ思います!」
こくこくこくと何度も頷くリコッチ。
「どっちも飼おう。それで別荘の周りで放し飼いにしておいたらどうだ?」
「そうしますっ。やったあー!」
とても嬉しそうなリコッチ。
可愛い。
犬もそうだが、リコッチもだ。
「しかしリコッチ、番犬2匹だけでは些か物足りない気がする」
「そうですねえ。何か罠も買います?」
「そうだな・・・。このマジカルマインなんてどうだ?」
「魔法の地雷ですかあー。いいかもです!」
「それと万が一侵入を許したときのために、屋内にも何かほしいな」
「私たちの家に侵入する不届き者は許すまじ、ですねっ! じゃーこれなんてどうです?」
「ふーむ。マジカルオートボウガンか。悪くないな」
「それとこれ」
「ほ、ほう。マジカルライトニングワイヤーか」
「あとこれ」
「お、おお・・・。マジカルクローゼットミミックか・・・」
「それから――」
「・・・」
リコッチから殺意の波動を感じるのだが?
怖いのだが?
とりあえずほどほどに罠を購入すると、次に家具屋に赴いた。
「とりあえず別荘の雰囲気を壊さない家具がいいだろうな?」
「ですねー。白か木目調のインテリアがいいと思いますっ」
そういうわけでタンスやソファ、テーブルや椅子、キッチンアイテムやベッド、シーリングライトなどを購入した。
どれも落ち着いた雰囲気のもので、派手さはないが長く使いたいと思えるデザインだ。
一つ一つ選ぶたびに、「うーん」と唸りながら真剣に考えているリコッチが微笑ましかった。
自分の好みだけではなく、俺の好みまで含めた色調とデザインを考慮してくれたのがよくわかった。
一人よがりにならず、相手のことをきちんと考えてくれるいい子なのだ。
ちなみにキッチンアイテムは飾りではなく、実用性がある。
フライパンがないと焼き料理はできないし、包丁がないと作物を切ることができない。
鍋がないと煮る料理ができないといった具合だ。
まあ料理といってもタッチパネルをポチポチするだけなので、料理感は全くないが、そこはゲームなのでやむを得まい。
現実の料理のように手間暇がかかると、毎日料理をする生産職のプレイヤーたちが困るからな。
それとは別に俺もリコッチも料理スキルがゼロという問題があるが・・・。
そんな野暮はあえて言うまい。
雰囲気を楽しめればいいのだ。
「センパイっ。早速別荘にいきましょー!」
ホクホク顔のリコッチと一緒に、俺たちは泉のほとりに向かった。




