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25 後輩声優・高寺円1

「ん、今なんか……」


 声がしたほうを向こうとしたが、ちらっと見えた中野の表情がそれをさまたげる。ありったけの動揺の色が浮かんでいたのだ。


 そして中野は、なぜかさっと俺と陳列棚の間に入って隠れた。


「えっ、どした」

「しーっ! 静かに」


 しかし、中野の行動は遅かったようで、声の出所は近づいてくる。


「やっぱ、ひよりんりんだっ! ちょっと、なんで隠れるのーっ!?」


 声が聞こえる方向を向くと、曲がり角から赤茶色の髪をした、溌剌とした雰囲気の女の子が姿をあらわした。


 身長は女子の平均よりも少し小さいくらい。特徴的な赤茶色の髪は、毛先がほんのりはねたショートボブであり、彼女の溌剌とした雰囲気に合っていた。


 瞳はぱっちりつぶらで、人好きなオーラが放出されてる。他のパーツもキレイで、一目でわかるほど整った顔立ちをしていた。大人っぽいというよりも童顔な顔だちで、美人というよりかわいいと言うほうが適切だと感じる。


 顔立ちにばかり目がいくが、その私服もかわいかった。右胸付近に「MILKFED」の文字が入ったシンプルな白Tシャツを、ベージュの膝上丈パンツにインし、そのうえにグレーパーカー、濃い色合いのデニムジャケットを羽織っている。女の子らしさを含みつつもボーイッシュにまとめたそのファッションは、彼女の容姿や雰囲気に、とてもよく似合っていた。


 そして、これを俺が指摘するのは失礼というか、正直そんな立場じゃないこともわかっているのだが、事実として述べさせていただくと……


 一番対照的なのは、その「お胸」だった。


 性格に反して控えめなお胸の中野に比べて、この溌剌女子はなかなかいいものを持っている様子なのだ。視線がついつい吸い寄せられそうになるので視線を落とすと、次はスラリと伸びた脚が目に入り、その健康的な色気にまたドキッとしてしまう。


 しかし、当人はと言うとそんな俺の邪な感情には気付いてない様子で……


「隠れてるの見えたよー! ってもしかして、あたしとかくれんぼしてくれる感じー?」


 にっこにこの笑顔で呼びかけてくる。

 すると、中野は負けたという顔をして、俺の後ろから姿を見せた。


「べつに隠れたわけではないですよ、高寺さん」

「ちょっとー、名前で呼んでって言ってるのにー、しかも敬語で」


 そう言うと赤茶髪系女子はくるっと俺のまわりを回って中野に近づこうとする。と、中野は逃げ、俺のまわりを回り、それをまた赤茶髪系女子が追って、鳴門の渦潮状態に。この状況にタイトルをつけるなら、きっとトムとジェリーとワカミヤ。いや、俺は傍観者だから置物役かな。タイトルに名前が入るはずがない。


「ちょ、ちょっとストップ! 目が回る!」


 しかし、前世はきっとトム系女子はお構いなしに、中野を追い続ける。追われる中野は逃げる。こいつら、ロフトで一体なにやってるんだ。


「こら! 他のお客さんに迷惑だろ!」


 俺が両手刀を同時に振り下ろすと、タイミングよくふたりの頭に直撃。目を白黒させ、赤髪女子は驚きを隠せない様子だが、中野は涙目になりながらも「助かった……」という顔をしていた。


 そして、中野は訴えるかのように相手のほうを見る。


「名前で呼ばないのは、まだ距離があると思ってるからよ」

「そんなことないっ!」

「いや、それを決めるのは私でしょう」

「あ、あたしにも投票権あるはずっ!」

「いやなんで」


 俺を挟んで行なわれる女子同士の会話。


 だが、明朗快活女子の一方で、中野は思いっきり心を閉ざした顔をしていて、なんだか非常に気まずい空気である。仕方ないので俺は助け船を出すことにした。


「あの、えっとどちらさん……?」


 すると、赤髪女子は初めて俺のほうをちゃんと見ると、笑顔でハキハキと言った。


「はじめまして。私、高寺円って言います! 高いお寺に円って書いてこうでらまどか。ひよりんりんの事務所の後輩の新人声優です!」



   ○○○



 突然目の前にあらわれた、中野の後輩声優を名乗る赤茶色い髪の元気系女子。


「後輩……?」

「はいっ! あっ、でもあたしも高2なんで同い年です~!」


 間近で聞くと、たしかに声優と言うだけあって、独特な甘さを持ったかわいい声だった。透明感があって数キロ先にいても聞こえそうと感じる中野の声と違い、少し鼻にかかり、くぐもった感じの声色。


 だが、だからと言って聞こえにくいということはなく、人の良さが伝わる温もりが感じられ、クールな印象の中野とはその部分でも対照的に思えた。


 もちろん、ふたりとも魅力的という点では同じなのだけど。


 声優と一口に言っても、大人っぽい澄んだ声質の中野とは全然違うんだな……などと思いつつ、彼女の発言に気になる点があることに気付く。


「えっと、ひよりんりんって?」

「ひよりんりんはひよりんりんです! ちなみにこのかわいこちゃん」


 そう言いつつ抱き締めようとするが、中野は巧みにそれをかわし、グルッと俺の後ろに回り込んだ。


「いや、中野を指してるのはわかるけど、なんでその呼び方って意味で」

「なんで? えっと、私たち仲良しなんで」

「そんな鈴が鳴っているような呼び方、許可した覚えはないけれど」


 瞬時に、否定の言葉が俺の後ろから聞こえてくる。高寺さんいわく、仲良しらしいはずの中野は、俺の後ろに半分隠れていた。


「だいじょぶだいじょぶ~! 呼んでるうちに馴染んでくるから」

「いえ、きっと永遠に馴染まないわ」


 全然響いていない様子の彼女に、中野は頭を抱える。


「せめて、りんを一個減らしてもらえないかしら……」

「ひよりん? えーっ、それだと他にも呼んでる人いるしー。あたしだけの呼び方がいいなって」

「そ、そう言われても」


 懇願を秒殺された中野の顔には、冷や汗のようなものが浮かんでいた。返答に困ったのか言葉が出てこない。どうやら、本気で困っているようだ。


 そして、中野はすがるような目で俺のほうを見ると……


「ちょっと、トイレ行って来ていいかしら」

「えっ」

「お腹が痛くなってきて……ごめんなさい」


 と、言い残し、早足でその場を立ち去った。あまりの急展開に、俺たちはともにその場に立ち尽くす。


「あー、行っちゃった……」


 彼女はさみしげな顔をしていた。


 こうして初対面の女子と残された俺だが、出会い方が出会い方なので、話しかけ見知りする雰囲気ではない。なんていうか、唐突すぎて話しかけ見知りする心の余裕もなかったのだ。なので、自分でも不思議なほどの余裕を感じながら、諭すように伝える。


「いやでも。仕方ないだろ」

「へ?」

「だってまだ打ち解けてなさそうだし」

「そっ、そんなことないっ!! はずなんだけど……あたし的には」

「中野と話してどれくらいだ?」

「んー、ちゃんと話したのは先週?」

「そりゃ早いだろ」


 想像以上の返答に、思わず本音が出る。


「あの、距離感って言葉知ってる? 世の中には、人と仲良くなったり、心を開いたりすんのに時間がかかる人がいるんだよ」

「心を開くってなに? むしろ閉じるってどういうこと? うぃーんがちゃみたいな?」

「なんで物理的な話になんだよ」


 胸の前で両手をぱふぱふさせる素振りに、俺はため息をつく。アホっぽさ全開の返事なうえ、豊かな胸が両腕のせいで困る感じに動くので、二重の意味で見てられない。


 ……てか、いつの間にか俺、初対面の女の子と普通に話してるな。


 しかも、タメ口で。 


 話しかけ見知りな俺の人生にはなかった展開だが、これも彼女の気さく極まる雰囲気&圧倒的なゼロ距離射撃感にあるだろう。

余談です。


第2のヒロイン・高寺円が登場してきました。元気でちょいおバカな女の子です。


ラブコメ好きな方はみんな大好きな系統のヒロインだと思うんですけど(偏見)、自分は『とらドラ!』の櫛枝実乃梨がその中でも一番好きです。


昨今アイドル化が進んでる声優さんですが、この高寺円というキャラを通じて「オタクになりたての人が最初に好きになるタイプの声優アイドル」を表現したいと考えてます(抽象的だけど通じる人には通じるはず)

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