第五話「結末」
魔法使いから真実が告げられる。
「何?だから何だって言うのよ?」
シンデレラはイスから立ち上がり、声を荒げる。
「ひひ…そうね。少し魔法について説明してあげるわ。」
「そんなことより!早く…元に戻してよ!」
魔法使いはシンデレラの声を無視して続ける。
「魔法とはとても便利なものでね…不可能なことが可能になる魅力的なものだわ。そのひとつ…物の大きさや形を変える魔法。そうね、例えば…カボチャを馬車にしたり、ネズミを馬にしたり、地味な服を美しいドレスに変えたり?さらには、ひひひ…男性の姿にだって変えることが出来る。」
そして、魔法使いは、再びガラスの靴を嬉しそうに眺める。
「あとはそうね、…『靴の大きさ』かしら。」
「…!」
シンデレラの脳裏に、王子たちが家に来た日を思い浮かべる。まさか…こいつが…。魔法使いは続ける。
「魔法が変えるのは、物だけじゃないわ…人の心だって変えることが出来る。どうして、一国の王子である人物が、庶民の娘になんかに簡単に心を奪われたのかしら?」
「…そ…そんな…そんなこと…。」
嘘だ…嘘だ…だとしたら私は…。魔法使いはイスから立ち上がり、シンデレラに向かってゆっくり歩き出す。
「シンデレラ?困っているあなたの前に私が現れたこと。あなたが見事、王子の目に留まったこと。ガラスの靴を落としたこと。姉が靴を履けたこと。そして、都合よく私が現れたこと。全部、偶然かしら?…ひひひ…!」
魔法使いは不気味に笑い出す。
「…さあ、話を最初に戻すわ。私の魔法は十二時で解けるといったわね?ごめんなさい。実はそれは嘘。ひひひ…!私の魔法は私によってでしか解けないわ。そう…それがガラスの靴が今もここにある理由。つまり、どういう事かわかるかしら?ひひっひひっひ…!いま、あなたには魔法がかかっている。そう姿を変える魔法…。もう一度言うわよ?『私の魔法は私によってでしか解けない』。ねえシンデレラ?もし…私が、魔法を解かないといったら?ひひっひっひひひひっひ!」
「いや…!」
「本当に面白かったわ!シンデレラ!ガラスの靴ひとつでここまでするなんてね。ひひっひひひ!!本当にバカな子ね。人を殺めてまで復讐をしてあなたが残ったものは何?!その男の体?!ヒヒヒヒ!!その体じゃ、王子様との結婚も無理ねぇ!!ひひヒっヒひひ!」
魔法使いは、シンデレラの絶望する顔を見て、さらに激しく笑う。
「どうして…どうして?どうしてこんなこと!」
「ヒヒ…!どうして?あなたと初めて会ったとき言ったでしょ?シンデレラ。私はね、困っている人がいると、放っておけないのよ。」
魔法使いはシンデレラの目の前までやってくる。
「もっと…困らせたくなるからねえ…!ヒヒヒヒヒヒ!」
その瞬間、シンデレラの中で何かが音を立てて崩れ落ちた。
「ア…あああアアアあああああああああああああああああ―ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
魔法使いに飛び掛る。が、手ごたえはなく、シンデレラはそのまま床に倒れる。
耳に、不気味な笑い声が響く。すぐに顔を上げるが、そこに魔法使いは居なかった。古くてみすぼらしい小屋も、何も。
ただ、森の中に誰も知らない男が一人。




