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ガラスの靴  作者: Ratio
3/5

第三話「姫になった姉」

姫になった姉は、喜んで王子様の元へ向かうが…。

 姉は召使いの後ろを付いていく形で城の廊下を歩いていく。夜の城は昼間と打って変わって静かで、どこか不気味に感じられる。しかし、今の姉はそんなことは気にもせず、上機嫌に召使いの後をついていっていた。

 しばらく歩くと、召使いは古びたドアの前で立ち止まった。姉もそれを見て立ち止まる。

「このお部屋でございます。どうぞ。」

召使いはギィ…と、ゆっくり木製の扉を開け、手のひらで部屋の中をさした。

「ありがとう…。」

姉は自分の胸が高鳴っているのを感じていた。ゆっくりと中をのぞく。小さな部屋で、イスや、木の箱が沢山おかれていた。しかし、王子の姿は見当たらない。

「あら…王子様はまだいらしてないの?」

「どうやらそのようですね。もうじき来ると思いますので…しばらくお待ち下さいませ。」

 召使いは部屋の外を見ながら、静かに答えた。

「そう、わかったわ。」

 姉は部屋の中を見渡す。床に埃が積もっている、長い間、人が入っていないんだろう。どうして王子様はこんな場所を選んだのだろうか。こんな、人気の全く無いような場所で…。姉は不思議に思いながら、近くのイスに座ろうと思ったが、これも埃がすごくて断念した。


―バタン!


 姉がその音驚き、振り向くと、部屋の扉が閉められていた。そして、その横には召使いがひょろりと立っている。その無表情な目はじっと姉を捉えていた。

「な、なに?」

 姉は戸惑い、尋ねる。

ガチャ…召使いは今度はドアの鍵をしめた。

「どうしたの?鍵閉めたら王子様が入れないじゃない。」

 姉の声は自然と大きくなる。この城に来て、初めて自分の身に危険を感じていた。

 召使いは不気味に微笑む。

「くく…そうですね。これで、王子様はこの部屋に入れなくなりました。…いや、誰もこの部屋に入れない。くくく…完璧だ…!」

「…!」

 この男…まずい。早くここからにげないと…。姉は部屋の壁ぎりぎりまで下がり、できるだけこの召使いはなれようとしている。

「一体何なの?あんた誰なの!?」

「誰か…ですか。…わかりませんか?」

 召使いは口元に笑いを浮かべながら、静かに、姉に近寄っていく。

「私はあなたになんて会ったことないわ!」

 姉は恐怖と混乱で、ほぼ叫んでいるように言った。

「くくく…そうでしょう。『会ったことは無い』…はは!…はははは!」

 召使いは高らかに笑いながら、懐からナイフを取り出した。その切っ先は鋭く、光を反射させている。

 それを見て、姉はペタンと腰を抜かす。

「…な、なに…?私は姫なのよ?そ、そんなことしたらどうなるかわかってんの!?」

 召使いはまた、ニヤリと笑い、首をかしげる。

「さあ…?わかりません。くくく…私…あなたに会ったこと無いんでね。」

 そう言終わり、召使いは姉めがけて、走り出す。

「きゃあアアあああああああああああああああああああああーー!」

 誰もいない長い廊下に、悲鳴がむなしく響いた。


「さようなら…姉さん。」


 その召使いはかすかに、そうつぶやいた。

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