第三話「姫になった姉」
姫になった姉は、喜んで王子様の元へ向かうが…。
姉は召使いの後ろを付いていく形で城の廊下を歩いていく。夜の城は昼間と打って変わって静かで、どこか不気味に感じられる。しかし、今の姉はそんなことは気にもせず、上機嫌に召使いの後をついていっていた。
しばらく歩くと、召使いは古びたドアの前で立ち止まった。姉もそれを見て立ち止まる。
「このお部屋でございます。どうぞ。」
召使いはギィ…と、ゆっくり木製の扉を開け、手のひらで部屋の中をさした。
「ありがとう…。」
姉は自分の胸が高鳴っているのを感じていた。ゆっくりと中をのぞく。小さな部屋で、イスや、木の箱が沢山おかれていた。しかし、王子の姿は見当たらない。
「あら…王子様はまだいらしてないの?」
「どうやらそのようですね。もうじき来ると思いますので…しばらくお待ち下さいませ。」
召使いは部屋の外を見ながら、静かに答えた。
「そう、わかったわ。」
姉は部屋の中を見渡す。床に埃が積もっている、長い間、人が入っていないんだろう。どうして王子様はこんな場所を選んだのだろうか。こんな、人気の全く無いような場所で…。姉は不思議に思いながら、近くのイスに座ろうと思ったが、これも埃がすごくて断念した。
―バタン!
姉がその音驚き、振り向くと、部屋の扉が閉められていた。そして、その横には召使いがひょろりと立っている。その無表情な目はじっと姉を捉えていた。
「な、なに?」
姉は戸惑い、尋ねる。
ガチャ…召使いは今度はドアの鍵をしめた。
「どうしたの?鍵閉めたら王子様が入れないじゃない。」
姉の声は自然と大きくなる。この城に来て、初めて自分の身に危険を感じていた。
召使いは不気味に微笑む。
「くく…そうですね。これで、王子様はこの部屋に入れなくなりました。…いや、誰もこの部屋に入れない。くくく…完璧だ…!」
「…!」
この男…まずい。早くここからにげないと…。姉は部屋の壁ぎりぎりまで下がり、できるだけこの召使いはなれようとしている。
「一体何なの?あんた誰なの!?」
「誰か…ですか。…わかりませんか?」
召使いは口元に笑いを浮かべながら、静かに、姉に近寄っていく。
「私はあなたになんて会ったことないわ!」
姉は恐怖と混乱で、ほぼ叫んでいるように言った。
「くくく…そうでしょう。『会ったことは無い』…はは!…はははは!」
召使いは高らかに笑いながら、懐からナイフを取り出した。その切っ先は鋭く、光を反射させている。
それを見て、姉はペタンと腰を抜かす。
「…な、なに…?私は姫なのよ?そ、そんなことしたらどうなるかわかってんの!?」
召使いはまた、ニヤリと笑い、首をかしげる。
「さあ…?わかりません。くくく…私…あなたに会ったこと無いんでね。」
そう言終わり、召使いは姉めがけて、走り出す。
「きゃあアアあああああああああああああああああああああーー!」
誰もいない長い廊下に、悲鳴がむなしく響いた。
「さようなら…姉さん。」
その召使いはかすかに、そうつぶやいた。




