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婚約者は闇の令嬢  作者: 朽木希有
出会いの序章
1/36

銀と黒の交錯

これは、とある少年と少女の出会いの時のこと


======


サブタイトルを変更しました。

今のところ内容変更なしです。


飛柳(ひりゅう)家の息子は突然変異。

この世に生を受けて七年、秦夜はこの言葉をずっと言われ続けてきた。

両親はこの件について秦夜に気にするな、と言ってくれるのだが気にしないのもさすがに限界がある。


「お前、本当にあの飛柳家の子供なのかぁ?相変わらずムカつく髪の色しやがって…!」


目の前には秦夜と同じ頃合いの少年が五人、秦夜を囲むように行く手を塞ぎ、どの少年も光を反射するような金色の髪と青い瞳を宿していた。


対して秦夜は銀色の髪と青い瞳。

たかが髪の色だが、されど髪の色。

特に秦夜が家族と共に過ごしている"一族"というコミュニティではこの髪色の違いは大きな問題である。


何故なら一族は自分達が優れた者達だと自負して止まず、その象徴でもあるその自分達の容姿は他を見下す程。


金髪碧眼至上主義。

それがこの一族というコミュニティの誇りであり、常識なのだ。


更に一族内でも有力な家柄というのものが存在していて、秦夜の家名自体はそこまで有力ではないが秦夜の両親が仕えている家が有力…というより最強の家柄なのでそういった後ろ盾もあり、飛柳家自体もそこそこ一族では有名である。

そんな飛柳家の息子が一族内でも珍しい銀髪となると大人は奇異の目で、子供はやっかみが強くなる。


(だけど、コイツら阿呆だな…。さすがに"ここ"で問題起こすのはナンセンスだろ)


秦夜が金髪の少年達に突っかかられているこの場所こそが一族内で最強の家柄の屋敷だからだ。

今日はこの屋敷でこの屋敷の主人の跡取りが初めて一族にお披露目される日で、恐らくこの少年達もそのお披露目のお茶会に参加する目的でここを訪れているのだろう。

秦夜の目的はこの家に仕えている両親の手伝いの為に呼ばれていて、今日のお披露目会にはコミュニティに所属している一族の者の殆どが参加しているから実際のところこの屋敷に出仕している者達だけでは手が足らない。


幼い秦夜に手伝えることは少ないとは思うが、是非来て欲しいと両親に頼まれたら断る訳にもいかないと思って秦夜はこの屋敷に来ていたのだ。


手伝いの為に屋敷の裏手側に来ていた秦夜だが、運悪く屋敷の関係者が誰もいない時にこの少年達と出会してしまった。

今誰も居ないからといってこの屋敷内で直接秦夜に何かを働くことはかなりリスクのある事ではあるが、少年達は恐らくそこまで気が回っていない。

目に入った相容れないモノを攻撃することしか考えていないだろう。

秦夜はそういう事に遭遇するのはもう何度もある。

だが、何度も経験しているからといって自分の変えようがない容姿に対して何か言われる事に慣れることなんて七歳の少年にはまだ早過ぎる事象だ。


「そもそもお前が本当に一族の者なのかも疑わしいって俺の親が言ってたぞ」


「俺もその話、親から聞いたー」


「俺も聞いたな」


秦夜を囲んでいる少年達の中心に立っている少年の声に他の少年達も同調していて、その声が雑音に雑音を重ねた不協和音のように耳に届く。

不快感だけじゃない、嫌悪感も重なったその声は批判めいて誹謗めいていていた。


(これだから…嫌いなんだ…一族なんて…)


七年間続くこの視線と言葉の応酬に秦夜はもう嫌気が指してきていた。


秦夜は目を瞑って耳を塞いで(うずくま)ってしまおうとした。

だけどその瞬間、抑揚のない澄んだ声にその行動を阻まれてしまった。


「くだらないこと、しているのね」


秦夜を囲んでいた少年達も秦夜も一斉にその声の主のもとに体を向けて注目する。


そこに居たのは一人の少女だった。

秦夜やその場に居た少年達より一回り背が小さい彼女は白い陶器のような肌に白のレースとフリルの布地を纏わせ、こちらに目配せした瞳は秋の晴れた空のように青く、風に(なび)く髪は夜の帳のように漆黒の色をしていた。

一族の者はそれなりに美しい者が多いが、彼女は段違いに美しく、声を出すことを忘れてしまう。

だが、それだけではない。

幼い彼女から発せられた圧倒的な存在と威圧。

ただ立っている、それだけで平伏してしまう程の"上に立つ者"の資質を感じる。


その場に居た全員が固唾を飲んで彼女の空気に飲み込まれていたが、その沈黙を破ったのは他でもない彼女だった。


「…もう貴方達は此処に居なくていいわ、下がりなさい」


そう投げかけられた少年達は言葉を詰まらせて一歩ずつ後退していく。

普通に考えたらこんな小さな少女にそんな言葉を掛けられたところで聞く義理など起こる筈がないのに、有無を言わさない"何か"をその場にいる全員が感じてしまっていた。


「去りなさい。二度は言わないわ」


空気が痺れるような威圧感でもう一声少女が放つと少年達は我先にとその場から逃げるように退散していった。


思わずその場に座り込んでしまった秦夜は確実に逃げ遅れてしまったような形で少女と残されてしまい、未だに威圧を放つ彼女を感じながら畏怖の念で体を震わせていた。

少年達が見えなくなって漸くその空気が和らいだかと思ったら少女は秦夜に視線を傾ける。


「…貴方はどうして何も言い返さなかったの?」


それは秦夜に対する少女の純粋な疑問であったようだが、今の今までの流れから秦夜にはただの尋問のようにしか捉えきれなかった。


「…ど、どうして…って……」


紡げた声はたったそれだけで秦夜は思わず自分自身が情けなくなった。

それ以上にこの先の答えを口に出してしまったら、現状から踏み出してしまう気がして怖かった。

だが、彼女の質問を無視する事も誤魔化す事も出来ないとも感じて、秦夜はゆっくりと答える。


「…何か言ったところで意味なんかない。俺は一族の中ではあぶれ者なんだ。髪の色が違う…この事実だけで一族は俺を認めない…」


「…そうなの」


秦夜の答えに少女は秦夜を見つめたままそう呟く。


自分の出した言葉にギュッと心臓を掴まれたような感覚がして秦夜は思わず左胸のシャツを握り締める。

紡がれ織られた繊維が少しだけ切れる音がして自分のシャツが皺どころか破れそうになっていることに気づいてはいたが、握り締めることを止められそうにない。


そう思っていたのに握り締めていた手の甲にふと別の感触が重なって秦夜はその力を緩めていた。

重なっていたのは暖かいのか冷たいのか分からない少女の掌で、少し前屈みになりながら彼女は掌を重ねていたから秦夜の顔のすぐ側に少女の顔が近寄っている。


「姿形は関係ない。自分がどう()りたいかが大事だと思う」


「え…」


辛そうな苦しそうな様子で眉を(ひそ)めた彼女が秦夜にそう告げる。


「…私も自分の存在が何なのか、考えることを覚えてからずっと考えてる。未だに答えは分からない」


一瞬だけ遠い目をして何かを考えた少女は言葉を一度切って飲み込んだ。

そしてもう一度秦夜を見つめなおして更に言葉紡ぐ。


「…でも、最後に決めるのは誰でもない自分自身だよ。生き方も在り方も自分で決めていい筈…」


「……」


少女の言葉に秦夜は言葉を失ったまま傾け続けた。

その言葉に驚きも否認も不安も抱えてはいたが、ほんの少しだけ希望も感じ取っていた。

それは両親の言う"気にしなくていい"とは違って、聞き入ってしまう何かを秦夜に与えてくれていた。


「…いつだって自分が決めた道に進みたいと思っているから」


「……」


「私は…そう思ってこれからも生きていくつもり」


そう言って少女は秦夜の手から自分の手を離していく。

急に離れていった彼女の感触に寂しさを感じて思わず秦夜は彼女を真正面から見つめていた。

言葉には力強さを感じていたが、秦夜が捉えた少女の青い瞳は少しばかり揺らいでいるように見える。

不意に少女は視線を逸らし、そして体の向きも反転させて秦夜から完全に背中を向けてしまった。


「…貴方とはまた会いたい。いつか、また…」


そう言い残して少女は歩き出してしまう。

声を掛けようと思うのに声も出ず、引き止めようと思うのに体が動かない秦夜はその場に座り込んだまま彼女を見送ることしか出来なかった。

そして物語は九年後へと紡がれる

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