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やっぱ意味不明じゃん

§



「ええっと……今後のスケジュールと役割分担の話でしたが、その前に……2B、仮装の出し物は決まってる?」


「あ、はい、これで」


モヒカンが企画書(といってもペラ紙一枚)を差し出す。


受け取ったメガネくんはそれを見るなり眉を潜め、書記だか副委員長だかのメガネトリオで他の資料と突き合わせて内容を確認し始めた。


こういう動きがあまり良い兆候じゃないっていう認識は万国共通で世代も男女の壁も超えるよね。


「この内容は第三候補まで含めてもう他のクラスがやることになってるから変更して」


やっぱり……

……って、はあ!?


いや、待て待て。

なんでうちのだけが却下?


このエセインテリメガネザル、ちょっと遅刻したからってそれは意味不明だし、いくら何でもひどいだろ。


理由を述べよ、納得できる理由を。


「すいません、なんで他のクラスのが通ってうちのが却下なんでしょうか?」


アタシが手を上げて発言すると、メガネザルだけじゃない……談話室の背後の空気が変わったのが分かった。


比喩ではなく大袈裟でもなくザワッという音が聞こえた。


でもちょっと待って、今のセリフは攻撃的ではなかったはずだ。

敬語使ってるし、最初に謝ってるし、アタシにしてはかなり可愛い感じだったんだが。


「(ナバホ)」


いやだからちょっと待てモヒカン。

もしかして今のは『やめとけ』って感じか?


だって理不尽は理不尽だろ?


遅刻しただけで話し合いの場も交渉の余地も与えられないなんて意味不明だろ?

意味不明なものはほっといたらダメだろ?


「(ハア……)あのねえ……」


眉間に皺を寄せて溜息交じりで発せられたその返しの言葉……意外なほどに委員長のメガネザルは好戦的で喧嘩腰だった。


それでも委員長という役職柄だろうか、冷静を保ち慎重に言葉を選んでいるのか、メガネのブリッジを押さえてクイッと上げると、一つ溜息を吐いて次の言葉を飲み込んだ。


その沈黙を突いて背後の囁きが聞こえてくる。


……「(おいおいマジかよ)」


……「(なに言ってんだ図々しい)」


……「(なにアレ)」


多くは溜息交じりの声にならない声、しかし確実に呟いているし、確実に届いている。


聞こえよがしに。

そう、こちらに聞こえることを意図し、そして周りの同意を得るように。


こういう奴らは味方がいないと何も言わないし、例え言ってもそれを堂々直接ぶつけてこない。


そして大抵の場合、こういうのがアタシの導火線に火をつけてしまう。


「なんすか? 言いたいことあんならはっきり言って下さいよ」


あ、ちょっと今のはかなり好戦的だった気がする。


モヒカンも『あーあ』って感じで目を閉じて天井仰いだし。


もしかしてヤバかった?


その嫌な予感の通り、一触即発の緊張感で室内の空気が冷え冷えとしてくる。


「……(ナバホ)」


うん、分かってるよモヒカン。


その声の音にはさっきより濃厚に『やめとけ』という意味が込められてるよな?


言い方が悪かったのは認めるよ。

謝れってんなら謝る。


でもアタシははっきり言ってくれないと分からんし、分かりたいものを分からんままにしておきたくないんだ。

アタシの性分だし、モヒカンだって知ってんだろ?


「おい、ええ加減せいやお前」


後ろの席の奴が(たぶん先輩だろう)ドスの効いた喧嘩口調で茶々を入れてきた。


はっ、味方が増えたから強気になったか?


それにしたって大阪人が聞いたら激怒するレベルのド下手関西弁交じりのお前のそれも意味不明なんだよ。


『ええ加減せいや』も何も、まだ二言しか発してねーし、ゴネてるわけでもねーだろーが。

分からないことを教えてくれって言ってるだけだ。


「あぁ?」


あらやだアタシったら端ない。


イラついて石化光線バリバリの魔眼で背後を睨みつけると、それを浴びたすべての女子とほとんどの男子は視線を落としたり目を逸らしたりだったが、残った一部の男子グループが睨み返してきた。

チッ、こいつらはイージスの盾を持っていやがったか。


そのガラの悪いオス共の中心にふんぞり返るのはジャガイモのようなイガグリ頭で図体のでかい武道系の先輩。


名前は知らないがたしか柔道部。

『ええ加減せいや』発言も恐らくこのジャガイモだろう。


不良が同類に喧嘩を売るような視線で睨んでくる。

決してか弱い後輩女子を見る目ではない。


相当寝技を鍛えているのか、眉毛がないし、瞼は腫れてるし、耳はカリフラワー。

見た目オークだ。

怖え~。

ブヒブヒ。


「はいストップ! 原、やめよう」


委員長のメガネザルがサッと手を上げてアタシとジャガイモ(=原)を制する。


ジャガイモは苦々しく表情を歪めたが、視線を逸らして溜息を吐くことでメガネの言葉に従う意思を示し、それを確認したアタシも視線を前に戻した。


先に視線を逸らした方が負けっていう、意味の分からない不良ロジックの小さな勝利に自虐的満足感を覚え、そしてすぐに自己嫌悪した。


「君、名前は?」


「……2B、……稲葉っす」


「稲葉さん、じゃあ言わせてもらうけどね」


落ち着いていて澱みも迷いもない、その声のトーンではっきりと分かった。


このメガネザルは自分が間違っていないという確固たる自信を持っている。

そういう声だ。


だからアタシはその一声だけで、この場においてアタシが完全に悪なのだということを理解した。

モヒカンは最初の騒ついた雰囲気だけでそれを察していたんだろう。


でも遅刻したくらいでなんでこんだけ悪なの?

やっぱ意味不明じゃん。


教えてくれるってんなら聞いてやるよ。







読んでくださりありがとうございます。

続きもよろしくお願いします。

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