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ちょっとも分からんもん

§



結局、その場ではアタシとモヒカンのことは否定も肯定も明言せずに、みんなの想像にお任せしたのだが、想像に任せるってことはもう肯定したのも同じってことで、まあクラス全員が二人がくっついたと認識したみたいだった。



アタシ達を代行した委員長志村とチャラオカはしっかり仮装行列の企画をまとめてくれていて、『必見!世界の偉人達』って内容でまとまっていた。


感謝……と言いたいところだったが、欠席裁判というか、アタシとモヒカンがインディアンの仮装をすることが決まっていて、とても素直に礼を述べることは出来なかった。



「歴史上の偉人がテーマじゃねーのかよ!!」


ってツッコミは、祝賀ムードの教室の中ではまったく受け入れてもらえなかったので、とりあえず張本人であろうチャラオカだけは魔眼マックスで石化しておいた。



三々五々で解散の後、脳筋ゴリラはアタシとモヒカンをタクシーで病院まで連れて行ってくれて、車の中でしきりに謝り、それ以上にアタシのビンタを絶賛した。


後でウナミに聞いた話では、復活した脳筋ゴリラは実行委員を決めるのが遅れたことをちゃんとみんなに謝って、アタシとモヒカンのことを助けてやってほしいと頭を下げたらしい。



アタシの右手の怪我は幸いにも骨には異常がなくて手首の捻挫で済んだ……ただし全治一か月……捻挫って長引くんだって。



ゴリラは病院の帰りもタクシーで家まで送ってくれて(あ、モヒカンは先に降ろされて帰ったよ)、自分の不注意で怪我をさせてしまったとお父さんとお母さんに何度も頭を下げて謝っていた。


事前にアタシから大したことはないと電話しておいたんだけど、お父さんもお母さんも少し蒼褪めて言葉少なだった。


まあ問題にはせずに穏便にと、自分が原因だからお詫びに是非ということで治療費を脳筋ゴリラが持つということでなんとなくまとまった。


お父さんへの言葉遣いとか隣で聞いてて、脳みそ筋肉の自己中で、無邪気な能天気に見えても、これでも一応大人で社会人なんだなあ……と、ちょっとだけ見直してみたり。


でも実は、脳筋ゴリラの顔の左半分は、たった今死闘を終わらせてきたばかりの総合格闘家のように腫れあがり、左目の周りが変色し始めていて、お父さんもお母さんも恐怖のあまり絶句して言われるがままだっただけ……というのが真相。


そして両親ともに、居心地が悪そうなアタシの表情から何か不穏な背景を察したのか、怪我の理由すら詳しくは聞かなかった。


……ごめん……たぶんあんたたちの想像通りだよ、お父さん、お母さん。



んで、その夜のモヒカンとのLINEは、お互いにどうしていいか分からないことが滲み出るようなものに終わった。


でもその前に聞いてよ。

あいつ自分から連絡するとか言うから、ドキドキしながらずっと待ってたのに、なかなか打ってこないの。


こっちから打とうかとも思ったけど、なんか先に打ったら負けみたいな気になっちゃって、しまいには本気で眠たくなって不貞寝してやろうと思ったら、ようやく来たって感じでさ。

ひどくない?


まあ、理由を聞いたらしょーがねーなって感じだったからいいんだけどね。



モ『ウス。起きてる?』


    ナ『遅い』

     『起きてるけど』

     『眠いからもう寝るとこ』


モ『悪い悪い』

 『親の事情聴取』

 『絞られてた』


    ナ『え』

     『こっちはよゆーだったけど』

     『大丈夫?』


モ『へーきへーき』

 『前科あるから長かったけど』

 『基本、勉強やってりゃスルーだから』

 『それよか脳筋の顔やばかったよなww』


    ナ『うぃ』

     『マジヤバかった』

     『あのゴリラ大丈夫かな?』


モ『平気だろ』

 『真っ直ぐ歩いてたし』

 『もしかすると明日は休むかもだけど』


    ナ『問題にならんかな』


モ『恥ずかしくて問題にしねーって』


    ナ『なんか』


モ『ん?』


    ナ『嘘ついて』

     『誤魔化して』

     『そんで許されていいのかな』


モ『いいよ。気にすんな』

 『俺が許すww』

 『つーかこれ以上の落とし所ないし』

 『脳筋にもちょっとはカッコつけさせてやんねーと』


    ナ『わかった』

     『ありがと』


モ『右手、大丈夫?』


    ナ『へーき』

     『からだ洗うの大変だったけど』


モ『ほう?』

 『詳しく』


    ナ『詳しく? うーん』

     『痛くて力入んない』

     『いろんなとこ届かないし』


モ『Oh……』

 『他に?』


    ナ『あと着替えとかヤバい』

     『ブラ無理』


モ『想像中……』

 『ハアハア……』


    ナ『やめろ!』

     『変態!』

     『殺すぞ!』


モ『途中でやめらんねーww』


    ナ『……ヤメロ』


モ『ごめん』

 『てか寝るとこだったんだろ?』


    ナ『うぃ』


モ『今日はいろいろあったし。寝るか?』


    ナ『うぃ。寝る』


モ『決断早えーって』

 『ちょっとは悩んで』


    ナ『サーセン』

     『なんか最近眠いんだ』


モ『おK。じゃあまた明日な』


    ナ『うぃ』


モ『熱出たら休めよ。見舞い行くから』


    ナ『うぃ』


モ『おやす』


    ナ『おやす』



……とまあ、こんな感じ。


甘さのかけらもないけど、アタシとモヒカンならこんなもんだろうと思う。


だってそうでしょ?

少なくともアタシは昨日までこんな風になるなんて考えてもなかったし。


そもそも二人っきりでしゃべるとかもそんなになかったし、LINEどころか普通の会話だってそんなに長く話したことないんだよ。


そもそも付き合うとかそういうのどうすればいいのかちょっとも分からんもん。


あ、やべ、これ口癖にしようとしてるかも。



もっとこう、何というか……


『そっちから終わってよ』


 → 『いやそっちから終われって』


『やだやだ、そっちから終わって』


 → 『じゃあ明日はそっちからな』


……的なイチャラブなやり取りはまだまだ先のことになるのかもしれない。



寝落ちを理由にLINEをぶった切ったモヒカンには悪かったけど、その夜は眠いのに全く寝付けなかった。


身体が熱くなって、いろんなことを考えて、寝なくちゃいけないと思いながら、ドキドキして考えることが楽しくて。


アタシはいつからモヒカンのことを好きだったんだろうとか、自分のどこが気に入ったんだろうかとか、もしかして身体が目当て?とか、変なとこ見せたら嫌われちゃうんじゃないかとか、昔の思い出話とかそういうことも含めてね。


付き合い始めっていうのはだいたいそういうものだとウナミが言ってた。


(純粋無垢な天使に見えて、ウナミは中学時代から何人もの男からコクられて何人もの男と付き合い、何人もの男をフッてきた魔性の女属性も兼ね備えているのだ……因みに今はフリー)


そうなんだ。

眠れないから迷惑も考えずにウナミにLINEしてさ、起きていることを確認してから電話までしちゃって、深夜丑三つ時を超えても話し続けたよ。



それでもウナミはまったく嫌がる雰囲気もなく、アタシの毒交じりの甘ったるいノロケをすべてを受けきってみせて、電話中に本当に寝落ちしたアタシに怒りもしない……ホントに天使だよこの子は。






読んでくださりありがとうございます。

続きもよろしくお願いします。

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