表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/21

ないない! ないっしょそれ

§



「ナバホ、元平君殴るとか~、よく恐くないねえ」


毎度毎度モヒカンにやられる度に、ウナミは路地裏でブラウスの上からブラジャーのホックをはめ直してくれるのだが、結構難しいみたいでちょっと時間がかかる。


「え? ああ、知ってるっしょ? 幼稚園からずっと同じクラスだし、小学校の頃からこんな感じだし」


そう、アタシとモヒカンは幼稚園の年少から高校二年の現在に至るまでずっと一緒の組。


うちの高校は二年から三年でのクラス替えはないから、延べて十五年間連続で一緒の組になることが確定している。


過疎化と少子化が進む日本では珍しいことではないのかもしれないけれど、とりあえずこの辺ではアタシとモヒカンくらいのもので、それを知る周りからは『元町のちょっとした奇跡』と呼ばれている。


所謂『幼馴染』ってやつなんだけど、昔からなんだかんだとモヒカンの奴がちょっかいを出してきて、そのたびにアタシがビンタを喰らわすというのが、まあ、二人の間の定番みたいになってる。


クラス替えがあるたび、入学するたびに『ナバホ』という綽名から解放されることを夢見るのに、その都度モヒカンが邪魔をする。


こっちも負けずに『モヒカン』という綽名を定着させてやるんだけど、あいつはその綽名を結構気に入っている節があるので余計にムカつく。


「でもさ、元平君てちょっと恐いっていうか~、喧嘩とかするし~、キレるイメージがねぇ」


「ん~まあ、頑固で融通効かないし空手やってるからそう見えるけどね。でもあいつ無駄に喧嘩っ早いわけじゃないよ。自分のことじゃ全然キレないし」


小学校時代からそうだった。

モヒカンは自分が大事にしている何かが蔑ろにされた時にキレる……というより絶対に引かない。

相手が誰であってもだ。


クラスで育てていた花が荒らされた時。


友達がいじめられた時。


家族がバカにされた時。


大人や教師や先輩がみんなに理不尽をふるった時。


「ナバホはさ~、猛毒持ってるのに、なんだかんだ元平君のことは悪く言わないよね~」


そう?

死ねとか殺すとか結構ひどいこと言ってると思うけど。


「そうかな? てか猛毒ってなに?」


「あるんだろうね~、男気っていうのかな~? だから女子にも人気あるんだよねぇ。隠れモヒカンが結構いるって話だよ~」


「ぷはっ! なにそれ? 隠れモヒカン?」


猛毒はスルー。

まあ、自覚してるし、ウナミは理解があるからいいんだけどさ。


でも隠れモヒカン?

なにそれウケる。

隠れるってことは、悪いっていうか、後ろめたいっていうか、ばれたらやばいってことでしょ。

隠れキリシタン的な。


モヒカンの写真で踏み絵とかすんの?

そんな機会が巡ってきたら思い切り踏んづけてやるけど。

もちろん本人をね。


「元平君、目立つしね~。運動神経もいいし~、イケメンだし~、頭もいいし~……ぃよっ……と。ふぅ~、やっとできたぁ。ナバホ~、また胸大っきくなってない? Fだっけ~? それでこのウエストって、結構パクパク食べるくせにスタイル良すぎ~。うらやま~ってか、もはやジェラシーなんか楽々超えて殺意だよ~」


「殺意って……でもホント最近ちょっとブラきついかも……ってかウナミ、やたらあいつのこともち上げるね。もしかしてウナミも隠れモヒカンなの?」


「ちち違うよぉ。ほら手芸部の後輩がね、よく聞いてくるんだ~。一年女子の中じゃ人気上位ランカーなんだって~。『モヒカン先輩って彼女いるんですか~』とか、『好きな人とかいるんですかね~』とかよく聞かれてさあ。そんな話してると三年の先輩とかまで『どーなのどーなの~』って話に乗っかってきたり~。手芸部って結構本気で隠れモヒカンの巣窟っていうか~……あ、わわ私は違うよ~?」


「へえ、あいつがねー」


「ででででもでも~、みんな恥ずかしがるから誰かに言っちゃダメだよ~。私がばらした~ってなっちゃうし~」


「言わないよ。たぶんあいつすっげチョーシん乗るし」


「あははは、でもさ~、ナバホこそ元平君の事どうなの~?」


「へ? どうって?」


「付き合ったりしないのかな~って」


「プッハッ! アハハハハ! ないない! ないっしょそれ」


「う~ん、結構相性いいと思うんだけどな~」


「いやいやいや相性とか最悪だし! 付き合うとかないわ~。殴り合うとか刺し合うとかならあるかもだけど」


「あははは、怖~」


とかなんとか、そんな風に共通の知り合い(主にモヒカンくらいだけど)の話をしたり、ウナミの手芸部のこととか、来年の修学旅行のこととか、受験のこととか、テレビドラマのこととか、本とかマンガとかのを話していると、いつの間にか教室の前に着いてる。


そしてこれもいつも通りなんだけど、なんでかアタシが教室に入ると一瞬だけ静まるし固まるし冷えた緊張が走る。


んでウナミと一緒だと分かると、すぐにホッとしたように朝の教室の気怠いノイズが戻ってくるんだ。



……これは果たして、アタシの三白眼だけが原因なのだろうか。







読んでくださりありがとうございます。

続きもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ