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だが断る

§



「あー……んとな……なんつーか……うん……あれだ」



ん?


おい、ちょっと待て、なんだモヒカン、こんなキョドって歯切れの悪いのはお前じゃねーだろ。


そんでお前なんでそんな辛そうな顔して汗かいてんだ。


いや待て。

何だ?

なんか変だ。


何が変だ?

分かんない。


つーかアタシ何してんだろ。

誰もいない教室でモヒカンと二人で駄弁ってるとか。


あれ?

やっぱ変だ。


急に息が苦しくなってきたぞ。

首筋もドクドクいってる。


地震?

身体、揺れてない?


なんだこれ?



「よし、決めた。よく聞け。あのな」



あ、ちくしょう、目ぇ逸らしちまった。


「……なに?」



「だから、なんつーか、あ、あ、あれだ、うん。ホ、ホ、ホレた女の近くにいたいとか、助けたいとか、あああ当たり前だろってことだ」



……、

……、

……、

ぐふぅっ!!!


一瞬、視界が揺らいで心臓が止まった。


なに?

こいつサイキックか!?

つーかホントに心臓痛かったんだけど。

いや待て違うだろ!


マジか!

マジで言ってんのかこいつ!

ホレた女ってアタシのこと!?

だよね!?

この流れで聞き間違いはないよね!?

変な脳内変換はしてないよね!?

飛躍してる?

いや、ないない。

絶対してない。

冗談なのか?

冗談だったらマジでぶっ殺しますけど!!


「なに言っ……」


やだなにこの声。

アタシの声じゃないみたい。


「……ふざけんな」


低く籠った声で言い直したアタシのその言葉に、モヒカンはちょっとショックを受けたような表情を見せた後、目を閉じて唇を結び、溜息を吐きながら背筋を伸ばした。


そしてもう一度、鼻から息を吸い、意を決したように身体をこっちに向けて目を開けた。


んで、アタシは思わず仰け反っちゃったんだけど、これ普通の反応だよね?



「いや、マジ。ホントはテキトーに誤魔化そうと思ったけど、やっぱお前に嘘吐きたくねーし。小五の時からずっとだ。ホ、ホ、ホ、ホレちまったんだからしょうがねーだろ……ってクソ!! つーか待て! 今のなし! 噛んでるし、ホタル呼んでるみたいだし、もっかいちゃんと言うから」


ぷっ。

ホタル、ウケる。


いやでもそんなことより。

待って。


いやちょっと待てってモヒカン。

ダメだ。


無理。

ヤバい。

目ぇ見てらんない。

やだ!

やめて!

お願い!

言わないで!



「俺、イナバのことが好きだ! ずっと好きだった! 付き合ってくれっ!!」



がふっ!!!


強え……強えよモヒカンパイセン……パネえ……マジパナいっす。


ここで「イナバ」使ってくるとかよ。

真っ直ぐすぎて引く暇もねーよ。


ああ顔が熱い。

熱すぎて痺れてる。

鼓動で身体が揺れる。

眩暈がする。

耳鳴りもする。

息も苦しい。

また泣きそう。


どうしたらいい?

なに言ったらいいんだ?


だいたい好き嫌いでお前のこと考えた事ねーし。


じゃあどんな関係だっつったら、いつもクラスにいるのが当たり前でもう家族みたいなもんだろ?

もちろんアタシが姉貴だけどな!


「悪い……コクんならもっとビシッと決めるつもりだったんだけどな」


充分っす。

いやビシッと決まってたわけじゃねーけど、アタシをアワアワさせるのには充分効果ありだよ。


それよかなんだモヒカンその顔。

真っ赤だし、そんな自信なさげで情けない顔もあんま見ねーし、つーか初めて見るぞそれ。



……じゃあさ、アタシは今どんな顔してんだ?



「悪い……なんか言ってくれ」


いや言えねーって。

無茶言うなモヒカン。


つーかやべー。

やべーぞこれ。


例えばこれでイエスとか返事して付き合うことになったとして、こいつと毎晩電話とかメールとかすんの?


いやいやいやないだろ。


一緒に帰ったり?

土日はデートとか?


そんでキ……キキキスとか?


ももももしかしてももももっと先まで……

……

……

……

……とか?


ギャーーーーーーーーーーーーッ!!

やめてっ!!

今ちょっと想像しちまったじゃねーか!


「ナバホ、もしかして驚いてんのか? ちっとくれー分かってんのかと思ってたけどな」


分かんねーよ!!

そんなんお前、気配もなかったろーが!

それ以前に知ってんだろ!?!

アタシは言われねーと分かんねーの!

ちっとも分かんねーって!!



「……ちょっとも、分からんもん」



ちょっとやだ、なんなのこの声このセリフ。

チョー可愛いんですけどアタシ。

いやマジで今の録音しときたかった。



「……そか……悪い……」



で、また黙んのか?

いや待て。

もしかして返事待ってんのか?


こういう時って即答するもんなの?

パニクっててそれどこじゃねーって!!


つーかお前、付き合ってる奴いんじゃなかったか?

二股とかふざけんじゃねーぞ。


「でも……モヒカン……彼女いるんでしょ?」


おいおい、声震わせてんじゃねーよアタシ。

『るんでしょ?』……じゃねーっつーの!!


これじゃ彼女いなかったらOKみたいな流れになってんじゃねーか!!

クソ!!

今のは全力で取り消したい!!


「は? なんだよそれ。どこ情報だよ? いねーよ。つーかいるわけねーだろ。いたらコクらねーし。コクられたのも全部断ってるし。ショーボーん時からナバホのことしか見てねーって」


がはっ!!!


また心臓にズキューンて激痛が。

なにこれ心臓病?

肺に少し瘴気でも入った?

息止めて笑顔でサムズアップ?

なに言ってんだアタシ。

自分でも意味不明だわ!


言えねー。

なんも言えねー。

間が持たねー。


誰か助けて。


つーか心臓が激振孔喰らったみたいに尋常じゃなく暴れまわってんすけど!

血が噴き出して死んだら責任とってよね!


「あー……あのよ、ちょっと焦っちまったかもだけど、返事は今じゃなくてもいいから。こっちゃ六年越しだし、ちょっとやそっとじゃ気持ちは変わらん。コクっちまったからにはもう遠慮しねーし。ぜってーに引かねーから」


だはっ!!!


やめろやその真っ直ぐな感じ!

心臓が抉られんだよ。

息が止まんだよ。

ホントに死んだらどーすんだ!


……いや待て。


ちょっと待てよ。


でもそうか。

お前が遠慮しないなら、こっちも遠慮しなくていいってことだよな?


それがフィフティフィフティってもんだろ?


てめえに腹立つことだってたくさんあんだぞ。


いつもブラジャーのホック外される女子の気持ちを考えたことあんのか?


ナバホとか先住民族的な綽名をつけられた女子の気持ちを考えたことあんのか?


テメーのせいでジェロニモとか言われてんだぞ!



ああいいとも、お望み通り遠慮なく返事してやるさ。



誰がお前と一緒に帰って毎晩LINEとかメールとか電話とかするか!



誰がお前となんちゃらランドとか行ってチュロスやらポップコーンやら食って、行列に並んでキャイキャイ言うか!



誰がお前と映画とかショッピングとか行って帰りにカフェに寄ってスイーツ食って時間忘れて駄弁るか!



誰がお互いの家に行って試験勉強とか一緒にやってコーヒーブレイク中にちょっといい雰囲気になってキスとかニャーーーーーーーーーーーーッ!!!!

やめろ!

アタシ!

こいつとの幸せな未来予想図を描くな!


落ち着け!

深呼吸だ!


……

……

……

……

よし、覚悟しろ。



『だが断る』



これでいこう。

セリフは決まった。

この一言で終わりにしてやる。


お望み通りお前の心臓を止めてやるわ!

せいぜい失意のどん底に沈むがいい!




死ね!!!







「……アタシも、……好き」












読んでくださりありがとうございます。

続きもよろしくお願いします。

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