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全然いつも通りじゃない

§



モヒカンのそつのなさと手際の良さはクラスに戻ってからも発揮された。


午後の授業に入る前、担当の先生に五分だけ時間をもらってクラスメイトに事情を説明して、帰りのホームルームで時間をもらうことに同意を得た。


その次の休み時間には、既に決まっている他のクラスの出し物のコピーをクラス全員に配った。


アタシは午後の授業中に必死でアイデアを捻り出そうとしたが、モヒカンの言う通り、有名どころのアニメや漫画やゲームのキャラクターだとか、ご当地ゆるキャラだとか、お化けや妖怪なんかはだいたい他のクラスに決まっていて、思いつくものはかち合うものばかりだし、かち合わないものを思いついてもマイナー過ぎてドン引きされそうなものばかり。


だいたい一年から三年まで全二十四クラスあるんだから、メジャー系で二十四種類全部別の出し物って無理っぽいでしょ。

文化祭だって必ず喫茶店とかお化け屋敷とかかぶるじゃない?


まあ、それでも2B以外の二十三種類はかち合わずに出揃っているわけだから、先週までのそれぞれのクラスの実行委員の苦労も偲ばれるし、だからこそのアタシへの非難なんだろうと改めて痛感したよ。


午後の授業が終わって掃除が終わる頃には、アイデアの泉は枯れ果てて、脳みそは脱水症状の糖分不足……完全に白旗状態だった。


机に臥せって煙立つ塹壕よろしくな頭の中で力なく白旗を振っていると、ホームルーム待ちの間にモヒカンが隣に来た。


……小隊長殿、自分はもうダメであります。


「なんか浮かんだか?」


「ごめん、全然なんも思いつかんかった」


「謝んな。俺もだし」


「んー、そっか。……んじゃぁ、もうしゃーないっしょ。三人寄れば文殊の知恵? ってのもあるし、合議制っつーか円卓会議っつーか、みんなにアイデア募集でいいんじゃない?」


「待て、それだ」


「どれだ」


「歴史だよ、歴史上の人物。信長、秀吉、家康とか、他のクラスとちょいかぶりするとこあるけど、選択肢かなり広いしテーマ絞れば……いや、むしろ幅広にすればいけるんじゃねーか?」


おい、アタシのセリフのどこが歴史上の人物に引っかかった?


円卓会議 → 円卓の騎士 → アーサー王 → 歴史上の人物か?


文殊 → 菩薩 → 仏教 → ブッダ → 歴史上の人物か?


いずれにしても遠すぎるしどっかで飛躍してんだろ。

お前の頭ン中の回路はどーなっとんだ。

……つーかアタシもか。


まあいい、こいつの脳内変換の妙はさておいて、それはそれでなかなかナイスなアイデアに思えるし、確かに幅広いから他のクラスともかち合わずにできそうだ。


「なるほど……武蔵とか小次郎とか、ザビエルとかもいいかも」


「プハッ! ザビエル! サイコー! シスコ(=小野寺)にやらせようぜ」


そう、小野寺は日本人離れしたナチュラルザビエルフェイスで、既に中学時代からシスコ(=フランシスコのシスコ)という綽名を持っているから、これ以上の適任者はいない。


となればザビエルは確定。


そしてせっかくシスコ小野寺という最高の素材を持っているんだから、極限までザビエルに寄せていきたいと思うのは人情である。


ご存知の通り、特徴的なのは髭と頭。


「んー……でもさ、髭を付けるのはまだしも頭を剃るのはいくら何でもかわいそうでしょ」


「ひでえな……剃らねーよ。そういう発想が出るってのがもうジェロニモだろ」


「うっせ! 別に頭の皮剥ぐっつってねーし」


「怖っ!」


てなアホな会話をしていたら、ウナミとかチャラオカとか周りで聞いてたクラスメイトがワラワラと集まってきた。


「ナバホ~、聞こえたよー、歴史ものっていいかもね~」


「新撰組とか? 時代劇っぽく殺陣とかやったら分かりやすくてカッコいんじゃね?」


「もっと古くてもいいかも。卑弥呼とか聖徳太子とかさ。みんなが知ってて一発で分かるやつ。審査員て年寄りばっかだろうし」


「でもザビエルいんだし、世界の偉人に広げりゃ選択肢も増えるんじゃないかな?」


「幅広いとテーマが薄れなくない?」


「んじゃあ日本に関わった世界の偉人とか?」


「急に狭すぎ!」


モヒカンが午後の授業前にみんなにお願いしていたおかげか、なんだかんだと他の連中も寄ってきて、期せずしてそのままアタシとモヒカンを中心にクラス全員の座談会が始まった。


すでにザビエルが決まっているシスコ小野寺を「頭剃れ剃れ」とみんなで茶化したり、誰が誰に似ているからとか、スマホとか歴史の教科書から有名どころを探したり、それ見て冗談飛ばし合ったり。


面白おかしくみんなのアイデアを取り入れて、題材も配役も順調に決まっていった。


「モヒカンとナバホっちは有名人じゃん? 名前通りインディアンの恰好すれば超ウケるっしょ~♪」


チャラオカ、てめえ、なんだナバホっちって。

アタシは育てゲーか。

つーか別に有名じゃねーし、ジェロニモとか言われて結構傷ついてるし、そもそもウケるとかインディアンに謝れ。


「はあ? 偉人と関係ねーだろーが。じゃあお前はチャラい格好でもすりゃウケんのか!?」


「ひでえ!! そりゃひでえよぉナバホっち~」


「やかましい! 甘えんな気持ち悪い! つーかナバホっち言うな!」


「ぐはっ! 効くわ~……でもちょっと快感かも♪」


いつも直接いじってこないチャラオカも平気でアタシをいじり、周りも同意するように笑い、アタシの毒ツッコミで笑い、チャラオカの返しでさらに笑う。



全然いつも通りじゃない。



まったくもって違う。



そんな、まあ、いつもと違う雰囲気の中、脳筋ゴリラが能天気にウホウホと現れた。







読んでくださりありがとうございます。

続きもよろしくお願いします。

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