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2-3 金の少女、ぶん殴る



  †



 ウーゴの街の冒険者ギルド。

 その建物の裏手は、高い壁に覆われた広場になっている。

 剥き出しの地面のその広場は、訓練場ということで戦闘訓練のために使われる場所だ。


 その広場に、今は五人の男たちと、二人の少女が向かい合っていた。


 先頭の男は盾士。大型の金属盾と、片手剣を手にしている。

 その後ろには槍士と斧士。

 さらに後ろには杖を持った魔術師と弓士という布陣だ。


 盾士が受けて斧士と槍士と魔術士がダメージを稼ぎ、弓士が援護するというシンプルで基本的な布陣だ。


 双方が手にする剣や槍、そして矢は先端まで木製の模擬武器である。

 ホンモノを使用するにはギルド支部長の許可が必要なのである。流石に私闘紛いの模擬戦に許可が下りる筈も無い。

 普段は手甲を装備するソーラヴルも、この時ばかりは素手に革布を巻いただけだった。


「……で、おめぇは参加しねぇのかよ。父親じゃねえのかよ」


 揉めていた男――斧士の男が、リオンに問いかけた。

 リオンは野次馬たちと並んで、壁に備えられている観覧席に居たのである。


「確かに俺は父親だが、二人が冒険者になるからには甘やかさないと決めているんだ。この程度のこと、自力で乗り越えられなくてどうする」


 男たちが仕方なさそうに肩を竦めた。


「ひでえ親もいたもんだぜ。なぁ、ガキども。今なら泣いて土下座すれば許してやるぜ?」


「それはこっちの台詞!」

「……覚悟する」


 ソーラヴルが両手をぶつけて構えを取る。

 斜め後ろに立つセレネルーアは矢を番え、弓の弦を引いた。


「――かわいくねぇガキどもだ」


 斧士の男の言葉で、一行の悪ぶった雰囲気がすうっと静かになった。

 リオンはそれを見て、少しばかり感心した。ガラの悪いチンピラまがいの冒険者かと思っていたが、危険度Bの鬼猿(オニマシラ)討伐に招集される実力は確かにあるらしい。


 内心でニヤリと、リオンはほくそ笑む。


「じゃあ、このコインが落ちたら開始ってことで。……いくぞ?」


 リオンが指で銅貨を弾く。

 くるくると回転したコインが、五人と二人の丁度中間に落ちた瞬間。


 戦闘が始まった。



  †



 開始と同時に地面を蹴ったのは、ソーラと盾士の男だった。


 互いに距離を詰めて、自分の間合いを確立しようとする。


「おおお――【闘気護盾(オーラシールド)】!!」


 そして盾士が、前面を覆う闘気の盾を出現させた。

 これでソーラの突進を止め、同時に後衛たちへのセレネの狙撃を防ごうという魂胆である。それは盾士の基本にして神髄と言える動作だった。


 盾士を避けるなり飛び越えるなりすれば、槍や弓の餌食となる。武器の無い格闘士(ソーラヴル)にとって、最も厄介な状況となる。


 だがその目論見は、見事に外れた。

 否、正面からぶち抜かれた、と言うべきか。


 次の瞬間、盾士の男は信じられない物を見た。


「ああああああ!!」


 後ろ足で地面を蹴ったその力を余すことなく、ソーラは拳に乗せた。


「【陽拳・黎明一閃】!!」


 空気を揺るがす轟音が響き、ソーラの右拳が、闘気の壁ごと木製の盾をぶち抜いたのである。砕け散り空気に溶けていく闘気の欠片――次の瞬間には、跳躍したソーラの飛び後ろ回し蹴りが、盾士の男の兜側面に炸裂していた。


 盾士の役割は文字通り、その身を盾として後方の味方を護ることである。

 故に重厚な盾と全身鎧に身を包み、敵の攻撃を防ぎ、往なし、止めることに心血を注ぐ。それが全て、それが矜持と言っても良い。


 例え見上げる程巨大なトロルの拳であっても、盾士の男は止める自信があった。と、いうのに――


 油断していたとは言わない。

 だが、こんな小娘の、たった一撃で!?


「うぐッ!? ……ふがっ!?」


 驚愕する間も無くソーラの回し蹴りを食らって、仰向けに倒れる盾士の男。

 兜の面頬が凹んでいる。

 ソーラはその盾士の男の顔面に着地した。


「野郎ッ!」


 すかさず、槍と斧の攻撃がソーラに向かって飛んでくる。

 だがソーラはバク転でそれらを避けた。

 追う男たちはしかし、連続で飛来した矢のために追撃が叶わなかった。

 セレネが放った矢は槍士と斧士の顔面を正確に狙い、防御と回避の必要があったからだ。

 斧士の男は得物の斧の腹で、矢を弾いた。

 槍士の男は回避を選んだ。


 そして避けられた矢が飛んで行った先には。


「――なに!?」


 走るソーラを狙っていた、弓士の男。

 その弦を掴む右手に矢が命中する。

 鏃が付いていない訓練用の矢であったこともあって流石に突き刺さりはしなかったが、番えていた矢を取り落とした。

 そして飛来する二の矢が弓士の持つ弓の弦に当たる。その衝撃で弦が切れた。


「狙って弦に当てただと!? ――ごっ」


 偶然のはずがない。

 それがどれ程の神業か、弓士だからこそわかる。

 驚愕する弓士の喉に、容赦ない第三の矢が命中した。


 その時には大きく迂回する形で走り込んだソーラが魔術士に向かって拳を振るっている。目にも止まらぬ駿足だ。


 魔術士の男とて、それなりに修羅場を潜った冒険者だ。

 時に接近されて格闘戦を強いられた経験だってあれば、対抗策だってある。


「――【魔術盾(シールド)】! 【衝撃波(ショックウェーブ)】!!」


 呪文の詠唱が必要ない低級の防御魔術で魔力の盾を張り、前方に向かって放つ衝撃波でソーラの動きを牽制し、後ろへと飛びすさる。

 位置関係としては魔術士の男と、槍士の男との間にソーラがいる形になった。

 やや変則的だが挟み撃ちの状況となった。


 槍士の男が踏み込み、速度のある連続突きを放った。


「ッ!」


 ソーラはその手に闘気を込めて往なす。

 だが、それで足を止めてしまった。


 一瞬の隙――魔術士は呪文の詠唱を破棄し、威力を捨てて速度優先に魔術を放った。


「【火炎壁(ファイアウォール)】!」


 地面から立ち上る、ソーラを背後から包み込むような形の炎の壁が出現する。

 半円上になっているので、ソーラは左右への動きが出来なくなった。


 そこに、一気呵成に槍士の男が攻撃を叩き込む。

 一撃の威力が高いわけではない。


 だが、速い。

 残像で槍が複数に見える程の速度。


「喰らえ――ッ!!」


「くっ……!」


 連続突きの速度が更に上がる。

 ソーラは炎の壁に囲まれて、左右と後ろへは動けない。


 そこに、薙ぎ払いの一撃。

 ソーラが選ぶことができるのは、跳ぶか、しゃがむか。


 二択に迫られたソーラは、しゃがんで避けるのを選んだ。

 だがそれは槍士の罠。


 払った槍の、石突を用いた逆突き。

 完璧なタイミング。絶対に避けることはできない。槍士の男は命中を確信した。


 だが。


「――【陽炎】」


 しゃがんだはずの、石突が命中したはずのソーラの姿が、ふわりと空気に溶けて消える。闘気で作り上げた幻影であると気付いた瞬間、脇腹に激痛が走る。


 薙ぎ払いをしゃがんだのでも飛んだのでもなく、幻影と入れ替わりに踏み込み槍士の側面へと避けていたソーラの肘鉄が突き刺さっていたのである。


「う、……ぐ」


 槍士がよろめいて膝をついた頃には、ソーラは既に次の動きを始めていた。

 

「よい、しょっと」


 槍士の身体を抱え上げたのである。

 そして槍士の男ごと、全身を闘気で包む。闘気術というほどではないが、一瞬だけ身を守るには十分だ。


 そしてそのまま、魔術士と自分を隔てる炎の壁に飛び込み、突き破った。


 魔術士の男の位置からは炎の壁しか見えない。それが彼が犯した最大の失敗だった。

 突如炎の壁を突き破り味方の背中が現れたと思うと次の瞬間には、魔術士に向かって突進し始めたのである。


「な、あ!?」


 魔術士は突然のことに驚いたが、直ぐに事態に気が付いた。

 ソーラが槍士を盾にと抱えて、魔術士に向かっているのだと。


 槍士を抱えてソーラは疾駆する。

 魔術師は流石に一瞬驚くが、それで対応に停滞するわけでもない。


「【衝撃波】! 【衝撃波】!!」


 詠唱破棄で威力を抑える代わりに速度重視の魔術を放つ。しかし仲間の背中を打つわけにもいかず、狙いはソーラの足元だ。

 だが、ソーラは不可視のはずの衝撃波を左右のステップで軽く躱す。

 そして槍士の身体を魔術士に向かって投げつける。

 受け止めて無防備になったその瞬間を狙いすまし――


「これで――お終い!!」


 魔術士の腹に一撃を見舞うのだった。




 ソーラヴルが魔術師を殴り飛ばす一方、セレネルーアもまた斧士の男を相手取って闘いを進めていた。




ここまでお読みいただきどうもありがとうございます。

めちゃくちゃどうでもいい話なんですが、今話は連載開始直前まで、


2-3 【真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす】金と銀の双子、冒険者たちと闘う【右ストレートでぶっ飛ばす】


というサブタイトルでした。

結局サブタイトルのスタイルを変更したので没になったんですが。

このネタが判るひとがいたら、ブックマークお願いいたします。


次回ウソ予告「2-4 炸裂! セクシーコマンド銀の少女!!」


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