2-2 金と銀の少女、喧嘩を買う
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「……やっぱり見当たらないな。もっと大きな街に行くしかないか?」
明り取りの為の窓が一つしかない、薄暗い部屋でリオンはそう呟いた。
ウーガの街にある、冒険者組合ウーガ支部、その資料室だった。この二年間、時間を見つけてはここで資料を探っていたが、リオンが探し求めている情報は欠片すら見つからなかった。
「ソーラとセレネ。いったい何者なんだ? 翼があるってだけなら鳥人だが、卵生で人型生命がいないんだよな……鳥人含む獣人系は総じて成長が早いが、それにしたって極端過ぎる」
獣人の中で犬人族や猫人族は数が多く、純人族よりも明らかに成長が早い。純人族でいう十八歳は、犬人族ならば十四歳くらいに当たると言われる。
また、蜥蜴人などの爬虫類系因子を持つ獣人はもっと成長が早いといわれているが、それでも純人族の十八歳が十歳程度に相当するくらいだ。
鳥人であればそこまで成長するのに十四、五年の月日が必要となる。
たった二年で、純人族の十二、三歳程までに成長したソーラとセレネは明らかに異常な成長速度だった。
「まさか翼を任意で出し入れできるとは思わなかった。お陰で街で暮らすには今のところ不都合は無いがな」
思うところあって、二か月ほど前にリオンは山奥からこのウーガの街に居を移していた。鳥人は自らの集落を出て暮らすことは少ない。故に純人族として暮らすのに、翼を隠すことができるのは非常に有難いことだった。
ただでさえ色々と目立つ双子である。
これ以上目立つ要素は勘弁して欲しいというのがリオンの本音なのだ。
「だが、尚更わからねぇ。翼隠すことのできる鳥人なんて絶対鳥人ではないだろそんなの。じゃあ何なんだよ、あの翼は?」
他に誰もいない、埃っぽい部屋でリオンは頭を抱えた。
†
調べものを切り上げたリオンが資料室の外に出ると、廊下のむこうから騒々しいがなり声が聞こえてきた。
「なんだァ? また喧嘩か?」
冒険者ギルドはその名の通り、冒険者たちに対する互助組合である。
そしてその冒険者たちが職業柄、腕力自慢になりがちなので、どうしたってガラの悪い者たちが一定数いる。となればギルド内での喧嘩は日常の光景であった。
だから最初はいつもの光景かと思ったのだが、その騒動の最中に、聞いたことのある声を聞いて、リオンは慌てた。
「――だから、わたしたちが自力で狩って来たって言ってんじゃない!」
「嘘つけ、このチビガキが! テメェらみたいなガキが、B級指定の鬼猿をたった二人で狩って来た!? 不正報告は重大違反だぜ!?」
「例え不正だったとしても、その報酬をアンタラが持って行くのはおかしいでしょ!!」
「俺たちゃ鬼猿退治にはるばるウーガくんだりまで召喚されて来たんだ。その駄賃をもらうのは当然のことだろう?」
「……ッタマ来た……」
あ、やばい。
大体の流れを察したリオンは、野次馬を掻き分けて前に出る。
そこには、怒り心頭と言った顔のソーラヴルと、見慣れない顔の巨漢たちがいた。五人の冒険者チームのようだ。
先頭の男の手には、金貨の詰まっているらしい袋が握られている。
傍には我関せず、という顔で欠伸をしているセレネルーアがいた。
口先を尖らせて足先で床をニジニジしているが、銀髪の少女はかなりイライラしているとリオンには分かった。
口数少なくいつも眠そうにしているセレネだが、直情型のソーラ同様、自身が納得のいかない事に対しての沸点は実はかなり低いのだ。
「オロオロしている職員……あいつ見たことないな、新人か。ニヤニヤしている周りのベテラン冒険者たちはアレか。最近話題になってる双子たちの実力を確かめるのにうってつけ、って思ってるわけか」
だから割って入る者が誰もいない。
基本的に冒険者はあらゆる場面に対し自己責任で対処しなければならない。降りかかる火の粉くらい自分で払うことが出来なれば、冒険者の資格無しとみなされる。
そしてこの騒動を通して、ソーラたちの情報を得ようというのだろう。
力尽くで通すならばその戦闘力を、弁舌で納めるならばその交渉力を。
成長著しい若手の存在はベテランにとって頼もしいと同時に、自らの飯のタネを奪う競争相手でもある。
時に協力し時に成果を争奪しあうこともある冒険者にとって、他のチームの実力を知ることもまた重要な生存戦略の一つなのである。
とにかく、このままでは直ぐにでもソーラ……よりも先にセレネがキレるだろう。
ギルドの建物内での暴力沙汰はご法度だ。理由の如何に関わらず先に手を出した方には結構重たい罰則規定があるのだ。
そしてソーラが一歩を踏み出そうとした時、
「はーい。そこまでー」
ワザと間抜けた声で手を叩きながら、リオンは割って入ることにした。
「……パパ!!」
「お父さん。遅い」
リオンの存在に気が付いた双子が、どこかほっとした表情で寄ってくる。その二人の頭を撫でながらリオンは巨漢たちに向き合った。
「なんだ、てめぇは――このクソガキどもの父親か?」
「そうだよ。なんかよくわからねぇけど、うちの娘たちが迷惑かけたんだって? その金が原因か?」
「おう、そうよ! コイツラが俺たちにイチャモンつけてくれてなぁ、俺たちの金を盗もうと……いでででで!?」
何かほざこうとしていた男だったが、最後まで口にできなかった。
リオンが、金の入った袋を握る男のその手を、わっしと掴んだからだ。
風貌は冴えないおっさん中堅冒険者だが、これでも壊神討伐を成し遂げた勇者(死亡扱い)である。石を握り潰すくらいの握力は持っている。
「この金か……ふーん。まぁ俺、いま来たばっかで状況が良くわかんないんだけどさ。どうなの、ソーラ、セレネ?」
「悪いのはあっち。私たちの討伐報酬を横取りしようとしてる」
「そーだよパパ! イチャモンってあっちがつけて来てるの!」
「と、まぁウチの子たちはこう言ってるわけだが――」
リオンは手を放すと、懐から小さな袋を取りだし、男たちに中を見せた。
「魔石? それもかなり等級が高そうな……それがどうしたよ」
手を抑えた男が、リオンの行動に疑問の声を上げた。
リオンはにやりと笑って答える。
「いやさ、俺たちはコレで世の中渡っていく冒険者だろ。だから、アンタラが持ってる金とこの袋の魔石、併せて勝った方の総取りで勝負ってのはどうだ? 裏に訓練場がある。」
握り拳を作って見せると言いたいことが通じたのか、男たちがにやりと笑った。
喧嘩はご法度だが、訓練という名目と互いの合意があれば良いのだ。
「ソーラとセレネもいいな?」
「わかった、パパ!」
「大丈夫。やれる」
ソーラとセレネが、力強く頷いた。
――そう、訓練と言う名目と互いの合意があれば、それで良いのだ。
機嫌良さそうに訓練場に向かう男たちの背中を見て、リオンは二人にだけ聞こえるような小さな声で告げた。
「殺すな。二割でな」と。
実のところ、リオンも可愛い娘たちにちょっかいを出されて頭に来ているのである。
それに、そろそろ話題になっている二人の実力を周囲に適度に開示する必要もあった。
双子の娘たちは、異口同音に「わかった」と答えた。
金と銀の瞳がギラリと輝く。
他所から来た冒険者たちは、自分たちが喧嘩を売ったのがどんな魔獣よりも危険な存在であることに、まだ気が付いていないのだった。
ここまでお読みいただき、どうもありがとうございます!
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いやホント、小説連載していたらブックマークと評価の変動だけがモチベーションなので……
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次回ウソ予告「2-3 冒険者ギルド、発射!」
ソーラヴル「月まで―――ぶっ飛べぇぇぇぇぇ!!」