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3-20 金の少女、投げる



  †



 トウヅ戦王国に入って、一日。

 国境越えは恙なく終えることができた。トウヅとキザヤの関係が安定しているからでもあるし、三級冒険者であるメイのお陰でもあった。

 高位冒険者というのはそれだけで信用があり、また相応の戦闘力を持っているという証明だ。貴族と繋がりがあることも多い。つまり揉めると面倒なことになる。国境警備隊にとっても理由がなければ長引かせる意味は全くなかった。

 旅は順調そのものだ。

 街道沿いに進んでいるとき、矮鬼族(ゴブリン)十数匹の待ち伏せがあったが一瞬で殲滅した。ソーラとメイが揃って突撃し、蹂躙する。作戦も何もない戦いだが、それで十分だった。


「この面子だったら、ドラゴンでも退治できそうだねェ」


 と、倒したゴブリンの後始末をしながら暢気にメイが言う。

 一口に(ドラゴン)といっても、ちょっと大きなトカゲ型の魔獣から翼竜(ワイバーン)などのいわゆる亜竜種、火精竜(サラマンドラ)海蛇竜(シーサーペント)のような属性竜、伝説に語られるような神竜や古代竜まで種類も危険度も様々なのだが。


「ああ、まあ……そう、だな?」

「?」


 明後日の方向を見ながらリオンは歯切れが悪い。

 壊神討伐の際にその支配下にあった災害級の邪竜だったら何体か討伐しているのだ。その素材が、【無限収納】の中に眠ったままになっている。肉も血も邪気に汚染されていて、市場に流すわけにはいかないのである。

 あと、知り合いに神竜がいるとは言えない。


「んー、翼竜(ワイバーン)なら当たれば勝てるんだけどなー。どうやって当てるかなんだよね。ねぇ、ジャンプで届くと思う?」

「急降下攻撃の最中にカウンターで」

「あっ、その手があったか」

「でも翼竜(ワイバーン)だったら、ソーラの出番はない。私が全部射落す」


 と、ソーラヴルとセレネルーアは軽い会話である。


「ええと、翼竜(ワイバーン)は状況次第じゃB級冒険者パーティでも手こずる相手なんだけどねぇ?」


 メイの言葉に、双子もまた目を反らした。

 まだウーガの街に出る前山奥でリオンと三人で暮らしていた頃、近くの崖に十数体のワイバーンが巣を作っていたのでリオンにも内緒で蹴散らしているのである。当たれば倒せるの言葉通り、ソーラの拳は翼竜(ワイバーン)にも通用する――当たれば、だが。

 その時は弓士であるセレネの独壇場だった。


「メイさんだったら、翼竜(ワイバーン)とか空飛ぶ魔獣相手にはどうするの?」


 ソーラが話題を変えた。


「ん、あたしかい? 事前に相手が分かっていれば、色々準備も出来るからねぇ」


 言って腰のポーチから取り出すのは白い繭のようなもの。


「空飛ぶ相手は飛べなくするのが一番さ。こいつは使い捨ての魔術具(マジックギア)でね。魔力を流すと粘着性の網が広がるのさ。翼獣や怪鳥討伐の必須アイテム、蜘蛛巣(スパイダーズネスト)だね」

「へぇ、面白い!」

「空飛ぶ相手以外にも、魔獣や犯罪者捕獲に使われたりするね。他にも、あたしはこんなのを常備してるよ」


 続いて太腿のホルスターから引っ張り出す金属の棒。先の尖った、槍と言うには短すぎる杭である。


「投擲武器!」

「正解。ソーラは近接系なんだから、こういうの用意しておくといざって時捗るよ。単に打撃力を期待するんだったら、杭じゃなくてそこらの石を拾って投げるだけでもいい」


 ちなみにこの杭はそれなりに頑丈で先が尖っているので、間合いが命の槍士であるメイにとって懐刀としても役立つ道具(アイテム)だ。実際取っ組み合いになった時に重宝するのだ。


「投げる……なるほど」


 ソーラは、落ちていた拳大の石を拾った。

 そして肩を二回まわして闘気を発すると、


「――てぇぇぇぇ、だあ!」


 気合一発、森に向かって投擲した。

 金色の光を纏って宙を切り裂いた石は、一抱え程もある木にぶち当たり、その幹を半ばまで爆砕した。ミキミキと音を立てて木が倒れる。


「凄い威力じゃないかい。やるねぇ!」


 喝采するメイに、照れるソーラ。

 だが付き合いの長いセレネとリオンには分かっていた。


「ソーラ、狙ったのは別の木だろ。違うか?」

「当たった木の二つ左側を狙ってた」

「ち、違うもん! 狙ってたのは三つ右の木……あっ!」


 顔を赤くするソーラに、メイが肩を竦めた。


「敵と味方が近い時に絶対に投げちゃ駄目だからね」

「はぁーい」


 そんなやり取りをしながら一行は街道を進み、小さな村に行き当たる。


「村の端っこで野営するか、どこか空き家を借りてもいいんだが……」

「ちっちゃな村だと余所者は歓迎されないからね。ましてや冒険者だ」

「休むには時間も早いな。もう少し行って、街道沿いで野営かな」


 メイとリオンがそんな会話を交わしていると、一人の男が馬車に近寄って来た。

 酷く顔色が悪く、やつれている。


「なぁ、あんたら。冒険者なのか? ソーオの街へ行くのか?」


 ソーオは街道を進めば三日ほどで辿り着く街だ。

 国境から最も近いとあって人と物と金が集まる。山間部にあるにしてはそれなりに大きな街だった。


「そうだが、それが?」 

「た、頼みがある。これを……ソーオの冒険者ギルドに持って行ってくれないか?」


 男が取り出したのは革の小袋と手紙だった。


「これは?」

「ギルドへの依頼書と、その報酬だ。……村で、子どもたちが何人も行方不明になってるんだ。……もう何か月も前から、何人も。俺の息子も……!」


 そう言って男は泣き崩れた。





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