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3-11 元勇者と双子の少女、旅立つ




  †



 貧民街(スラム)で、マーカス傭兵団が謎の壊滅を遂げた二日後の朝、ウーガの街の門にリオン親子はいた。オーバリーとウイバリーも一緒である。


「リオンの旦那にゃ、借りばっかりだ。一体どうやって返せばいいのかわからねえよ」

「気にしなくていいんだがな。オーバリーには稼がせてもらったし」


 そんなリオンの返事に、オーバリーは渋い顔で手を振った。


「いやいや。どう考えてもこっちの借りの方がでけえよ」


 苦笑する二人は、がっしと握手を交わした。


「また会えるよな」

「もちろんだ」


 そしてリオンはオーバリーの肩を抱いた。


「俺、きっともっと、おっきくなるよ。借りなんて一括で返済してやるからな」

「期待してる。お前ならできるよ」


 そしてリオンは、双子たちと抱き合っていたウイバリーに向き合った。

 涙を拭いたウイバリーが、リオンの方を向く。


「ウイバリー」

「……リオンさんのばーか。女たらし。不誠実者」


 苦笑してリオンは頭を掻いた。


「自分で言うのもなんですが、私、きっといい女になりますよ?」

「そうだな」

「でも、私の事フるんですよね」

「申し訳ない」

「一発、引っ叩かせてくれたら許してあげます」

「わかったよ」


 ウイバリーは近づいてその手に、はぁ、と息を吐きかけた。


「目を閉じてください。強烈なの行きますからね」


 言われた通りに目を閉じたリオンの胸倉を掴んだウイバリーは、


「覚悟――ッ!」


 と叫び、そのままリオンの首に両手を回して抱き着くと、唇を奪った。

 不意を打つ、柔らかい感触にリオンは目を丸くする。

 一瞬の接触だったが、離れたウイバリーは唇に指を這わせながらリオンに笑いかける。


「ね、強烈だったでしょ」


 微笑むウイバリーに、リオンは両手を挙げた。


「……今までの人生で、一番強烈な一撃だったよ」


 そう言うと、ウイバリーは花が綻ぶような笑みを見せた。




  †




「あーあ、いっちまったな」


 リオンと、ソーラヴルとセレネルーア。

 彼らを乗せた馬車は街道の向こうへと見えなくなってしまった。

 オーバリーは、隣で涙を拭っている妹を見た。


「俺の事なんて気にせず、一緒に行って良かったんだぞ? ゴリ押しすりゃ、旦那折れてくれたぜきっと」

「イヤです。私は、リオンさんを支えたかったんです。でも一緒に行けば、きっと守ってもらうばかりになるから……」


 もしリオンが何かと戦う宿命を負っているのでなく、街の中でただの冒険者として過ごすのであれば、ウイバリーもそれができた。リオンが帰る場所になれた。

 だが血と刃の飛び交う場所では邪魔にしかならない。それが堪らなく嫌だった。


「あの二人が羨ましい」


 曲がりなりにもリオンと並び立てる、あの双子が。

 リオンは双子のことを守るだろう。

 だがそれはウイバリーにする守り方とは違う方法で、だ。


「兄さんこそ、ソーラのことは良かったんですか?」

「うぇっ!? きききき、気づいてらっしゃったんスか!?」


 ビクッと肩を強張らせた兄を見て、妹はため息をついた。


「いつもソーラの事、目で追ってたじゃないですか。外回りついでにソーラが好きそうな料理出す店探ししてること、私が知らないとでも?」

「なんで知ってンのォ!?」

「ホントに知られてないと思ってましたか……告白、しなくても良かったんですか? 万が一にくらいで、考えてもらえるくらいはしたかもしれませんよ」

「考えるだけだろそれ。その上、ゴメンナサイ以外の返事が来るのはどんな確率だよ」

「皆無ですよね」

「だよなぁ」


 オーバリーは地べたに腰を下ろして呟く。


「まぁ……ソーラのこと好きじゃあったけどさ……ちょっと考えるじゃん、もし、億が一でも上手くいったりしたらどうなるか、トントン拍子に進んで……ってさ」


 そしたら、俺――


「リオンさんのこと、お義父さんって、呼ぶんだよ。わかるだろ」


 はっとしたウイバリーに、オーバリーが寂しそうに笑った。

 ウイバリーは隣に腰を下ろして、兄の肩に頭を預けた。


「わかります」

「でも、無いだろ」

「無いですね」

「……あの二人、リオンさんのこと諦めると思うか?」

「絶対に諦めないと思います」


 ウイバリーは昨日、双子と行った話し合いのことを思い出していた。

 これが最後であること、そして同じ恋する乙女であることを強調し、今まで培った商人としてのスキルをフルに使い、友情と今までの恩に着せるようなゴリ押しした交渉で、一度だけの思い出となんとか許可を勝ち取ったのだ。

 でなければ先ほどのアレで、ウイバリーは双子に本気でブチのめされていたかも知れないと確信している。


「っていうか、旦那こそ気づいてないよな」

「気づいてないですよね……だから、女たらしなんです。天然だからタチが悪い」

「違いねぇや」




  †



 街道を行く幌馬車の、馭者台に座るリオンだったが――

 狭いその馭者台、リオンの脚の間にはセレネが座っていた。

 後ろから首に齧りつくようにソーラも抱き着いてきている。


「あのぅ、ソーラヴルさんにセレネルーアさん?」

「なあにパパァ?」

「どうしたの父さん」

「その……近くないですか?」

「そうかな、いつも通りだと思うけどォ?」

「気のせい」


 絶対いつも通りじゃねぇ!

 と、リオンは内心で絶叫したが口には出さない。

 あからさまに娘たちの機嫌が悪いからだ。

 そりゃそうだよな、とリオンは思う。

 父親が、娘の友人と唇を交わす場面なんて見せられればそりゃ不機嫌にもなるというものだ。

 だが、とリオンは考える。


(アレは不可抗力だ、と言えば二人の機嫌は直るのか?)


 どう考えても否である。

 どんな言い訳も通用しないだろう。


(では、避けていれば良かったか?)


 リオンの身体能力ならば避けることは不可能ではなかった。

 しかしそれでは、ウイバリーの覚悟を無碍にすることになる。

 鈍感極まりないと自覚するリオンでも、それはわかることだった。


(結論。現状回避は不可能、と)


「……そ、その、セレネ。そこは狭くないかい?」

「全く狭くない。問題ない」

「そ、そうか。ソーラ、そんなにくっついたら暑くないか?」

「今日はちょっと肌寒いからちょうどいーかな」

「そんなことより父さん、ちゃんと前見ないと危ない」

「アッハイ」


 なんだコイツラ、とばかりに馬車を牽く馬がブルル、といなないた。

 こうしてリオンたちは慣れ親しんだ、ウーガの街を後にするのだった。




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