表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/89

2-18 元勇者と金と銀の娘、迎撃する




  †



「――パパ? 何か来る」

「ああ。モーズ村長、ボスゴ、フレッド。皆を、村の奥の方へ。嫌な気配がする」


 ぱちりと目を覚ましたソーラが、森の方を見て言った。

 普段のソーラは、夜に目を覚ますことはまず無い。一度眠りに落ちてしまえば朝までぐっすりだ。

 例外は二つ。

 眠らずに起きているか――よほどの脅威が近づいているか。

 こと、危機察知能力に関してはそこらの獣などよりも鋭いだろう。


 ―――グぉオオオオオオ……ンン!


 獣の遠吠えが再び聞こえた。明らかに、近づいている。

 結婚式に浮かれていたミーゴ村の人々たちは、モーズの指示に従い村の奥の方へと向かっていく。だが、その中でも狐人たちの慌てよう、そして顔色の悪さが目立つ。

 

「リオン!」

「フレッド、お前も早く避難するんだ」

「それよりも! あの鳴き声――聞いたことがある。俺たちの集落を襲った奴らにいた、獣使士の連れている魔獣だ!!」


 フレッドが怒りを滲ませて叫んだ。

 何人かの狐人たちは木の棒やヒビの入った剣を手に、やって来る敵を迎え撃つつもりのようだ。

 だが。


「狐人たちもみんな、一緒に避難してくれ。ここは俺たち親子だけで十分だ」

「だが!」


 フレッドが気色ばむ。

 それを制したのはセレネだった。彼女はいつの間にか、得物の銀光を放つ弓を取り出していた。その先端部でフレッドを指して言う。


「私たちだけで十分」

「フレッドさんたちは、ミーゴ村の人たちを守ってあげて」


 屈伸して身体をほぐしながら、ソーラも請け負った。

 それでもなおフレッドは何か言おうとする。しかし、


「言っただろう? どうにかする、って」


 そう言い切られて、フレッドはもう何も言い返せなくなる。


「ちくしょう……情けねぇ。情けねぇが、すまん、頼む!」

「「「頼まれた」」」


 親子三人そろって、ビッと親指を立てる姿にフレッドは頷き――そして踵を返して避難していく。その脳裏には、彼ら親子に対する返しきれない恩の事で一杯だった。



  †



「あれあれぇ~? ここに狐人たちが居るってきいたんだけど、おっかしいなぁ~?」


 夜の闇の中から聞こえたのは、そんな声だった。

 そこにいたのは、若い女性である。乗馬用の鞭を手に、リオンたちをねめつける。


「君たちが狐人を逃がしたのかな? ふぅん……ねぇ、狐人、どこに行ったか教えてくれない?」

「あなた、狐人の人たちに酷い事したんでしょ。教えると思う?」


 ソーラが応えると、女性はけらけらと笑った。


「あーあー、聞いちゃったんだそりゃ聞いてるよねぇ。狐人のこと知ってるなら、私たちが狐人、連れて行ったってこと、そりゃ聞いてるよねぇ」


 けど、と女性は続ける。


「一つだけ間違ってるわよ、お嬢ちゃん? 私たち、別に狐人に酷い事なんてしてないのよ。のよのよ? 本当よ」

「ウソ。狐人の集落を襲って沢山の人を攫った。怪我した人も死んだ人もいる」

「だってぇしかたないじゃないの。せっかく私たちが、この世の楽園に連れて行ってあげようって言うのに、抵抗するんだもの~。善意を無下にされたら、足の一本くらい捥いじゃうわよねぇ普通。ねえ?」

「…………ッ!?」


 満面の笑みで同意を求められる内容の酷薄さと異常な身勝手さに、ソーラとセレネは言葉を失った。


「っていうかぁ、私がわざわざここまで来てあげたんだから、狐人の人たちは進んで出てくるべきよねぇ。そうすれば指だけで許してあげるのにねぇ~」

「そこまでにしてもらおうか。あんたの言葉は、うちの娘たちの情操教育によろしくない」


 リオンが前に出た。


「それでアンタはどこの誰なんだ? ここがキザヤ王家直轄領のミーゴ村と知っているのか? その住民を連れて行くなど、反逆罪もいいところだぞ」

「うう~ん? 知るわけないじゃんそんなことぉ。キザヤ王国とかどうでもいいしぃ」

「国家ってのは、ある意味人間が持ちうる最大の暴力組織だと思うんだがな……それを怖くないと」

「だぁ~かぁ~らぁ~、知らないって言ってるじゃんそんなことぉ。決めた。私の邪魔するっていうなら、アンタら私の()の餌になってもらうわ」


 女性が、手にした鞭でリオンたちを指示した。

 その鞭に、魔力が宿る。


「監獣牙のバシュマコヴァが命じるわぁ~、捕らえて、食っちゃえ」


 バシュマコヴァが言った次の瞬間。

 森の茂みの中から、リオンたち目がけて、数十の弓矢が放たれる。


「――ッ」


 セレネは飛び退いて回避し、リオンとソーラはそれらを軽々と討ち払った。


「あらあ、見かけによらずやるじゃん。けぇ~どぉ~、この子たちに勝てるかしら?」


 バシュマコヴァの合図で、森の茂みから二体の魔獣が現れた。その後ろには、弓矢と短刀で武装した矮鬼族(ゴブリン)たちがいる。


「パパ、あのおっきいのは何?」

軍隊大猩々(アーミーコング)とその小隊だ。名前の通り、軍隊の様に連携して襲ってくる厄介な相手だ。そいつらが居るってことは――ソーラ、セレネ。村人の方に行ってくれ。別動隊がいる。こいつらは囮だ」


 バシュマコヴァが、リオンの言葉に反応する。


「あら博識。正解よぉ。けど、その小娘たちが行ったところで、何ができるっていうのかしらぁ~? それに、行かせるわけもないじゃないの~」


 再び、ゴブリンたちの弓矢の一斉射。他にも森に隠れていた者がいるのだろう、それも含め、数十ではきかない数の矢がリオン達を襲う――が。


「はぁぁあああああ……てぇりゃあ!!」


 ソーラが気合を込め、叫ぶ。

 その背に現れた白い翼が、炎を纏って金色に輝いた。

 そして金色の翼がはためき――爆風が広がり、その威力で飛び来る矢を弾きとばす。

 

「よし、行け!」

「「はいっ!」」


 ソーラとセレネが背を向けて駆け出す。

 その行く手を森から飛び出た数体のゴブリンが遮るが――


「邪魔」

「退いた退いたァ!」


 セレネがすれ違いざま、その首を裂く。

 ソーラが勢いよく殴り飛ばす。

 ホルスが放った燃える羽根が顔面に突き立ち。

 ハティが頸を噛み折り、一瞬で四体のゴブリンが物言わぬ骸となった。

 そして出来た包囲の穴をソーラたち姉妹とその使い魔たちが駆け抜ける。


 その一瞬の出来事を見ていたバシュマコヴァが、感心した顔を見せた。


「へぇ~、あのガキたち、やるじゃないの~。ゴブリンとはいえ、一撃で」

「どーも自慢の娘なもんで」

「けど。あなたは独りで、このアーミーコングとその部下とやろうっていうの? さすがにそれは自惚れと思うわぁ~。単体でも、C級冒険者チームが必要な相手よ? 小隊ならいざ知らず、中隊規模ならB級冒険者のチームが複数必要よ?」

「心配頂きどうもありがとう。でもそれはご無用ってやつさ」


 リオンは、手にしていた剣をバシュマコヴァに突き付けた。

 

「俺一人で、十分」

「あら、あなた凄い自惚れね。じゃあ頭から食われて死んじゃえばぁ~?」


 そして戦いが始まった。






というわけで、ようやく第二章メインバトルの勃発です。

楽しんで頂ければ幸い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ