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2-15 狐人の青年、悩む




  †




「狐人たちの、ミーゴ村への移住か……ふむ」


 ミーゴ村の長であるモーズはリオンの話を一通り聞くと、白いあごひげを撫でて考え込んだ。その様子にギルとフレッドが固唾を飲んで言葉を待つ。

 

 地面に胡坐をかいたリオンの足を枕にソーラは既に寝息を立てていた。ホルスも木の枝に止まって寝ている。

 セレネはと言えば、大人たちの話を退屈そうに聞きながら、ハティに寄り掛かってた。

 ハティはそんな主を気にすることなく、暴乱巨王牛タイラントオーロックスの骨を齧るのに夢中だった。


「正直に言えば、幾つか難しい部分がある」

「例えば?」

「一つ、土地が無い。正確に言えば拓けた場所が少ないので、これだけの人数を一度に移住させることができない」

「逆に言えば、時間をかけて伐採して土地を広げればいいんだな?」

「その通り。じゃが、その間の住まいはどうする?」


 少しだけ考えて、リオンは答えた。


「ええと……二日あれば、まぁなんとかできるかな」


 それを聞いていた三人は、揃って頭に疑問符を浮かべる。


「二日で何とかできるものだろうか?」

「いやでも、この人だしなぁ」


 ギルとフレッドのひそひそ話に、セレネがつっこみを入れた。


「木の伐採と根の掘り起こし、地面を均して固めて一日。人数分の家を建てるのに一日。二日で十分」

「計算おかしくない!?」

「父さんならできる。狐人の人たちが手伝えばもっと早い」

「マジかよ。言い切りやがった」


 ちょっとそこのお店でお買い物、くらいの感覚で答えるセレネに、フレッドが天を仰いだ。彼の感覚で言えば、小屋ならば未だしも家というのは、どんなに簡素でも数日かけて建てるものだからだ。


「「いやでも、この人だしなぁ」」


 ギルとフレッドが納得するのを、モーズは不思議そうに見ていた。

 十年に一度討伐されるかどうかの暴乱巨王牛タイラントオーロックスの肉や【伝説級】素材の妖精霊乳(フェアリーズ・ミルク)を惜しげもなく使ったシチューを振舞う人物である。


「ふむ? よくわからんができるというのであれば、まあ良い。じゃが他にも問題はあるぞ。二つ目、食い物が無い」

「それも大丈夫。当面は俺の持ってる分で何とかできる」

「当面って……あんた、どれくらい【収納】に入れてんだ……」

「んー……この場にいる全員の食糧一年分くらい?」

「バカじゃねえの!?」

「バカって言われた!」


 ちなみにリオンがそれだけの食糧を持っているのは、勇者時代に狩った魔物の肉や道中で見つけたり報酬で貰った食材があるからだ。希少価値が高いものも多く、混乱の原因になるので市場に流すことが出来ないのである。


「ある程度の期間を支えりゃ、畑作ってミーゴ湖で魚とエビ獲って森で狩りもできるだろ。ほら、食糧問題解決」

「軽いのう。普通はそんな簡単にはいかないハズじゃがな」

「普通じゃないなら、簡単にいくこともあるさ」

「軽すぎるのう……なら問題の三つ目、ミーゴ村の人たちをどう納得させる? 特に漁士たちは狐人に良い感情を持っておらんじゃろ」


 モーズの言葉に、リオンはフレッドの方を見た。


「こればっかりは俺は、手伝えないな」

「あ、謝る! 全力で、誠心誠意謝罪する!! 事情があったとは言え、村に迷惑をかけたのは事実だ。だから……!!」


 フレッドとギルが、揃って土下座した。


「頭を上げよ。ワシに頭を下げられても、漁士衆がどう思うのかまでなんとも言えぬよ。狐人たちの態度次第でもある」

「怪我、治さない方が良かったかも」


 セレネがぼそりと呟いた。かもな、とリオンが同意する。

 ボロボロに傷ついた姿の方が、憐れみを誘えていたかもしれない。今の狐人たちは怪我は既に快癒し、超絶栄養満点のおシチュー様のお陰で肌も毛並みもツヤツヤ。難民であることを示すのは、身に纏うボロい服だけだ。


「だけどあのままにしておけなかった。仕方ない」

「出たとこ勝負しかないな」


 リオンはため息をついた。

 どんなに強い力を持っていても、どうしようもないことは存在する。


「最後の問題……ミーゴ村はキザヤ王家の直轄領というのは知っておるか? 村の長であるワシには、国王陛下に一連の事態を報告する義務がある。事情はどうあれ、狐人たちが行ったのは、王家直轄領地に対する侵略に近い行為じゃ。たとえミーゴ村の人々が許したとしても王がそうと判断すれば、狐人たちを捕らえ、大罪人として処罰することもあり得るぞ」


 フレッドとギルが息を飲んだ。 


「それについても出たとこ勝負しかないな。いざとなったら逃げだすしかない」


 しかしリオンは気にするようでも無くさらりと言った。


「既に、現時点で、ミーゴ村の全員が状況を知ってしまってる。今更狐人たちがしたことを無かったことにはできない。ミーゴ村移住をナシにしてこのまま山の中に隠れ住むにしても、村長は現在までの報告をするしかない。王家の捜索はあるだろう。軍がやって来て捕らえられるのか、それとも居住を許されるのか。捕らえられればどんな罰が下されるのか、全ては国王陛下のお考え次第だ」

「だ、だったらキザヤ王国の外に逃げれば?」

「バカ、フレッド! そっちはもっと難しいぞ!」

「ギルの言う通りだな。キザヤ王国はこのクシュウ亜大陸の東の端だ。東には逃げ場が無い。つまり、北、南、西のいずれかに逃げるしかないが、西に行くには大陸中央を南北に貫く蒼天連峰のどこかを超えなきゃならない。人外魔境もいいところだぞ」

森羅族(エルフ)矮躯族(ドワーフ)の縄張りもある」

「そうだった……」


 リオンとセレネの言葉にフレッドは項垂れた。

 細々と存在する街道は当然通れないにしても、それ以外は強力な魔獣の住処である。排他的な亜人たちの氏族の縄張りもある。

 襲撃からせっかく逃げ延びたのに、逃避行の道中で犠牲になる者も出ることだろう。


「もし北のフレンダールか南のトウヅ、あるいは貴族領に逃げ延びることが出来たとしても、犯罪者として通告されればまたどうなるか判らない。ミーゴ村に行くか、別の所に住み着くか、いずれにしてもキザヤ王国内の方がまだやりやすいと思うぜ」

「ふ、二日で家を建てることができるなら、ここに村を作っても――」

「それは、俺が反対だ」


 ギルがフレッドの案を蹴った。


「ここに集落を改めて作っても、再び襲撃にあったら次こそ全滅する。敵の正体すらわかっていないんだ。俺たちはもう、山奥に隠れ住むことが出来るほど強くはない。ミーゴに住むかどうかはともかく、キザヤ王国の庇護下に入るのが最も良いと思う」

「…………」

「フレッド」


 ギルに促されて、フレッドは頷いた。


「ミーゴ村に行こう。散々迷惑をかけた。受け入れてもらえるかどうかに関わらず、謝罪はしなくちゃならない」


 そしてフレッドは、モーズに向かって再び頭を下げる。


「モーズ村長。あなたにも酷いことをした。申し訳なく思う――その上で一つ、恥を忍んでお願いする」

「聞こう」

「もし、この一連の事件について犯人として首を差し出すとするならば、それは俺だけで収まるようにして欲しい。ミーゴ村に潜り込んだ他の奴は勿論、このギルだって俺たちの今後の為に必要な男なんだ」

「おい、フレッ……!」


 ギルの言葉を、フレッドが手で制した。

 

「虫が良すぎることを承知でお願いいたします」

 

 モーズ村長はフレッドの後頭部を見ながら、ため息をついた。


「国王陛下がどう判断されるか保証できぬ。が、フレッドという名の狐人種が一人で目論み、周囲を唆したと報告はしよう」

「ありがとうございます」


 顔を上げたフレッドは、どこかすっきりとした顔をしていた。

 その横顔をギルは直視することが出来ない。


 そんな重苦しい空気に包まれる彼らを、面白く無そうに遠くから眺めている人物がいた。

 モーズ村から攫われた者の一人、ネイトである。

 ネイトは鼻を一つならすと、焚火を囲んで談笑しているミーゴ村から攫われた人々の輪へと戻って行った。





 


ここまでお読みいただき、どうもありがとうございます!

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ウイバリー「今年の夏は暑いですね」

ソーラ「こう暑いと、気が滅入っちゃう」

セレネ「毎回このウソ予告考えるのも疲れる」

ソーラ「じゃあ今回は手抜き予告で」


次回ウソ予告「2-16 そーめんあきた」


ウイバリー「幾らなんでも手抜きすぎ……!」


次回ウソ予告「2-16 

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