2-11 元勇者、尋問する
†
リオンが、剣の腹でペタペタと頬をはたくと、狐人は直ぐに目を覚ました。
「……む、ぐ……」
「よう。寝てるところ起こして悪いな」
「くそッ、純人め……動けんッ」
椅子に縛り付けられているため、狐人は身を捩るのが精一杯だ。
「暴れられると面倒だからな。大人しくしてれば痛い目には合わせないよ」
「畜生、どうして俺が偽物だと気付いた!?」
「ん? 勘」
「か……!?」
「そう馬鹿にしたモンじゃねえぜ。そもそも長く冒険者やってると自然と勘が鋭くなるし――っていうか、そうじゃなきゃ文字通り生きていけないからな。大体、あの程度の【変化術】でうちのセレネの目を誤魔化せるわきゃねぇしな」
その言葉に、ウイバリーが反応した。
「えっと。ということは、最初からセレネは、村長が偽物ってことに気が付いていたんですか!?」
「だろうな。だが、そうじゃないにしても、冒険者あんだけ嫌う発言してれば誰だって変に思うに決まってる。な、ウイバリー?」
「え? あの時は……はい、わたしも変に思いました」
「だってよ」
リオンがニヤリと嘲るように笑うと、狐人は逆に顔を赤くした。【変化術】は別人の外観になりすます術であり、熟練者であれば声さえ偽装する。だが態度は術の範囲外、術者自身が演技しなければならないのだ。
「俺も狐人について知ってることは少ないがな。狐人にとって【変化術】のスキルはできて当然、見破られるのは三流の証なんだってな。しかもそれが術そのものじゃなく、自分の態度が原因ってのは……ま、お察しってことだ」
「ぐっ! 黙って聞いていればいい気になりやがって、純人種め!!」
「別に俺が何人種だって構わないがな。ちょっとお前さん、自分の立場ってもんを考えたらどうなんだ?」
「……こ、コン……ッ」
そう言って、リオンは捕らえた狐人に、抜身の剣を突き付ける。
首筋に這う冷たい感触に、狐人は冷や汗を浮かべた。
「さて。お前さんが村長に化けていたんだったら、本物の村長は一体どこに行った? そもそもなんで入れ替わったりしたんだ? 教えてくれよ」
「な、仲間を売れと!? 例え殺されても口を割らないぞ!」
今まさに外で、その仲間がノされている最中なのだがさておき。
「あらま立派な覚悟だな。だがな、お前――というかお前ら、ちょっと考えが無さすぎるぜ。これは本当に、本ッ当に親切で忠告してやるんだが……ちゃんと答えてくれた方が、お前ら狐人の集落の為なんだぜ」
「な、何を言ってる……親切で忠告、だと?」
「ああそうさ。お前ら狐人、一体何人がこの村に入り込んでる? 村長が入れ替わってたんなら他にも数人、もしかしたら十数人か? 仕事にならねえ漁士の一家だったら丸ごと入れ替わっていてもボロは出ないかな」
「だ、だとしたらどうした」
すう、と目を細めてリオンが言う。
「だとしたら、そろそろヤバい。――ウイバリー、このミーゴ村、どこの領地だか知ってるか?」
突然話を振られたウイバリー。事の成り行きについていけない彼女だったが、戸惑いながらも問い掛けに答えた。
「え、えっと……確かキザヤ王家の直轄領です。ミーゴ湖から流れ出る川が下流一帯の水源で、その権利を巡って領主たちが争ったことがあったとか。それで当時の王様が、ミーゴ湖と川の権利を丸ごと召し上げ、領主たちに貸し出している……と」
「よろしい、満点の回答だ。判るか狐くん?」
「な、何がだ……?」
「この村が王家の直轄領ってことは、村人は王さまの所有物で、それを攫ったってことはいずれ王国騎士団が出張ってくるってことだよ」
「き、騎士団!?」
「ウーガの街の俺たちにも、この村でエビが獲れなくなったって噂が届いたくらいだし、そもそも村にいるはずの運送系冒険者が見当たらない。雇い主に現状を報告してるんだろ。直轄領の村長は、王から任命される現場責任者だぜ。王様の耳に噂が届くのがそろそろ。だが村長からは何の報告も無い。そりゃ、不審に思って騎士団派遣するさ」
さらに優しく微笑むリオン。
「さて。そこに俺たちがいる。この村は狐人が半分入れ替わってますよと報告する。いや、俺たちがしなくてもいずれバレる。すると王様はどう考える?」
「そ、それは――」
「ウイバリーはどう思う?」
「えっ、わ、わたしに振るんですか? そ、それは――えっと、村人たちがどこに行ったか……狐人に攫われた……報復で集落を焼き討ち……とか……」
「コンッッ!?」
狐人が息を飲んだ。
「状況が判ったようだな? 今のはあくまで予想だが――十分あり得る話なんだぜ」
さぁ、どうしてこんなことをしたのか、事情を話せよ。今ならギリギリ何とかなるかも知れないぜ?
そう言われて、狐人の男はがっくりと肩を落とした。
†
小一時間後。
「よーしよくやったぞ、ソーラ、セレネ」
「えっへへ! 頑張ったもん!」
「わたしも頑張った」
リオンは二人の娘の頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。ソーラとセレネ、満面の笑顔である。
ウイバリーとボスゴ他ミーゴの村人たちは、その傍らで縛られて転がっている狐人たちを見て乾いた笑みを浮かべている。
「見ろよあれ、何人いるんだ……?」
「五……いや、七人だな。それをたった二人で……」
「操られてたやつの数はもっと多いぞ。二十以上もぶっ倒してるのに息ひとつ切らしてねぇ」
「凄かったぜ、ぴかっと光ったと思ったら、狐人がポーンッて飛んでてさ」
「そりゃさすがに言い過ぎ……でもなかったな、うん。俺も見たわそれ」
「銀色の矢がさ、パパパって飛んだと思ったら俺とアイツの間を通って向こうにいた奴に刺さってんの」
「なにそれこわい」
ボスゴが、傍らのウイバリーに尋ねた。
「な、なあ。何者なんだ、あの娘たちは?」
「えっと……ウーガの街の冒険者、のハズですが……」
強いとは聞いていたが、ウイバリーが双子の強さを間近で見たのはこの旅が初めてのことだった。何者か、と問われれば先ほどの答えが正解なのだが、まるで足りていない気がする。
そんな双子の正体はさておき、狐人たちである。
縛られている狐人の先頭にいるのは、村長に化けていた男だ。まだ椅子に縛られたままだった。
「さて。そこの男にはもう説明したんだが、あんたら狐人が入れ替わった村人たちがどこにいるのか教えて貰いたい。でないと、王家の直轄領の民を攫った罪で、あんたらの集落丸ごと焼き払われたっておかしくない事態になってるんだ」
改めてリオンは、狐人たちに向かって現在の状況を詳しく説明した。
それを聞いた狐人たちは揃って顔を青くする。
「……と、いうわけだ。あんたらの置かれた状況は非常に危うい。狐人の集落が山奥にあるんだって? それを守る為にも、先ずはなぜ、村人たちと入れ替わっているのか事情を話してくれないか?」
「……それを聞いてどうす」
「どうにかする」
最後まで言わせずに、リオンはそう言い切った。そして、背後の村人たちと一緒に成り行きを見守ってるボスゴに尋ねた。
「なあボスゴさん。この村の川エビ漁は散々狐人たちに邪魔された訳だが、あんたはコイツラをどうしたいと思ってる?」
「な、なんで俺に訊くんだよ」
「アンタが俺たちに最初に言ったんじゃないか。この村を助けてくれって」
「あっ、そう言えばそうだったな」
「だから村長が不在の今、俺たちはボスゴさんの意見を尊重したいと思う。ボスゴさんがそうしろって言うなら、ここにいる狐人全員を犯罪者として捕まえても良い」
「……本来だったらそうすべきなんだろうが……そうしたら、こいつらはその後どうなる?」
「やってることが山賊と変わらないから、まず処刑される。でなければ生涯重労働刑だ。王家直轄領で領民を攫ったんだからな。ここは王都から離れているから突き出すとすればウーゴの街だが、どの街の領主に連れて行っても結果は変わらん。見逃したり緩い刑罰なら、その領主は王家に叛意有りと思われる。きっと張り切って吊るしてくれるさ」
「「「…………ッ!?」」」
狐人たちが揃って顔を青くした。
ボスゴはそれを見て、周りの村人たちを見る。
村人たちも困惑した顔で、なにより。
「…………」
「…………」
無言で、しかし強く訴える様にソーラとセレネがボスゴを見ている。
ボスゴは大きくため息をついた。
「わかった、わかったよ。俺たちは仲間が攫われて入れ替わられても気付かなかったマヌケ揃いだ。何も言う権利は無ぇ。仕掛けを壊されたことにゃ腹は立つが、それもこの嬢ちゃんたちがブッ飛ばしてくれたのでチャラだ。おい、入れ替わった村人たちは無事なんだろうな?」
「もちろんだ」
椅子の上の狐人が断言する。
ボスゴは納得したように頷いた。
「だったら尚更言うことは何もねぇ。攫われた奴らが無事に帰ってくればそれでいい。リオンの旦那、アンタラの思うようにやってくれ」
「だ、そうだ。という訳で事情を話してくれるかな」
椅子の狐人は、大きくため息をついてから、語り始めた。
「――俺たちの集落が、襲われたのが始まりだったんだ」
ここまでお読みいただきどうもありがとうございます。
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また前回で宣言したSSストーリーのリクエスト引き続き募集してます(2018/08/10現在)
宜しければ感想欄にリクエスト下さいませ。
ボスゴ「村が困ってるんだ」
ウイバリー「商売の匂い!」
狐人「俺たちの集落が襲われたんだ」
ウイバリー「商売の匂い!」
ソーラヴル「あー、眠い」
ウイバリー「商売!」
次回ウソ予告
「2-12 商人の少女、えげつない商売をする」




