2-10 金と銀の少女、村人を殴り飛ばす
†
「それはならん! 冒険者など当てにはできぬ!!」
モーズ村長の突然の叫びに一同は大いに目を丸くした。今まで殆ど発言もせず、眉間に皺を寄せて聞いているだけだったのだから。
当惑したリオンが、モーズに尋ねる。
「ええと、冒険者は信用なりませんか?」
「ふん。冒険者なぞ、そこらのゴロツキよりタチが悪いわい」
「一部に素行の悪い輩がいるのは否定しませんが、全員が全員そうというわけでは……」
「口ではどうとでも言える。冒険者なんぞ信用したら、家族を攫われて奴隷か見世物にされるのがオチじゃわい」
そんなことしませんよ、とリオンは言うが、モーズは取り付く島もない。
「……村長さん、昔冒険者と何かあったのボスゴさん?」
「さ、さあ。村がこうなる前は、エビの運送やその護衛のため普通に冒険者たちもやって来てたからな。冒険者と揉めたなんて話は聞かねぇが……?」
ソーラヴルとボスゴがひそひそとそんな会話を交わす。
なお、運送に関わるような冒険者は商会や貴族が直接雇っている場合が多いので、身元は確かだし素行不良ということもまずありえない。
なにを言っても冒険者は信用ならない、と繰り返すばかりの村長に向かって、リオンはため息をついた。
「はぁ。できるだけ事は穏便に済ませたかったが、アンタがそんな態度じゃあなぁ」
さっきまで敬語だったのだが、リオンの口調が変わっている。
それを聞いてモーズはせせら笑った。
「ふん、早速化けの皮が剥がれおった」
「いいや。それはアンタの方さ――セレネ」
「父さん、茶番はもういいの?」
「構わん。どうやらこいつ、事態を甘く見ているようだからな。やってくれ」
「わかった」
ウイバリー、ボスゴが頭にハテナを浮かべてセレネを見る。
セレネは椅子を降りてモーズの方に近づくと、掌を見せた。
「な、何を……」
「これを見て――はい、お終い」
セレネの手がうっすらと青白い光を纏う。
起こったのは、たったそれだけのことだった。
「一体何を……?」
モーズが困惑した声を上げる。
そんなモーズを、ボスゴとウイバリーが呆気に取られて見ていた。
なぜなら――
「てめぇ、狐人……!?」
「コンッ!?」
モーズだった老人の姿はセレネの発した光と共に消えて、そこにいたのは狐人の姿だったからである。
バレた、と察した狐人の動きは素早かった。
テーブルの上のポットやカップを払いのけボスゴを牽制すると、テーブルに飛び乗り、部屋の外へと――
「行かせないよッ!」
だが、狐人の動きにソーラがいち早く反応していた。テーブルの上で行く手を遮る。
「畜生、そこを退けっ!!」
狐人が手刀を振るった。それなりに心得があるのだろう、鋭い攻撃。
だが、危険度判定Bの魔獣鬼猿をほとんど単独で圧倒できるソーラヴルの相手にはなり得なかった。
「退かない、よッと」
手刀を軽く躱すと同時に狐人の鳩尾に肘を叩き込む。
身体が折れ曲がったところに、顎に膝。ソーラとしてはかなり手加減したのだが、たった二撃で狐人の意識を刈り取った。
「こ……こ、コン……」
どさりとテーブルに倒れた狐人。
ボスゴもウイバリーも、目の前で突然行われた戦闘――というには余りにも一方的だったが――に再び呆気にとられた。
「じょ、嬢ちゃんスゲェ強かったんだな……」
「イエー」
テーブルの上でVサインのソーラにリオンが頷く。
パチパチと表情を変えずに拍手するセレネ。窓枠に止まったホルスがどこか自慢げに翼を広げた。
†
「さてボスゴさん。ソーラとセレネに村を案内してくれないか?」
「そりゃ構わないが、なんでまた」
リオンがテーブルの上で伸びている狐人を顎で示した。
「純人種の村に狐人独りで乗り込むってことも無いだろうからさ。きっと他にもいる。ソーラたちが居れば滅多なことも無いだろう。二人とも、頼んだぞ」
「わかった。嬢ちゃんたち、ついてきな」
「はーいパパ。行ってきまーす」
「きまー」
「ホルスも行くよッ」
窓枠を蹴って、黒隼のホルスがソーラの肩に飛び乗った。
欠伸混じりのセレネを急かす様に押しながら白狼ハティが続く。
村長の邸宅を出ると、村人たちが十数名集まっていた。
「ボスゴさん、前、前に出て」
「お、おう?」
ソーラに押されて、ボスゴが村人の前に出る。
「ど、どうしたよ雁首揃えて。最近てめぇら、引き籠ってたのに珍しいなオイ」
「いや……なぁ」
「おう。そりゃ、な」
ボスゴの言葉に、村人たちは顔を見合わせる。そんな村人たちの態度に、ボスゴは緊張を隠せない。つい先ほどモーズ村長が偽物だったのだ。この中にも、もしかしたら――と思うと、つい生唾を飲み込んでしまう。
そんなボスゴの背後で、ソーラはセレネと、ハティの方を見ていた。
「わかる?」
「わかる。あいつと、あいつと、あれとあっちも」
「結構いるなぁ」
「そっちとそっちのは狐人じゃない。けど、なんか術を掛けられてる」
「うへぇ……この分だと、村の漁士さんの半分くらいヤらないとかな?」
「それは無いとも、言い切れない」
「じゃ、ちゃちゃっとやっちゃおう。あたし、右側ね」
「了解。せーの」
セレネの合図でソーラがボスゴの背後から飛び出した。
「んな……コ ン゛!?」
鋭い踏み込みでボスゴの目の前にいた男の懐に入ると、顎を掌底で打ち抜いた。
崩れ落ちる男の変化が解ける前に、ソーラは電光石火の早業で、次の目標の前へと滑り込んでいた。
「な、何をしやがる――うおっ!?」
ソーラに向かって手を伸ばす漁士の肩に、セレネの放った銀矢がつき立つ。不思議と痛みを感じない――が、男は力が入らずにへたり込む。倒れた時には変化も解けて、狐人の耳も尻尾も丸見えになっていた。
「な、なんだコイツラ……狐人!?」
「おいあっちの奴も。ネイトまで狐人だった!? どうなってんだ!?」
「ボスゴ! あのチビガキどもなんなんだ!?」
「何なんだなんて、俺が知りてぇよ……銀色の嬢ちゃんも、なんでぇ、すげぇ弓捌きじゃねぇか……ははっ」
力なくボスゴが笑う。
銀色と金色の髪が靡くたびに誰かが倒れ、正体を露にする。
「クソッ、どうして判ったんだ!? 畜生、おい、お前らッ!」
漁士――に化けていた狐人の一人がそう叫ぶと、事態に困惑していた数名の漁士たちがビクンと反応した。
「あの金色のガキ、どうにかしろッ!!」
ソーラを指さし、狐人が叫ぶとその漁士たちがソーラに向かって殺到した。目から輝きが失われ、明らかに正気を失っている状態だ。
「えっと――その、ごめんなさいッ」
しかしその漁士たちが伸ばす手も、ソーラに触れることはない。
するりと手と手の間を抜けると間髪入れずに急所に打撃を加える。体内を駆け抜ける衝撃に、漁士たちは崩れ落ちて気絶した。
「……催眠操作系の術を掛けられているけど『入り』が弱いから精神的に酷く不安定。だから強めの打撃で術が解けて、その反動で簡単に気絶する。他にも――」
セレネが銀矢を放った。
空気を切り裂いて飛んだ銀の矢は、ソーラの背後に近づく漁士の肩に突き立ち、破裂する。ただ大きな音と瞬間的な発光を撒き散らしただけだが、それだけで屈強な体格の漁士の男は泡を吹いて倒れた。
「こういうやり方も」
ハティに跨って混乱する人々の間を駆け抜けながらも、セレネは次々と銀の矢を放った。そこかしこで閃光と破裂音が起こる。
ソーラとセレネの手で、あっという間に十人以上の漁士たちが地面に転がされていた。その数、ざっと十五人。
「くそ、クソクソクソッ!! 撤退、撤退だ!!」
狐人の男が叫んだ。
その言葉で漁士たちに化けている他の狐人がボンッという音と共に本来の姿に戻った。そして一目散にそれぞれあらぬ方向に駆け出していく。
「あっ、ちょっ、待ちなさい!」
「ふん! 行かせ――おごっ!」
「邪魔ッ!!」
中には反撃を試みる狐人もいたが、敢え無く返り討ちとなる。
残ったのはボスゴを始めとした、事態についていけない村人たち。
ピィーイ、と甲高い鳥の鳴き声。
「逃がさないよッ!!」
それを合図に、ソーラが駆け出して茂みの中に飛び込もうとしてた狐人を追いつき、殴り飛ばしていた。
縦横に駆け回るソーラと、正確無比に射貫くセレネ。
上空から村全体を見張るホルスと、セレネを乗せて疾駆するハティ。
不意に襲われた狐人が逃げ出す余地などある筈も無く。
「……なんでぇ、俺が村を案内する必要なんてなかったじゃねぇか」
さっきまでこの村がどうなるのかと、ボスゴは不安で仕方なかったが――今は別の意味でどうなるのかが心配だ。
取り合えず今自分にできることは、累々と横たわる狐人たちを縛り上げることくらいなものだろうか、とぼんやりと考えていた。
†
外が何やら騒がしくなっている頃、リオンは村長に化けていた狐人を椅子に座らせ、手足を縛っているところだった。
「えっと……これから、この人、どうするんですか?」
ウイバリーに問われて、リオンは軽い感じで答えた。
「まぁ、サクッと尋問してみようかな、とね」
「ええぇ……」
「ほれ、起きろ」
抜いた剣の腹で狐人の頬をはたくリオンに、ウイバリーは一歩後ろに下がるのだった。
申し訳ない、前日投稿予定だったのに、別の用事が入ってそのまま忘れてましたぁ!
許してください!
お詫びとして感想欄で先着二名の方の、この作品のSSストーリーのリクエストに応えます。
(ただしR18に該当する内容や、今後のストーリーの根幹に関わるような内容の場合、
リクエスト通りにできないかもしれないのでご了承下さい)。
よろしくお願いいたします!




