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2-8 親子と商人少女、村に辿り着く




 †



 ウイバリーは、藪の向こうから物音が聞こえるたびに身を強張らせ、そして不安そうに辺りを見回した。数分とかからず、森の中は静寂が戻ってくる。

 そんなウイバリーの一歩後ろで、リオンは泰然としていた。

 この程度の敵相手、ましてや待ち伏せを見破ったソーラたちが苦戦する筈も無い。


 そして道の両側から茂みを掻き分けて、ホルスを肩に止めたソーラと、ハティに跨ったままのセレネが現れた。当然無傷。


「討伐証明は?」

「勿論回収したよ」

「よし、よくやった」

「イエイ!」


 と、自慢げにブイサインを見せるソーラ。


「セレネの方、どうだった?」

「エビルホビットが木の上に七体。一方が追い立てて反対の藪に逃げ込んだところをもう一方が殲滅する二重の待ち伏せだった。いえー」

「うむ。セレネもよくやったな。だがその横ブイサインはやめなさい」

「え、エビルホビットとゴブリンが連携していたんですか!?」


 ウイバリーが驚いた声を上げた。

 ソーラが、更にリオンに質問を重ねた。


「それもだけど、どうしてパパは、さっきのが挟み撃ちだって気づいたの?」


 首を傾げるソーラ。

 少なくともハティは最初、ゴブリンの匂いしか嗅ぎ取っていなかったはずだ。


「ゴブリンは確かに頭は悪いが、一般に思われている程ではない。挟み撃ちくらいは当然仕掛けてくるんだが、今回ゴブリンは五体もいるのに一か所で待ち構えていた。ってことは、ハティの鼻が利かない風下側に何か潜んでいるなって予想が立つ。なら、身軽なエビルホビットかな? って」


 エビルホビットもまた、ゴブリン同様人型の魔獣である。

 体格は純人種でいう五歳児程度。知能も発達していないが、身軽で手先が器用なので今回のように粗末ながらも弓矢や砕石武器を持つことがある。

 そして一般的にあまり知られていないが重要な点は、同じ人型魔獣である矮鬼族(ゴブリン)豚鬼族(オーク)などに使役されることがある、ということだ。

 

 見た目醜悪だが、単体ではさほど危険ではないので新人冒険者がよく獲物としているが、今回のように他種族と連携した場合油断した冒険者が餌食になることもある。


「奴らの習性についてはよく勉強してたおいた方がいいぞ。今回は挟み撃ちだったが、落とし穴だったり毒矢だったり仕掛けてくることもあるからな」

「わっかりました、パパ!」

「気を付ける」

「し、知りませんでした……」


 元気よく手を挙げて答えるソーラヴルに、神妙に頷くセレネルーア。 

 

 ウイバリーは愕然とした。ゴブリンやエビルホビットという人型魔獣について、一般的な知識は持っているつもりだった。だが、そんな知識は全く役に立たなかったのだから。


「私だけじゃ、ここで無様に殺されていただけですね、きっと」


 しょんぼりとするウイバリーに、リオンは少し考えた。

 若くて健康的な女の子が奴らに襲われたら、死ぬより辛い目に遭うことが殆どなのだがそれを言っても慰めにはならないだろう。


「……もしウイバリーが、ソーラとセレネの戦闘力が羨ましいと思っているなら、それは間違いだからな?」

「えっ?」


 しょげていたウイバリーが顔を上げた。


「今、俺たち三人は運送役であると同時に、ウイバリーの護衛でもある。金で雇われているとはいえ、俺たちがウイバリーの戦闘力であると言える。そうだよな」

「え、えっと。はい、多分……」

「刃物は、何かを切るのが役目。金槌は何かを叩くのが役目だ。ウイバリーは俺たちを雇ってミーゴ村で交渉するのが役目。俺たちはウイバリーに雇われて運送兼護衛をするのが役目。金槌が何かを切り分ける必要なんてどこにも無い――刃物がここにあるんだから」

「金槌が何かを切り分ける必要は――無い。そっか、そうですよね」


 うん、と頷くウイバリーである。


「ま、できないよりできるようになった方が良いこともあるけどな。何でもかんでも一人でやろうとしたって、人間には手は二本しかないからできることに限りはある。だったら適材適所でやっていくべきなのさ」


 ぽん、とウイバリーの肩を叩くリオンである。

 そしてぽん、とその反対側を叩くセレネルーア。


「そう。わたしは早起きが苦手だけど、代わりにソーラが早起きしてる。適材適所」

「そうそう。あたしは夜更かし苦手だからセレネの代わりに――って、コラーッ! 朝はちゃんと起きなさーい!」

「やだ。眠い」


 追いかけっこを始める金色と銀色の双子たちをみて、きょとんとしたウイバリーが噴きだした。


 そうして一行は時折魔獣を撃退しつつ、約二日の行程を経て目的地のミーゴ村へと辿り着くのだった。




  †




 ミーゴ村は林業を主な生業とする山村だ。

 だが隣接するミーゴ湖で獲れる川エビが有名であり、キザヤ王国各地で需要が高いということで運送業関係者が多く駐留し、村の規模に対して非常に賑わいがある――というのが常だった。


 だが、


「すごい寂れている」


 セレネルーアが呟いた通り、村には活気が無かった。

 ミーゴ湖周辺に幾つか存在する桟橋は崩れ、ボートが半ば沈んでいる。通りに人気がほとんどなく、力の無い目をした漁師らしき男が岩に腰かけて、ぼんやりと湖を見ていた。


「なるほど。オーバリーが俺たちに依頼するわけだ。何かトラブルがあって、今は川エビが獲れない状態なのか」

「話には聞いていましたが、これほどとは……」


 ウイバリーが呆然として言った。

 元々ミーゴ村の川エビの売買は新規参入者が入れる余地など無い状態だった。

 だが、この数週間で、エビの出荷が大きく滞っているという噂を聞いたオーバリーが、何か起こっていると勘づいたらしい。もしかしたら、ポッと出の弱小商店がくいこむことができるかも、と。

 その売買交渉としてわさわざウイバリーが出張って来たわけだが。


「今はエビが全く獲れないのか? じゃあ文字通り商談(お話)にならないよな」

「ええ。これは困りました」

「ふーん。何があったんだろうね? ちょっと聞いて来るよ」


 そう言ってソーラヴルは駆け出した。

 ぼんやりと湖を見ていた漁師に声を掛ける。


「ねぇオジサン、ちょっと聞いていいかな」

「なんだテメェら、余所者か? ……余所者!?」 


 無精ひげの漁師は、ソーラとリオンたち一行のことをジロジロとみて、何かに納得したように頷いた。


()()()()()()()()()()()()。な。なぁ、アンタら見たところ冒険者みたいだが……頼む、この村を助けてくれ!!」




ここまでお読みいただき、どうもありがとうございます。

ミーゴ村で彼らを待ち受ける事態とは?


次回ウソ予告

「2-9 出現! メカモゲモゲ!!」


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