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2-7 金と銀の少女、先制する



  †



 ミーゴ村はウーガの街から西に徒歩で三日ほどの距離にある山間の村だ。

 主な産業は、林業。山深いこの土地では良質な木材が採れるので、このキザヤ王国各地に出荷されている。


 そしてミーゴ村には王国内の食通たちがこぞって買い求めているもう一つの名産品が存在した。ミーゴ湖で獲れる、川エビである。


「なんでもミーゴ湖は、山々から流れ込む川の数がとても多いんだと。それで湖は栄養豊富で、良質な川エビが獲れるらしい」


 リオンは横を歩く、二人の娘に説明した。

 山林を縫うように存在する道だ。ウーゴの街からミーゴ村に続く山道である。

 

「ふーん、美味しいのかな?」


 ソーラの何気ない質問に答えたのは、商談のため同行を申し入れたウイバリーである。

誂えたばかりの皮鎧に短剣を装備しているものの、武具に着られている感じが否めない。


「ミーゴの川エビは、キザヤ王国人だったら一度は食べておけ、って言われるくらいですから。食通の間でも人気の品なんですよ!」

「へえ……それは楽しみ!」


 ソーラヴルの言葉にセレネルーアが無言で頷いた。白狼ハティを撫でる手付きからして、セレネも期待しているらしい。


「でもさ、パパ。どうしてミーゴの川エビって高級品なの? 獲るのが大変とか?」

「違うな。この場合、金が掛かっているのは運送の方だ。どういうことは分かるか?」


 リオンの問いかけに答えたのは、セレネの方だった。


「……エビは足が早い。腐りやすいから保存と時間が問題」

「あっそっか! だからオーバリーさんはお父さんに依頼したんだ。【無限収納】も氷系の魔術も使えるから」

「二人ともそれで正解です」


 ウイバリーの言葉に、リオンが双子の頭をわしゃわしゃっと撫でると、「きゃあ、パパー」と嫌がる。だがそれが形だけなのは顔を見れば瞭然だった。

 そんな一行だったが、周辺の警戒を疎かにしていたわけではない。

 ソーラが、空を見上げた。

 高い木々の向こうに、黒隼のホルスが舞っている。


「ホルスが何か見つけた」


 続いて藪に向かってハティが視線をやる。唸って、警戒心を露にした。


「数は? そう……矮鬼族(ゴブリン)五、この先で潜伏」


 ハティが得た情報をセレネが簡潔に伝えた。


「て、敵ですか!?」


 ウイバリーが腰が引けたまま、短剣の柄に手を掛けようとするのをリオンが留めた。


「大丈夫。俺たちはきみの護衛だ。敵の指一本触れさせないから、ね」

「は、はい。ですが、待ち伏せされてるのは……」

「うーん。それなんだよな……道の片側で、ねぇ」


 矮鬼族(ゴブリン)は醜悪な見た目をしているが、知能が全く無い訳ではない。


「ということはこの状況は――」


 リオンは双子に状況を説明し、作戦を伝達した。

 

「と、言う感じだな。わかるな」

「うん! 大丈夫!」

「油断はしない。父さんとウイバリーは安心して見ていればいい」


 そんな会話を交わしながら、一行はまるで気が付いていませんとばかりに道を進み。

 もう数歩で潜伏しているゴブリンたちが襲い掛かる――という距離になったところで、動いた。



 

 †




 真っ先に動いたのは、ソーラヴルである。

 突如道を外れて、茂みの中にその身を突っ込んで行ったのである。

 獲物が予定の位置まで来るのを待ち構えていたゴブリンたちにとって予想外の行動だ。

 そして、


「……丸見えだね!」


 山道の方から見れば、その左右は藪に覆われ木立の隙間は暗がりになって良く見えない。だが藪が生い茂っているのは、道の縁だけだ。木立の間は明かりが足りなくなるため、下生えも少ない場合がある。つまり、待ち伏せするゴブリンたちは今のソーラからは丸見えだ。


「ギャ!? ゲッゲッ!!」

「行っくぞぉぉ――てえぇぇぇい!」


 ソーラが拳を握ると、金色に輝く闘気が吹き上がって拳を覆う。

 今更気が付いて喚いてももう遅い。地を蹴って吶喊するソーラが拳を振るう。殆ど同じくらいの体格というのに、殴られたゴブリンがすっ飛んで行った。


「グゲッ! ゲゲッ!」


 残った四体のゴブリンが石の斧や棍棒をソーラに向けるが、もう既にそこにはいない。回り込んで、ソーラの動きを見失ったゴブリンの腹に左右の拳を打ち込み、絶命させる。

 そこに上空から、金色の炎を纏い空を切り裂き急降下する影。

 黒い隼ホルスである。

 ゴブリンよりも遥かに強靭な毛皮に覆われた鬼猿(オニマシラ)をも手こずらせた威力の突撃。ゴブリン如きが耐えられる筈も無く。


「―――ゲェェェェ!!」


 右肩から先が宙に舞った。

 待ち伏せしていたハズが、二重の不意打ちにゴブリンたちは完全に混乱に陥った。その隙をソーラとホルスが見逃す筈も無い。


 ソーラが地面を蹴るたびに、地に落ちた木の葉と、金色の闘気の炎が舞う。

 あっという間に五匹のゴブリンは金色の娘によって殲滅された。


 一方のセレネルーアである。

 ソーラがやぶの中に突っ込んで行くと同時に、ハティに跨った。

 何もない両手を合わせると銀の光が収束し、一張りの弓が出現する。全体が銀色で、精緻な細工の施された、まるで美術品のような弓だ。

 ハティは主が騎乗すると軽やかに地を蹴った。ソーラが突撃したのとは、反対側の藪を跳躍して飛び越す。


 そしてハティに跨るセレネが、銀弓の弦を引き絞った。

 何もない虚空に、一本の銀の矢が生み出され――木の枝の上で困惑し、山道の方を窺っている邪精人(エビルホビット)たちへと狙いを付けて、射る。

 放たれた矢は無防備なエビルホビットの後頭部を貫通し、一撃で絶命させる。

 死んだエビルホビットが枝から落ちると、他の個体も背後に銀色の弓士が存在することに気が付いた。その数六体。

 手にした、粗末な弓矢で反撃を試みるエビルホビットだったが、ハティの動きにまともに照準を合わせることも出来ず、見当違いの場所に矢が突き立つばかり。

 ハティはセレネを乗せて、木立の間を目まぐるしく駆け回った。

 その激しい動きにも関わらず、セレネの放つ矢は正確にエビルホビットの急所を貫き、次々とその命を刈り取っていく。一矢たりとも外れることは無い。


「ギィー! ギィィー!!」


 苛立つように、最後に残ったエビルホビットの一体が喚き声を上げた。

 なぜこっちの矢は当たらない! なぜそっちの矢は当たる!?

 そう理不尽に対して憤っている様でもある。


「仕掛けて来たのはそっち。文句をいうのは筋違い」


 銀色の瞳で冷たく、そして冷静に呟いたセレネは引き絞った弦を放した。

 同時にエビルホビットも矢を放つ。

 宙で交差した二本の矢だったが、秘められた威力は全くの桁違いだった。

 銀色の矢の纏うそれに、木の枝で出来た矢が弾かれる。全く軌道をブレさせることなく、射手の狙い通り、銀の矢がエビルホビットの心臓ごとその命を貫いた。




 


ここまでお読みいただきどうもありがとうございます。

このミーゴ村編、プロット組んだとき3話くらいで終わると思っていたんですけどね……






あと20話続きます。

どうしてこうなった。




次回ウソ予告

「2-8 元勇者の村興し。爆誕!超ミーゴ村!!」

リオン「村興しに必要なもの……それはーーゆるキャラ!」

一同「「「ゆるキャラ!?」」」

こうご期待(棒)


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