表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/89

2-4 銀の少女、翻弄する




  †



 一方、セレネと斧士の男は一騎打ちの様相となっていた。


 ソーラが魔術士に殴りかかったことで槍士に挟まれた時、斧士の男はセレネに迫っていた。


 盾士がいなくなった時は彼が最前線に立つ役割であったこと、そしてセレネに援護をさせないことでソーラを孤立させること、二つの理由による行動で、それは正しい対応だったと言えるだろう。


 誤算は、セレネもまた近接格闘の経験は十分に積んでいるということだ。

 一対一となったことで、セレネはむしろ行動の自由度が上がった。

 こと近接戦に無類の力を発揮する双子の片割れのことは、欠片も心配はしていない。


「くっ、そっ! ちょこまかと……逃げやがって!!」


「当然。当たれば痛い。だから避ける」


 ぶんぶんと振り回される斧を、セレネはバックステップの連続で避けていた。


 しかしそれを繰り返せば壁に囲まれた広場で行き場を失うのは当然だった。

 何度目かのバックステップで斧を避けた時、その背中が壁に当たる。


「――しまっ……!?」


「馬鹿め! 喰らえ、【重斧撃】!!」


 セレネを追い詰めた斧士は、好機とばかりに必殺の一撃を繰り出した。

 斧の闘気技としては基礎的な技だが、それだけに自由度が高く出が速い。技を鍛えることで威力も十分なものになる。


 訓練用の木製武器とは言え、当たれば骨折では済まない破壊力を秘めた一撃が、逃げ場を失ったセレネの頭上に落ちる――


 しかし。

 動揺したかの様に見せた表情は一転して元の冷たい眼差しの物になる。

 その瞬間、斧士の目にはセレネの身体の輪郭がブレたように見えた。


 ガコンと石壁を打つ斧。

 そこにセレネの姿はなく、格闘士(ソーラヴル)顔負けの踏み込みで斧士の男の背後へと抜けていた。


「んな――ッ!?」


「ウソ。当たらなければどうということは無い」


 【月技・隠月】。

 雲に隠れる月の様に、相手に自身の位置を見失わせる技である。

 高位冒険者である斧士の男には本来通じることの無い目くらましだが、好機と油断し必殺技を放った今ならば別だった。


 そして致命的な隙を、セレネは得た。 


 男が驚愕し振り返るより早く、セレネの踏みつけが男の膝裏に叩き込まれる。強制的に膝をつかされた男の背後から首に絡みつく細い腕。仰け反らされる喉に突き付けられる矢。


 一瞬の出来事。

 そして男の顎を掴むセレネの意外なまでの強い力に、斧士の男は、背後の少女をあらゆる面で過小評価していたのだとようやく気が付く。


「降参する? 降参しないならもう手加減はしない」


 チクリと喉を突かれる斧士の男は、金髪の少女に殴り飛ばされる魔術士の姿を見た。

 訓練であるため、盾士も弓士も、立ち上がってはいる。

 喉元に突き付けられた矢にも、鏃はついていない。抵抗しようと思えば、できる。


 だが、誰がどう見ても勝敗は決していた。

 盾士や弓士は二人がその気であったら、追撃を受けていたハズだ。槍士や彼自身も同様で、訓練と称してもっと酷い怪我を負わせることも――あるいは、命に関わるような状況に追いやることも可能だったはず。


「……わかった、降参だ」


「ほかにも言うことがある」


 再び喉を小突かれて、男は叫んだ。

 それで背後の銀髪の少女が、思いの外怒っていたのだと男は知った。


「悪かった! 俺たちが悪かった!! はるばるこの街までやって来たのに無駄足だったと知ってイラついてたんだよ。お前らの実力は本物だ! カラんで悪かったよ!!」


「良し」


 その言葉に満足して、セレネルーアは男から離れた。


「やったね、セレネ!」


 寄って来たソーラに、セレネは小さく頷き、ハイタッチを交わした。

 二人は並んで、観覧席に居るリオンを見た。


 リオンが満足そうに親指を立てると、金と銀の双子は天使のような笑顔を咲かせ。

 リオンがその親指で喉を掻っ切り地面に向けて落すと、悪魔もドン引きする笑みを見せた。


 双子の悪魔が、意気消沈する冒険者たちに向き直る。


「じゃあ、さっきのお金と」


「アンタラの持ち金全部出す」


 斧士の男は、一瞬呆けた顔をみせた。


 例の金は、わかる。

 鬼猿(オニマシラ)討伐の報奨金だ。

 それで揉めた――というかイチャモンを吹っ掛けたのだからそれはわかる。


 だが、 


「も、持ち金全部ってどういうことだ!?」


「父さんは言った。『アンタラが持ってる金(・・・・・・・・・・)とこの袋の魔石、併せて勝った方の総取りで勝負』って言った。あなた達はそれを受けた」


「うん。間違いないね。はい、そこの人。あなたも聞いてたよね?」


 ソーラに話しかけられた野次馬の一人が、記憶を探り……


「あ、ああ! 確かにそう言ってた。袋に入ってる金とは一言も言ってねぇな!」


「そうだよな。じゃなきゃ、お嬢ちゃんたち勝負する何のメリットも無いしな」


 状況を理解した野次馬たちが騒ぎ出す。

 同じく状況を理解した男たちが、立ち上がって怒り出した。


「ふ、ふざけるな! こんな賭け無効だ無効!!」


「そうだ! いくらなんでも有り金全部だなんて……ふぐっ!?」


 しかし、斧士の言葉は最後まで口にすることができなかった。

 寄って来たリオンによって、顔面を掴まれたからである。


「んんん~? お客さァ~ん。賭けに負けたんだったらちゃんと払うモノ払っていただかないと、困るんですよねぇ、んん?」


 慇懃無礼を絵に描いたような態度である。

 にこやかな笑顔だが目が全く笑っていない。


 みしみしペキペキと音を立てる自分の頭蓋骨の音を聞きながら、斧士の男は、ここに来てようやく気が付いた。


 娘二人だけじゃない。

 娘を心配する父親も、内心ではブチ切れまくっていたのだと。

 さっき手を掴まれた時にも怒りを抑えて手加減をしていたのだと。


 自分たちは踏んではならない化け物の尾を踏んでしまったのだと。


「む~~! む~~~!!」


「さぁ」


「早く」


「有り金全部」


「「「払って貰いましょうかねぇ~え!!」」」


「む~~~!!」


 悲痛な呻き声と、笑顔で獲物ににじり寄る三人の悪魔。野次馬たちのドン引きする「うわぁ……」という声が静かに辺りの空気に、溶けて消えた。





対冒険者パーティ戦、これにて終了。

双子の圧倒的な勝利で幕を閉じました。

これが本当の殺し合いだったらまた違った結果になったかも知れませんが(棒)。


ちなみにこちらもサブタイトルは変更していまして、本来だったら、


2-4【坊や良い子だ金出しな】金と銀の双子とその父、冒険者たちを××する【幾らと言わずに財布ごと】


の予定でした。

我ながら酷いサブタイトルだ……。


面白いと思っていただけましたら、ブックマーク・感想・評価をお願いいたします。


次回ウソ予告「2-5 巨悪キザヤ王国を打倒せよ!!」乞うご期待。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ