一人称は…
私が考えている間も、高橋さんはずっと謝っていた。
あんまり謝られて、こっちが申し訳ないから、私はこう言った。
「大丈夫ですよ。そんなに謝らないで下さい…」
この言葉、昔誰かに言ったな…なんて思い出していたけど、高橋さんとの会話に集中する事にした。
『…ありがとうございます』
「だけど、私嬉しかったです」
高橋さんが私とお祭りに行くのを楽しみにしてくれているのかも…と思うと、さっきまでの落ち込みはなくなった。
『俺は、長野さんと一緒に行きたいので』
いつもは、こんなにはっきり言ってくれないのに、今日はどうしたのかな。
一人称も"俺"だし。
「そんな…。私も高橋さんと行くのが楽しみです」
高橋さんが本音で話してくれるのなら、私もそうしようと思った。
『嬉しいですねぇ。そういえば、お祭りの日、浴衣は着ますか?』
「浴衣は、迷ってます」
久々に着たいけど、動きづらいのは嫌なんだよね…。
『浴衣姿…見たいです』
今、高橋さん何て言ったの?
私の聞き間違いじゃなければ…
『長野さんの浴衣姿…見たいなぁ…』
甘えたような声で、そう言われた。
やっぱり聞き間違いじゃない。
「わ…分かりました。浴衣で行きます」
あんな風に言われたら、断れないよ。
浴衣の着付け、お母さんに手伝ってもらおう…と決めた。
『やった。あっ、すみません。時間、遅くなっちゃいましたね』
「大丈夫ですよ。高橋さんも大丈夫ですか?」
『大丈夫ですよ。また、お話しましょう』
「はい。皆がいない所だったら、会社でも大丈夫なので」
また、高橋さんとお話出来るのが楽しみ。
『そうですね。じゃ、おやすみなさい』
「おやすみなさい」
電話が終わった後、今の事を思い返したけど、嬉しくて仕方なかった。