闇を払う者・闇を求める者
「マジックシールド!」
ライアックはルークの短剣が突き刺さる前に、魔法で作った盾を自分を覆うまで拡大させた。直後剣と盾が衝突し周りに凄まじい衝撃が走った。大きな木の一本が五メートルぐらい吹き飛び、船は乗客が何かに掴まっていないと海に投げ飛ばされるほど動いていた。ルークはこのままでは埒が明かないとおもったのか、後方に大きく飛んだ。
(まずいのぉ。今のルークは闇に取りつかれているせいで恐ろしいほど強くなっている。このままではわしが攻撃しなくても勝手に肉体が滅びてしまうじゃろう。仕方ないが手っ取り早く終わらせるかのぉ。)
ライアックは右手をルークに向けると
「ライトニング五重詠唱!!」
本来、ライトニングは一本の指から一つの稲妻が出る魔法である。しかし、ライアックは同時に五回ライトニングを唱えた。五本の指から一つずつ稲妻がルーク目掛けて迸った。通常、魔法の重ね詠唱は三重が出来ればその人は凄腕といわれる。しかし、三重詠唱出来る人は魔法が使える人の五パーセントの人も使えないと言われている。これは才能による部分が多く、一生訓練しても二重詠唱も出来ない人もいればライアックのように人の道から外れた人もいる。
稲妻がルークに当たり爆発したように見えた。しかし、ルークは後方に飛び致命傷は避けたが、短剣を持っていた右腕は一つの稲妻がかすり感電してしまった。動かそうとしたが意に反して動かない。
「ヤッテクレタナアノジジイ! グチャグチャニシテヤル!」
「師匠に対する口がなってないのぉ~。悪いがお前は表にいてはいけないやつ、今のわしでは完全消滅は難しいがルークの中に戻すことは容易じゃ。じゃあまたの~。二度と会いたくないが」
ライアックはルークが避けるのが分かっていた。というよりもわざと後ろに飛ぶように稲妻を目の前の地面に落とした。そして、落とした瞬間にテレポートを使いルークの後ろに移動した。ルークが振り向くよりも早くライアックは左手を相手の頭に置き、
「邪なる者よ再び眠りにつくのじゃ。アビネス!」
呪文を唱えると左手から目を開けていられないほど眩い光が発生した。すると、ルークを覆っていた闇が体の中に吸収されるように入っていく。
「グギャャャャャャャャャャャャ!」
断末魔の声が闇から発せられた。直後、闇は跡形もなく表から消え、前に倒れるルークをライアックは胸で受け止めた。すぐに抑え込んだため精神にも肉体にも心配すべきダメージはないように見えた。一応ポーションを無理矢理飲ませた。そして、元気になって起きたのか無理矢理飲まされて起きたのか分からないルークが
「あれ、師匠? 俺は、ってなんじゃこれーー! 右手がしびれて動かないんだけどーー!」
「思ったよりも元気で何よりだのぉ~。それよりもルークよ。さっきお前が勘違いしたことなんじゃが」
ライアックは少し警戒していた。また闇がルークを乗っ取るのではないかと。封印したとはいえその器はルーク自身である。彼が憎しみを抱けばそれに呼応して闇が再び現れる可能性が無いとは限らない。しかし、ルークの顔を見たライアックが少し理解できない表情になった。しかもそれはルークも同じであった。
「勘違い? 俺なんか勘違いしたの」
彼は腕を組み一生懸命何かを思い出そうとしていた。
「覚えてないんか」
「覚えてないというか師匠が俺の肩を叩いて気付いたら何か手がしびれてるし。何があったの」
首を傾げて瞳を大きくしてこちらを窺っていた。本当に覚えていないことに安心と困惑が合わさりライアックは考えていた。少し考えた後
「さぁーての。自分で考えるんじゃのぉ」
「は? なんでだよ、教えてくれよ。知ってるんだろう」
「あ~年のせいでボケたボケーた。わしゃなんも知らんのぉ」
ライアックは上機嫌に笑いながらボケたふりをした。こうなったら聞き出すのは無理だと長年の経験から感じ取ったルークは「はいはい」と言い船に乗ろうとした。
「やっべぇーもうあと少しで船が出発してしまう! じゃあな師匠。俺必ず合格して帰ってくるから!」
「じゃ~の。・・・あ、待つのだよ~」
「何だい?もう時間がないから手短にしてくれよ」
ライアックはルークが倒れ掛かったときに落とした短剣を前に出した。
「落とし物~」
「あれいつの間に。ありがとよ」
「最後に一つ。その杖にある宝石は一度きりだが絶大な魔法が発動する。しかし、その結果が善か悪かはお前次第じゃ」
「あ?それってどういうーー」
「もう時間じゃ。じゃあのぉ。頑張れ~」
そう言い残したライアックはテレポートでどこか行ってしまった。自分が忘れた約束を向こうが果たしてくれたのは複雑な気分だった。
(善か悪かねぇ。言ってる意味は分からないけど出来ることなら使わないで合格したいな。もし使って何かあったら-。俺責任取れねーよな)
苦笑いしながらルークはようやく船に乗れた。彼が乗るとすぐに船は出発した。徐々に小さくなっていくグラン島を見ながら旅立ちの意を固めた。
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「すごいまほうだったね。とってもつよかったみょー」
ルークとライアックの戦いを上空から見ていた者が二人いた。一人はまだ十歳にもいってないような幼い顔立ちをした女で髪は目が半分隠れるショートの長さで目と髪の色は、海を想像させる綺麗なライトブルーだ。また、膝上まであるスカートも膝と腰の間まであるローブも、長さが数十センチメートルしかない杖もすべての色がライトブルーである。声に関しては、美声を超越してその声だけで生物を虜に出来るほどの綺麗で透き通った声だ。
「だっだっだー!でも、あの爺さん本気出してないように見えだっだー」
そしてもう一人は、屈強な肉体の男で体のいたるところで筋肉の山が連なっている。身に着けているものは、膝に届くぐらいの動きやすいハーフパンツと自分の身長である二メートルと同じぐらいの長さで幅五十センチメートル、厚さ一ミリメートル以下という切れ味を優先したように見える大きな剣のみだ。目には包帯が巻かれており髪はなく、肌の色は赤褐色に近い。
「そりゃそうでみょ。あのおじさんほんきだしたらこのしましずんちゃうよ~」
「だー。わいあの爺さんとバトリたいだ」
「っめ! うらたちのもくてきはちがうでしょ!」
屈強な肉体の男が幼い女にデコピンされながら説教をしている姿は、もし見ている人がいたらみんなが笑みを浮かべる様に見える。
「知っとるわ。わいらの目的はあのガキとっ捕まえれば良いんだっだー」
「そうよ、うらたちとおなじやみをぐげんかできるひとのかんゆう。うらたちのそしきになかまとしてかんゆうする、むりならばギッタンギッタンみょ」
「殺すことになったらわいにやらせて欲しいだー」
「や~よ。あの船であんたが暴れると目立ってやりにくいでみょ。その時はうらがやるみょ」
「だっだっだー。珍しくやる気になっとるだー」
「いがいにかわいかったしあそびたいだけみょ。でみょ1ばんはかんゆうにおうじてくれればたがいにアップアップーでおわるからね」
「そうだったら良いんだっだ」
しばらく話していると、船が出発するのが見えた。二人は目を合わせて〈男は包帯を巻いているが〉空中を移動し始めた。直後、彼女たちの雰囲気が井戸の底のように暗くなった。
「きゃると・あ・じゅえのなのもとににんむをすいこういたします」
「キャルト・ア・ジュエの名の下に任務を遂行いたします」
二人は小さな声で発した後、姿を消した。
今回は戦闘シーンがすぐ終わっていますが、この先はもっと長く濃いものにする予定です。評価の方や感想等してくれると励みになりますので、宜しくお願い致します。