狂乱
朝起きると焦ることなく慎重にゆっくり準備をした。本来なら試験本番の日にゆっくりとするのは強者に許された行動である。しかし、ルークは自分が強いとは思っていない。にもかかわらず急ぐ様子がないのは試験会場に行く船が来るのにまだ約一時間あるからだ。試験会場になっているバイナ島はルークのいるグラン島の北西に位置する。また、バイナ島の南西にはリム島、北にはアスロ島がある。冒険者試験は毎回バイナ島が会場で他の三つの島が合同で試験を受けることになっている。このため船は三つの島を経由してバイナまで行く。船の出発島は順番があり、今回はリムから出発し時計回り、つまりグランに着くのは最後になる。リムを出発するのは十時で順調にいくと十五時にグランに着く。
「まぁ、バイナに着くのは明日の九時ぐらいかな。順調にいけば」
ふとルークが時計を見るとすでに十四時になっていた。船着き場まで歩いて一時間ぐらいかかるため家を出る準備をした。
ルークの服装は上下動きやすい服で下は白のズボンで所々に黒で雷に似ている模様がある。上は黒のマントに所々に白で雷に似ている模様がある。マントの中は黒のインナーを着ているがマントをかぶるとほとんど見えない。マントの中には小瓶に入れたポーションが二本と非常用の黒の短剣が入っている。
(非常用に短剣は持っていくけどこんなの脅し程度しか使えなよなー)などと思いながら最後に長さ八十センチメートルある木で作られたまっすぐな杖を手に取った。この杖はライアックがくれたもので、先には赤く光る宝石が埋め込まれていた。この宝石については船着き場で会う約束をしているのでその時教えてくれるらしい。いろいろな準備を終えてルークは玄関に走っていき、
「では! 立派な魔導士への旅開始!」玄関で大きな声を出し、おもいっきりドアを開けた。
船着き場までの道のりは商店街を通り平原を超えた先にある。途中いろいろな人に応援された。冒険者試験を受ける人はこの島ではルークが十人目になる。他の島ではどうなのか知らないが、人口が二千人の中で十人目というのは決して多くない。それだけに周りの人たちは物珍しさに声をかけてくる。
(あれは応援というより、ただ声をかけただけなんじゃないかな)内心そう思いずつもみんながそうとは思えなかった。まだ幼い子供たちは嘘偽りない笑顔で応援してくれた。
(けど、今さら応援なんてされても関係ねぇ。俺は誰に言われようとも冒険者になる。それを批判するのがだれであっても!)思い出したくない過去を一瞬思い出し、頭を振って再び忘れた。
船着き場につくとすでに試験会場行きの船が止まっていた。おおよそ五千人は軽く乗れるほどの大きさで色はすべて赤! まるで地獄行きの船に見える。驚きを隠せないルークの右肩にポンッと誰かの手が乗っかった。ルークは慌てて後ろの向くと、白いローブに金の刺繡がまるで龍を表してるように施されており、白いひげはお腹まで伸びている自分より頭一つ分身長が高い爺さんがいた。
「なんだ師匠かよ。びっくりさせないでくれよ」ルークはその爺さんがライアックだと知りほっとした。そして約束していたことを聞こうとした。
「師匠。この杖にある宝石について教えてくれるんだろう? もう船もあと十分もしないうちに出発するらしいから出来るだけ手短にたのーー」
「ルークよ」
突然ライアックが話し始めた。しかも顔がいつもより真剣で声にも強い意志が込められている感じがした。どうしたんだよとこっちが聞くより早くライアックの口から耳を疑う言葉が出された。
「⋯⋯試験には行くな」
「は?」
「今回の試験はわしはちと嫌な感じがするの~。具体的には#$’&#$#&%--」
ルークはライアックの言葉が耳に入らなかった。今まで自分の夢を応援してくれた人が、少しむかつく部分があるけどすごい人で、少し尊敬していた人に言われた言葉に心が沈んだ。本当はライアックが自分を心配してのことだとその時には思えなかった。その時ルークは思った。
(おまえもか)
そしてルークから異常な殺気が発した。ライアックですら一歩下がるほどの闇そのものとも言えるほどの邪悪なものがライアックに向けられた。ライアックは長年の経験から戦闘態勢に入った。
「ルークよ落ち着け! 勘違いするな。わしはただお前を心配してなんだ」
ライアックの言葉にルークは答えた。
「キル」
短剣を持ちライアックに向かって突進した。
今回説明が長くなってしまいました。最後まで見ていただけると嬉しいです。また、感想とかあったら書いていただけると幸いです。