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植草は、梅本たちの前まで歩み寄ってくると、眉をハの字にくねらせた。
大勢の前でさらりと嫌味を発言するところ、つまりは植草がそういう奴であり、その矛を向けられた先の不快感は容易に推しはかることができる。
梅本は顎を引いて仰け反った。……相手にしたくない。
「ちは。――見ていたところ、二人ほど危ういのがいるなぁ」
「そお?」桔梗院は斜に構えている。
「まだ時間はあるだろうけど、もう少し精度を上げてもらわないとさ。俺たちの足を引っ張ることにもなりかねないよ」
――俺たち? こんな作業で、精度ってなんだ?
彼の中では、梅本たちが(できるチーム)に分類されていて、いつ間にか仲間になっているようだった。
桔梗院も拍子抜けしたのか「お、おう」と返答に困って、梅本へ視線を投げた。
「あっち空いたのかな? じゃ、もう一回やってきますねー」
森くんが場をさらうように言って、歩いていった。
「じゃあ、俺も」梅本は逃げた。
馬酔木が目を伏せがちにして、梅本に続く。
一瞬、目を見張った桔梗院は渋い顔を作ると、意味もなく首を上下に振っている。
また植草の順番が回ってきたとき、梅本は何気に彼の手元を見ていた。
植草はカプラを爪先でつかみながら、配線を指で挟むように持って、抜いている。配線じたいを引っ張ってはならないと言われているが、そこらへんの微妙な力加減は心得ているようだった。ナットにしても、すべてを仮留めした後、まず中央を本締めしてから対角線上に締めていた。たしかに小慣れした感じが見受けられる。
「終わったよー。はい、次の人ぉー」
植草は作業を終えると立ち上がり、また両手を広げて首を傾けた。
梅本たち四人はそれを見て、愛想を尽かしたような顔を突きあわせた。
「あれはツッコミ待ちだろ? 欧米かって、そろそろ言ってやれよ」
梅本は四人の中で一番遠慮しなそうな桔梗院を選んだ。すぐに「嫌っすよ」と彼は返す。馬酔木はクスクスと笑っている。
植草がまた梅本たちのほうへやって来て、得意のポーズで、ため息をついた。
――それ、一日に何回やるんだよ。
「こんなの、楽勝ポンピンタンOKっすよね」
「ポンピンタンって何だよ」
「やだなぁ。リズムっていうか語呂っていうか、ノリっしょ! つい入れちゃいません?」
その上位互換に(マンキンタンOK)というのがあるらしい。心底、どうでもいいと思った。
そこへやっと三枝が戻って来た。
「みなさん、練習のほうはどうですか? え~今から全員で現場に行きたいと思います。一旦、機械室の前で待機してもらって、一人ずつ順番に入室して実際に見てもらうことになりました。――それで、確認し終わった方は、またこの部屋へ戻って来て練習の続きをしてください。それでは……」
練習中の者も途中で手を止める。ぞろぞろと移動開始だ。
廊下を広がって歩くわけにもいかず、自然と二列になる。梅本の前を行く馬酔木から、軽い不平が聞かれたのはそんなときだ。
「まぁだ練習をさせるつもりなの?」
「こんなので金を貰えるんだから、いいだろ?」桔梗院は答えた。
う~ん、と彼女は不服の様子。金になるなら何でもいい。それが楽な仕事なら、なおいい。そう考える奴と、やり甲斐を求めて燃え上がり充実した時をすごしたい、と考える奴との対立か? いや、彼女はさっさとやり終えて、桔梗院とドライブにでも出かけたいだけだろう。
――ちくしょう。
隣を歩く森くんにちらりと目を向けると、彼は馬酔木の尻あたりを凝視していた。それでいて難しい顔をしているのだから不可解だった。
そういえば、森くんには現在彼女がいるのだろうか?
車の助手席の位置やダッシュボードからは、彼女がいるような形跡は見られなかったが。ご多分に漏れず花川を慕っているようだと感じるのは、思いすごしではないと思う。はたして、彼女の秘密や所長との関係に気づいていないのだろうか。
森くんに倣って、梅本は左右に揺れる馬酔木の尻を凝視した。そして笹尾のことを思い浮かべた。そこから連想して、松コーポレーションはどうなったかと、ふと気にした。
梅本たちは同じフロアにある機械室の前に立ち、邪魔にならないよう一列になって待たされた。
三枝が先に入り「一人ずつ入って来てください」と手招きしている。待っている間、皆所在なげに辺りを見回している。
階段がすぐ脇にあるが、今は誰も利用していない。歩行器を押して往来する入院患者が、不思議そうな視線を向けては去っていった。「ごくろうさまです」と言って会釈していった若い看護婦を、皆が目で追った。途端に桔梗院が馬酔木に横腹を突かれて、ウッと呻く。イチャイチャしやがってと思いつつ、森くんを見ると、やはりムッとしている。
――羨んでいるのか。もしかして、森くんは小デブ好き?
下衆の勘ぐりで得るものはない。
桔梗院と馬酔木が戻っていき、森くんが部屋から出てきた。「お先です。あれはちょっと低いですよー」と感想を述べて戻っていった。
梅本が軽い会釈とともに機械室へ入ると、三枝は片膝をついて待っていた。
指差す先に、ぽっかりと四角い穴が開いていた。左右の壁に所狭しと並ぶ配電盤とは別になっているようだ。基盤は、壁が膨らんだように飛び出た半円柱に埋め込まれていた。
梅本が床にあぐらをかいた姿勢で胸の位置。……なるほど、低い。そうとう猫背にして顎をあげた状態で、一番上のナットが見えない。かといって寝そべってしまえば、今度は高い。腹筋運動の途中で止めた体勢をキープしろといっているのか。神経を逆なでするような位置だった。
同じ注意を何度も繰り返しているせいか、三枝の説明は早口だった。その最後に、
「どうですか? ちょっとやりにくい高さですけど」
「まぁ何とかなると思います」
桔梗院はつらいだろうな、と思いつつ、梅本はほくそ笑んだ。




