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就業ルイン  作者: ゆぞぅ
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 梅本はコンビニに寄ってからマンションへと戻った。

 シャワーを浴びて朝飯を済ませると、もうすることがなくなった。食後に甘い物を摂って、栄養を余すことなく体に吸収させようとする意図はなく、アイスバーを口に頬張って、ベッドでゴロリと横になっている。もう片方の手でおもむろにスマホを手に取る。画面に表示されていたメールを開いてみるも、ネットショップの宣伝ばかりだった。

 アイスの棒にしみ込んだ糖分までも吸い取るかのように(ねぶ)りたおしているとき、竹本へ嫌がらせの電話でもしてやろうかと思いついた。が、あまりに不毛なので止めた。どうせ面白い話は聞けないだろう。

 右へ左へと寝返りを打って、何をしようかと考えているうちに、梅本の体はベッドにズーンと沈んでいった。


 オエッと、えずいて飛び起きたのは、アイスの棒が梅本の(のど)ちんこを突いたから。

 時刻は十二時になっていた。梅本は顔を洗い、ぼうっとする頭を振った。

 あぁそうだ! と思い出し、梅本は藤木モータースへ電話を入れた。頼んでおいた取付けステーが仕上がっているか確認するためだ。

 結果、できているということだったので、出かける支度を始める。じわじわと陣内のことが頭に浮かんで、なるだけマシな恰好を思った。が、どうにも手持ちが少なすぎて悩みようがない。

 アイボリーの作業ズボンにデニムのシャツを羽織って、鏡の前に立つと、一つだけ短いため息をついて出掛けた。


 前々から相談していたリアキャリアが、今日やっと装着できるのだ。スタイル面でいうなら少々不恰好になるが、バイクを生活の足として使っている以上、積載能力の向上は考えなければならない。

 キャリアじたいは藤木モータースの裏の倉庫に転がっていた物で、タダで譲ってもらった。元々Z125用ではないので、取付けるには加工が必要だった。それの製作を頼んでおいたのだ。



 梅本が作業場に顔を覗かせると、藤木は大きく手招(てまね)きしてくる。

「そのまま、作業台に載せて」

 梅本はバイクのまたがったまま、店に突っ込んでいった。


「んじゃ、パッパッと着けちゃおうか」

「そうしますか」

 エンジンを止めると、二人してさっそく取り付けにかかった。装着するためのボルトは、たったの四つ。内二つはリアショックと伴締(ともじ)めになる。じつに簡単だ。

しかし、てきとうに採寸した箇所にやはり誤差が出た。実車に逐一合わせながらでないと、こういうことは間々あるのだ。余分な隙間ならスペーサーをかまして調整できるが、今回は入らない方向への誤差だった。キャリアステーを削る必要がある。藤木はその調整に手間取った。

 その慎重すぎる作業は、梅本から見ると苛々するものだ。しかし、きっちりとしたい藤木の気質も理解できる。前のエイプのときもそうだった、と記憶をたどって鼻息を漏らす。何とか最後は少々の力技で装着できたしだいだ。

「しょっちゅう脱着するわけじゃないからさ」

「そうですよね……」

 ちょっと前から店に顔を出していた純さんが「終わった?」と声をかけてくる。完成したバイクを見て、微妙な反応を見せた。納得がいっていないという顔だ。


「ちょっと恰好悪くなりましたけど、これがないと不便でしかたないんですよ」

 純さんから何か言われる前に、梅本は弁解した。

「そう……。ま、こっちに来て、麦茶でも飲んでよ」

 一切の無駄を排除したレーサーバイクばかり見ていると、そんなふうに感じるのかもしれない。

――二人が若かりし頃に乗っていたチンドン屋みたいな族車に比べれば、ずいぶんとマシだけどね。

 いつか見たアルバムを思い起こして、梅本は心の中でつぶやいた。


 金を落とさない客が長居しても迷惑なだけなので、梅本は早々に店を出た。

 今からは、服を買いに行ってもいいし、松コーポレーションの様子を見に行ってもいい。天気が良いので、峠方面へ足をのばすというのもアリだと思う。もちろん陣内のことは忘れていない。


 さてどうしたものか、と考えながらバイパスへ出る通りを走っていて、とある信号に引っ掛かった。

 何気に交差点の角にあるレストランを見ていると、その店からひょろ長い男が出てくるところだった。

――あれ、桔梗院(ききょういん)

 はっきりと顔まで見える距離ではなかったが、あの風体に歩き方、おそらく間違いないと思った。声をかけるにしても、あいつに用はないし、そもそもド短期同士にプライベートの付き合いはない。しかも向こうは女連れだった。

 早く信号が変わってくれたらと視線を戻したときに、大きな声で名前を呼ばれた。また見ると、桔梗院は長い腕をゆらゆらと振っている。

――やめろよ……恥ずかしいだろ。何でわかったんだ? 目のいい奴だな、まったく。

 梅本は不承不承といった感じで、片手をあげて応えた。

 それだけで、もう行ってしまっても良かったが、交差点の信号がまだ赤だ。何が嬉しいのやら、桔梗院はこっちに向かってくる様子だ。彼女自慢でも聞かされるのか?

 梅本はガバッとバイクを寝かせて方向転換した。ファミレスの駐車場に入っていった。


「こんちは。今日休みっすか?」

「あぁ。こっちは何の連絡も貰ってないな。そっちも?」

「梅本さん、こんにちは」

 桔梗院の後ろにいた彼女がピョコッと顔を出して言う。木に登る子豚のようだ、と思った。カブラギ電気の仕事のときにいた他社の子、白黒コンビの白いほうだった。

――そういや、桔梗院はあの後も三日間、行ってたんだっけ。こいつら……付き合い出したのか?


「昨日、今日と仕事がないんですよね。明日の予定もないし。――それで今から事務所へ行って訊いてみようって思ってたんすけど。梅本さんも明日の仕事決まってなかったら一緒にどうっすか?」

「今から?」

――彼女と一緒だろ? 彼女を放っておいていいのか?

「案外、三人一緒に行けるところを、紹介してもらえるかもしれませんよ」と、彼女が笑顔を見せる。

「でも、きみは……」

――三人一緒の意味がわからねぇぞ。

「あ、こいつ。カンネスに登録したんすよ。俺が誘ったんですけどね」

「へぇ、そうなの」――もう、コイツ呼ばわりか。

「はい。短期の紹介だったら、カンネスサービスのほうがいっぱいあるって聞いて」

「ふ~ん、そうなの。俺、他の所は知らないから、何とも言えないけど」


「じゃ、俺たちは車で向かいますんで、梅本さん、先に行っといてくださいよ」

――行くとは言ってないだろう。

「そうだなぁ。ま、暇だからいいけどね……」


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