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就業ルイン  作者: ゆぞぅ
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 銃


 紺色の作業着上下に、ポケットが六つもあるベストを羽織った。

 さらにウエストポーチを持ち、その中にウエスで巻いた拳銃と、ちょっとした工具に財布、スマホをしまった。部屋の中では暑苦しいこの装いも、夜間のバイク走行を思ってのことだ。

 まったく厄介な物を手にしたものだ、と梅本は思っている。何をしていても、これのことがしこりのごとく頭の片隅にあるのだ。

 しかし、一度撃ってみると、これまた胸にジーンときた。面白いというのが正直な感想であって、ややこしい物はさっさと破棄するに限る、という考えは変わっていないものの、やはりその前にもう一度だけ……と、誘惑には勝てそうにない。頭の片隅にあるしこりの半分近くは悦楽であるに違いない。


 梅本は駐輪場へ行ってバイクを引き出す。

 ふと見ると、アパート側壁に並べられたプランターに、スコップが一本刺さったままになっていた。ハッとした。また道具がなくては埋められない。ちょうどいい。借りていこう。

 スマホと財布をベストのポケットへ移し、代わりにスコップを、土を拭って入れた。柄の部分が少しだけはみ出る。ウエストポーチをタンデムシートにくくりつけて、準備は完了だ。

 この闇夜の静寂を破ることが少々ためらわれたので、バイクを押して出ていった。今までにも仕事で深夜に出掛けることはあったが、どうにも今夜の用事が罪悪感を抱かせた。


 コンビニが正面に見える所まできて、ようやくエンジンをかけ、すぐに走り出した。冬ではこうスムーズに走り出せなかっただろうと思う。そもそも、冬の深夜にバイクで出掛けようとは思わなかっただろうが……。


 梅本は派遣事務所の通りを抜け、あの段々畑のある峠に向かっていた。Z125の排気音だけが周囲に反響している。寒暖を感じない不思議な夜だった。


 弾丸の残りは九発。マガジンに八発と、チャンバーに一発がすでに装填されている。それを撃ち尽くしてしまえば、拳銃本体も用済みになる。本来の使い方を考えれば、もったいないことだが、売却できるでもなし、その他の使用目的を思いつくでもなし。所持しているだけでアウトなら、それはもう捨てるしかない。

 また一つ思い出した。次回はぜひ的(まと)を用意しようと思っていたのだった。

 梅本は目についた自販機へ寄った。気分的には温かい物をと思ったが、あいにくと冷たい飲み物しかなかった。ボトル缶のコーヒーを買い、その場でペキペキと鳴らして蓋を開ける。飲んで顔を顰(しか)めた。やはり微糖は不味い。コーヒーに関しては、たまにはブラック以外もなんて冒険するもんじゃない。

 梅本はコーヒーの銘柄をじっくりと見て、ため息とともに空を仰いだ。どんよりとした雲に三日月が見え隠れしている。片手で銃を形作り、月に照準を定めて目を眇(すが)める。


 威嚇射撃で上空へ向けて一発。そんなシーンをテレビで観たことがある。

 あの弾丸はどこへ行くのだろうか、と思う。どう考えても宇宙までは無理だ。すると、いずれ地上へ落ちてくるのだから、そこに人がいたら危なくないのだろうか。

 恐ろしいほどの低確率とはいえ、自分の頭に穴が開くなんてこともあり得るのではないか? その被害に遭うのが生き物とは限らない。自分の車の屋根に弾痕を見つけたとき、誰に文句を言えばいいのだろう? 帰ったらネットで調べてみようと思った。

 撃った銃の銃身にスポッと帰ってきて、次に撃ったら二発出た……。そんな馬鹿馬鹿しい想像をして、梅本は一人で笑う。

 そして一気に半分以上飲んで蓋を閉め、ベストの腹ポケットに収めて再び走り出した。


 時刻は二時五分前。

 ほどなくして峠への分岐点に差し掛かる。

 アパートからここに至るまで、自販機前にいたときも含めて、じつに数えるほどの車としかすれ違っていない。田舎道はひっそりとしていた。ましてや、ここから先には一軒も民家が建ってない。一台たりとも出会うことはないだろう、というのが梅本の予想だ。


 真っ暗なコーナーを丁寧に減速して消化していった。

 次のコーナーを抜ければ目的地という所にまで来て、前方の山肌に異変があった。赤く点滅しているのだ。パトカーの赤色灯だと直感した。心臓の鼓動は否応なしに跳ね上がる。

 このマフラーのせいで、バイクが上ってきていることはとっくに気づかれているだろうから、今引き返しては怪しまれる。しかし、止められて職質を受けるのはもっとマズい。見られていない今なら、やっぱりすぐにでもUターンしたほうがいいか。パトカーの進行方向が同じなら、こちらに分がある。こっちに向かって来ているのなら、追いかけ回されるかもしれない。

 梅本の判断の遅れが、そのままバイクを進行させた。カーブへと進入した。


 前にいたのはやはりパトカーだった。あの段々畑の出入り口で停車していた。車の向きは梅本とは逆だ。運転席側には誰もいなかった。一瞥をくれるだけでそのまま通りすぎたので、助手席側は見えなかった。

――何かあったんすか?

 藪をつついて危険な物を出しそうだ……。

 自分が初めてきたときのように、奥で立ちションするために停車しているとは思えない。かといって溝に脱輪しているようには見えなかった。

 ならば通報があったということか。しかし、空薬莢の回収に抜かりはないはずだ。どこかにめり込んだ弾丸が発見されたとも考えにくい。何が何やら、てんで理解できない。


 混乱する頭を抱えながら、梅本はとにかく遠ざかることだけを考えるようにした。とにかく今夜は中止だ。帰りはぐるっと回ってバイパスの大通りを行こう。


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