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就業ルイン  作者: ゆぞぅ
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 時刻は二十時を少し回ったところ。

 バイパス道路を選択した。

 ハイペースで引っ張ってくれそうなハイブリッド車がいたので、それについて軽快に走行する。カーブがほとんどない単調な道路は、梅本を気怠く憂鬱な気分にさせる。このバイクにも合っていないような気がした。


 梅本はバイパス道路から折れてすぐの路肩にバイクを停めた。

 その建物の横並びには民家が建ち並んでいて、カーテンの隙間から灯りが漏れている家もあれば、留守なのか真っ暗な家もある。道路を挟んで向かい側には、テナントのショップが(のき)を連ねていて、今はそのすべてにシャッターが下ろされている。

 路地に面した所に設置されていた、店の看板のネオンはすでに消えている。その看板によると、営業時間は十一時~二十時。しかし、エステサロンの建物にはまだ煌々(こうこう)と灯りが点いている。バイクの常時点灯式のヘッドライトが消えると、目の前にある瀟洒(しょうしゃ)な三階建ての建物は、いっそう独自の輝きを増した。


 車の走行音が絶えず梅本の耳に届いていた。が、バイパス道路から一本脇へ入っただけなのに、どこか遠くで鳴っているかのように(かす)かでしかない。この路地じたいを通行する物はまったくない。

 梅本はスマホで時刻を確認した。

 夕方に藤本と別れた店、エステサロンへは三十分とかかっていない。


 梅本はリュックの中の拳銃を片手で探りあて、ビニール袋から出した。それをそうっと取り出すと、冷めやらぬエンジンの代わりに、梅本の心臓がドコドコと鳴りだした。

 安全装置は(はな)からない。オートマティックなのでハンマーを起こさなくても、トリガーを引けば弾は発射されるはずだ。

 こんな小っちゃな物で人が死ぬのだから、とんでもない……。恐ろしくてとても人には向けられない。

 梅本は、エステサロンの出入り口のガラス戸に一、二発撃ち込んでやろうと思っていた。拳銃を持つような(やから)から恨みを買っているような店なのだと、ご近所に認知されるだけで良かった。


 梅本はバイクにまたがったままで、酔いしれるように拳銃を構えた。

 が、ふと思う。

――撃った後、すぐに立ち去れるよう、エンジンはかけておいたほうがいいんじゃないだろうか。

 梅本は考えたあげく、エンジンを始動して、再び拳銃を構えた。

 すると視界の端に、揺らめく灯りをとらえた。チラッとそちらへ視線だけをやった。隣家の二階だ。

 バイクの音がうるさかったのか……。

――こりゃマズい。

 住人はカーテンの端からコッソリといったふうだが、部屋の電灯を消さずに立って覗いているので、梅本から見え見えだった。

 サッと拳銃を腹に差しこんで、隠した。

 この距離と暗さでは、こちらが何をしているのか理解できなかったはずだ。しかしそれは、このまま何事も起こさず、立ち去れば、の話。朝になれば、あれがそうだったのかと思い当たるはずだ。とにかく、モロに目撃されていると知っては、事を起こすわけにもいかない。今ならまだ、従業員をつけ狙うストーカーくらいに思われるだけだろう。

 梅本はバイクを急発進させた。悔しいようでもあり、ホッとしたようでもある。



 しばらく住宅街を走り、仕事の帰り道をたどった。

 運転操作に何ら淀みはないが、内心では、腹に差し入れた物の銃口が下を向いているので、ひょんなことで、自分のチンコを撃ち抜いてしまうんじゃないかと、気が気でなかった。

 やがて、自販機の照らす所で堂々と停車して、拳銃を腹からポトリとこぼすようにリュックへ落とした。金属同士のぶつかる音が意外に大きくて、ギョッとする。すぐに、飲みかけの缶コーヒーが入っていたことを思い出し、自嘲気味にあたりを見回した。

 片手をリュックへ突っ込み、拳銃とタオルを絡めていく。抜き手にはボトル缶。

 梅本はあらためてエンジンを切り、ゆっくりと味わうようにコーヒーを口にした。曇天を見上げながら、あ~ぁと息をつく。もう一度戻って仕切り直すつもりはさらさらなかった。


 それから数分後――。

 梅本は仕事帰りに寄った峠道をまた走っていた。

 街灯のない峠の闇はそうとうで、変な形のヘッドライトのハイビームが照らす山肌が、視界のすべて。

 スモークシールド越しに得られる情報がさすがに乏しく、シールドを跳ね上げて前方へ目を凝らした。それでも一旦は見過ごしてしまったが、少し戻ったところに、段々畑への入り口があった。

 草木のトンネルを抜けると、ハンドルを左右に振って周囲をまんべんなく照らす。まさかこんな時間に……とは思いながらも、ひと気がないのを確認した。

 ここなら大丈夫という安堵が梅本に深呼吸を(うなが)した。しばらくそうした後、梅本はリュックをあさる。そしてペン型のLEDライトを口にくわえ、ヘッドライトが照らす山肌に向いた。両手で拳銃を構える。ぐっと肩に力が入っていくのを感じながら、意を決してトリガーを引いた。

 しかし何も手応えも感じなかった。何も起こらなかった……。

 一瞬、やっぱりモデルガンだったのかと鼻息が漏れ出た。――いや、そんなはずはない。すぐに映画のワンシーンを思い起こし、拳銃のスライドを後ろに引いた。

――これで、いいのか?

 トリガーをクイクイと試すと突如、手に衝撃がきて、タァーンという音が余韻と共にこだました。


「危ねぇな、この野郎!」

 思わず独り()ちた。いやぁ、しっかりと握っていて良かったぁ!

 そんな、あまりにも不恰好な初撃ちだった。

 このことは誰にも言わないのでどうでもいいが、もう少し家で勉強してくるべきだった、と思った。


 それから手ごたえを噛みしめるように、五発の弾丸を発射した。的がないので、どこに当たっているのかさっぱりわからない。自販機の横のゴミ箱に捨てた、コーヒーのボトル缶が頭をよぎる。残しておけばよかったか。

 これなら片手でも撃てると慣れが生じ、タンッタンッと続けざまに撃って、ひと息ついた。右の手のひらには汗が浮き、微かにしびれを感じている。

――だが、面白い!


 梅本はマガジンを抜いて、もう一度弾を込める。一発ずつ丁寧に挿入していって、最後にマガジンの尻を拳銃本体でコンコンと当てた。それにどういう意図があるのかは知らない。動画で外国人がそんな仕草をしていたので、真似てみただけだ。

 それからまた、立ったりしゃがんだりして八発を撃ち尽くし、満足気にうなずいた。その重さを馬鹿にするかのように、指一本でシュルシュルと拳銃を回す。


――さぁて、どこら辺に埋めようか?

 梅本はリュックを背負い、段々畑の脇を上っていった。


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