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「ここに、マル営に要連とありますけど、これは何ですかね?」
おそらく忘れているだろうと思って、梅本はそれとなく疑問形をとった。
「おっそれな。その横に電話番号もあるだろう」
「ありますね」
「現地で営業の奴と落ち合うって印だ」
藤本はダッシュボードに立ててある、ガラケーを取って寄こした。
「ナビの画面で到着予定時刻を見て、店の名前と一緒に伝えるだけ。んじゃぁ電話してみてくれ。――えっと回収の欄には何て書いてある?」
「えっと、何もないです」
「それじゃたぶん新規オープンだな」
梅本は言われた通りに電話をかけた。こういうことを苦手とする人は多いらしいが、顔の見えない相手に何の気後れがあるというのか、と梅本はまったく気にしない質だ。
そしてこちらでも、遅いとか予定がどうだとか言われたが、言い訳しても始まらない。気のない謝罪を口にして「できるだけ急ぎますので」と言っておいた。
そうして、今日一番の重量物を設置し終わると、すぐ近くの美容室で配達設置を一件こなし、また高速道路に上がった。午前中のほとんどが移動に費やされて、時刻は十一時。
サービスエリアに寄った際「ここで飯を食っといたほうが良さそうだな」と藤本が言った。朝の四時に、お茶漬けをさらさらと食っただけの梅本は、腹がペコペコだった。大賛成だ。
「ここらの特産って何ですかね?」
「さぁな。わしは弁当持ちなんだ」
藤本がシートベルトを外して、運転席で後ろを向いて膝立ちになった。背もたれの後ろにあるちょっとしたスペースからゴソゴソと布袋を取り出している。
「そうっすか。んじゃ、私は何かてきとうに食ってきます」
「食ったらすぐに出発するから、早めにな」
明確な休憩時間はないようだ。梅本の場合は助手席に乗っているだけなので、ずっと休憩中みたいなものだが。
「何か買ってきましょうか?」
「いぃや何もいらんよ。さっさと食ってこい」
移動も仕事だといって、きっちりと休息を要求する者はいる。以前の梅本がそうだった。
どっちが良いのかと問われても、今の梅本なら業種によるといって回答を避ける。
雇用契約に則ってさえいればいいのか? たしかに契約を盾に争えば勝つ。それが社会規範だが、人の感情というのは互いにイーブンで割り切れない。すべての人が同じ方向を向いていない以上、どこかに歪みは生まれるものだ。
円滑に物事を進めるために、どちらかが一歩引かなければならない状況は往々にして起こる。誰かが損をしなければならないという状況なら、代金を受け取る側が被るというのが習わしだ。いつでも切られる派遣スタッフなら、なおさらだ。
――いやいや、そんな休憩くらいで大袈裟な。
トラックの駐車スペースから店までがちょっと遠かった。出勤時は寒いと思っていたほどだったが、当然のことながら気温はぐんぐんと上がっている。まわりにもTシャツ一枚でいる男性が多い。アスファルトから上ってくる熱で、全体に蒸しあがりそうだった。
――荷台からバイクを降ろして、ビューンと行くわけにはいかないよな。
梅本は頭に巻いたタオルを取って、鼻筋から首元にかけて拭った。
この依頼は朝が早いことを除けばかなり楽だ、と感じている。ただ、長時間に渡ってドライバーと二人きり。そりが合わないと、なかなかに厳しいものがあるのかもしれない。幸い藤本は見かけによらず、いい人だ。
ふと、先週一緒に除草作業をした草村のことを思い浮かべた。
――アイツにはむいてないかな。
健康ランド内、養護施設内、と理容室というのはいたる所にあるものだと知った。ごく一般家庭の玄関から靴を脱いで上がって、奥の一室が散髪屋になっている家には、さすがに驚嘆した。
その家の奥さんが、梅本らの帰りがけに「裏の畑で採れたのよ」と言って、やたらと太い大根を一本ずつ持たせてくれた。そうして本日の仕事は半分以上をこなしたことになる。
ようやく地元も近くなってきて、十六時ちょうどに到着した理髪店は図書館の横にあった。
ここで納品する商品は、手持ちで運べるような排水パイプだけだ。それの交換修理という依頼だった。洗髪台の内部構造を見られる、またとないチャンスだ。
店には四人の来客。挨拶を済ませて工具箱とパイプを運び入れた。
へぇ、そこが外せるようになっているのか……というときになって、梅本は追い出されてしまった。狭い店内で人口密度が高すぎるのだ。
「荷台を整頓しといてくれよ。持って帰るのは古いパイプくらいだから、ちょっとだけ開けといてくれたらいい。こっちは最終点検まで終えて、三十分ってところだな」
「はい……」見られないのが残念だった。
梅本はトラックへ戻って、シートを丸めながらまくっていった。
回収品をとにかく前へと移し、後は伝票を見ながら配置を変えていく。回収品といえど、完全廃棄というわけではないらしく、ぞんざいな扱いは禁止されている。それにビニールをかけ、緩衝材に畳んだダンボールを使った。一番の大物がなくなっているので、スライディングロックパズルのように知恵を働かさなくてもいい。そんなレイアウトに独自のセンスをみせてやろうと思ったが、面倒くさいので止めておいた。
キューキューと嫌な音をたてる発泡スチロールをゴミ袋にまとめ、箒に絡ませる。トラックシートを元に戻し、後はシートゴムを掛けるだけにしておく。
そして、することがなくなった。
エアコンがストップしている車内には五分といられなかった。梅本は車外に出て、周囲を散歩するともなしにうろついた。
家が近くなっているとはいえ、ここら辺の土地勘はない。図書館があるからなのか、自転車に乗った子供の往来がやたらと目についた。その自転車を目で追った先に自販機を見つけた。梅本は缶コーヒーでもと思い、図書館のほうへ歩いていった。
そして、その場で飲んでいるところ「梅本」と、自分の名が呼ばれたような気がした。さして珍しい苗字というわけでもないが、そこはやはり反応してしまう。
梅本が横目でちらりと見やると、そこには笹尾葉月が立っていた。
「ほらぁ、やっぱり梅本さんでしょ」
笹尾は隣にいる男性の腕をペシペシと叩いていた。




