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就業ルイン  作者: ゆぞぅ
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 黙々と作業をこなし「あのぉ、すいません」と声がして、ハッと顔を上げた。除草作業は気づくとけっこう進んでいた。途中の記憶がないほど没頭していたのか、それとも暑さで頭がやられたのか。


「そ、そろそろ昼なんですけど」

「あれ、もうそんな時間?」

 草村はうなずいて、パッと視線を外した。

――面倒くさい奴だ。

 アァと唸りながら立ち上がって、腰を捻って伸ばす。

「陣内さんは来ないようだけど、時間通りに昼休憩にしようか。草村くんはお昼どうするの?」

「コンビニへ行ってこようと思います」

「ふ~ん、そう……」

「あ、あの、何か買ってきましょうか?」

「えっとじゃあ、お願いできる? 悪いね。じゃあ弁当をひとつ頼むよ」

 お茶は水筒に入れて持ってきているし、足りなければ自販機へ行く。自販機が近くにあることは、来るときに確認済みだった。

 草村は何弁当がいいかと確かめずに、スクーターでびゅーんと行ってしまった。

――オドオドとした態度を抜きにすれば、まぁまぁいい奴じゃないか。


 その場に残された梅本は、道路に出て遠目に進捗状況を見渡した。

 なかなか順調だ。全体の半分くらいはできている。しかし、このペースで最後までやれる気はしなかった。握力がかなり弱まっているからだ。背中にも得体のしれない強張りがある。昼休憩の間に回復するかどうかは微妙なところだ。

 草村がやっていた範囲は、すぺーっと綺麗に何も残っていない。刈り終えた面積は互角といっていいが、丁寧さで負けていた。クソッとつぶやいて、梅本は手首を振り振り、残骸を刈りに戻った。竹製の熊手で細かい雑草もかき集めて、大急ぎでダンプに放った。

 梅本が盛り土の斜面へ、へたり込むように座るのと、草村のスクーターが角を曲がって姿を現したのが、ほぼ同時だった。


「どっちがいいですか?」

 草村はコンビニ弁当を左右の手に持って言った。

 作業開始の際も、彼は「左右どちらから刈っていきますか」と訊いた。「俺はどちらからでもいいよ」と答えると、彼は顔を赤くしてしばし悩んだ。居酒屋でメニューを開いたまま考え込むタイプか……。

 それで梅本は「こっちを貰うよ」と即決した。白身魚のフライがメインの弁当だ。草村がどんな反応を見せるのかと思ったが、彼は無反応だった。いや、頬は見る見る赤くなっていった。

――あれ、こっちが食いたかったのか? やっぱりそっちがいい、と言い直したら今度は白くなるのだろうか? 面倒くさいので止めてやろう。


 そうして梅本はその場で食い始めた。

 手と顔を洗いたかったが、水がないのでしかたない。頭に巻いたタオルを取って拭うだけにする。

 通常だと水道設備の通っていない現場では、会社からポリタンクで水を汲んできて、手洗い用と飲料用を確保しておくものだが。一日だけの現場で、そこまでは気が回らなかったようだ。

 草村はというと、スクーターに腰掛けてもそもそと食っていた。途中何度もコーラを口にしている。

 梅本は米を食いながらコーラを飲む奴が好きではない。以前同じことをしている奴に言うと、ビール代わりだと返ってきた。所詮は他人。ぐちゃぐちゃと音を立てられる以外なら、どうでもいい。訊けば草村なら何て答えるだろう? と思った。

 草村が梅本の視線に気づいたのか、また赤くなった。何も言わずに体ごと向きを変えた。

 どんだけ敏感肌なんだ……。

 事情を知らない人の目には、俺たちは犬と猿のように映るかもしれない。


 梅本は早々に弁当を食い終えてしまったので、することがなくなった。草村と親睦を深める? 無理そうだ……。

 せめて話しかける切っ掛けにと思い、缶コーヒーを奢ってやろうと思った。ふたブロック先を曲がった所に小さな公園があり、そこに自販機があったはずだ。梅本は立ち上がって尻を払った。


「ごくろうさまです」

 ふいに声をかけられた。ビニール袋を手に、老婆といっては怒られるかもしれない、微妙な年齢の婦人が会釈してくる。

 誰だかわからないが、挨拶はするもんだ。

「どうもこんにちは」

「ここ、やっと掃除してもらえるんですねぇ」

 なるほど、そっちから来たということは、隣か裏の住人か。

「私らは人材派遣から来ている者なんです。今日中に終わらせる予定でいますよ。見栄えも悪かったですし、やっぱり問題になっていたりしたんですか?」

「そうなのよ。虫とかがね、洗濯物に飛んできたり、ほら、汚くしておくと、ポイ捨ても増えるっていうじゃない」

「そうですね」

「あ、これ。よろしければ、お二人でどうぞ」

 婦人はビニール袋を差し出してくる。中には缶コーヒーが二本と、チョコレートバーが入っていた。

「いやぁ、こりゃどうも。いただきます」


 梅本は貰った袋を、草村にチョイとあげて見せた。

 しかし彼は、二、三歩近づいて、ペコッと頭を下げただけだった。

――おい、ちゃんと近くまで来て礼を言えよ。

(べつに、こっちがくれって頼んだわけではないでしょう)

 梅本の脳裏に、何年か前の自分の行動が甦って、顔に苦味が走った。彼の場合はちょっと違うか……。

「その、人見知りの激しい奴でして……。すんません」

 そう言うと、婦人は顔の前で手を振り、一礼して帰っていった。


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