表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

優しいドッペルゲンガー

 救えない絶望的BADENDを望む人は止まることをお薦めします。

 

「で、最後に言うの。『わたしメリーさん。今、貴方の後ろに居るの!』」

 

 (サチ)の極め付けの口ぶりに周りの女子達が飛びきり大きな声を上げた。


「きゃー!」

「きゃー!!」


 学校の放課後は色々な噂話が満ちている。

 本日は怖い話。

 メリーさんの怪談だ。

 

 怪談の内容はメリーと言う人形を捨てた子供に電話がかかって来るもの。

 電話に出ると、

「わたしメリーさん、今焼却炉の前に居るの」


 すぐに電話が鳴る。お次は、

「わたしメリーさん、今貴方の町の交番の前に居るの」


「わたしメリーさん、今貴方のお家の前に居るの」

 

 メリーさんは電話をするごとに次第に迫って来るのだ。

 得体の知れない怖さだ。


「わたしメリーさん、今、貴方の部屋の前に居るの」

 お話のくくりは決まっている。


「わたしメリーさん」



「今、貴方の後ろに居るの!!」

 ここでお話は終わる。


 ねェ。その人形はどうしたのかな? 怖い話ならやっぱ子供を怨んでる? 


「そのメリーさんはさ。きっと棄てられたくなかったんだね。持ち主の子が大好きなんだよ」

 怪談を訊いた後の感想である。

 怖いし、不気味だけど。やっぱり気になるじゃないか。

「……」

わたしがそう言うと、幸と、周りの友達は一気に毒気が抜けた。


「美影ー」

「ホント、抜けてると言うか。……ボケ属性? それじゃ、怖い話になんないの」

 

「え、わたし抜けてる!? ボケなの?」


「「手遅れレベル」」

 一斉に言われた。

 し、失礼な。人形の心じゃ人間に解らないじゃないの!

「人形だってちゃんと心があるよ。きっと。あ、幸、わたし『グリーン部』だから行くね」


「ああ、まだあの部活行ってたんだ。いい趣味してるわ」

「またメールするよ!」

 さらっと酷い台詞も聞こえたが教室の時計を見ると結構な時刻だった。

 遅刻してしまう。幸とみんなに見送られて、わたしは学校指定の鞄を抱えると廊下を走った。


 しかし、

「藤堂! 廊下を走るな!!」

 ……。

 2mの体躯の竹刀を持ったむっきむきの筋肉質の先生に見付かり、競歩並の速さに切り替えた。

 生徒指導の鬼十字先生である。

 うん、遅刻決定だね。


 わたしは藤堂 美影(ミカゲ)

 人に言わせれば天然ボケの中学一年生。

 グリーン部と言うちょっと可笑しな部活に通っている。

 内容は校内の掃除と、花と緑を増やす運動。部員は6人と僅かなものだが結構楽しい。綺麗なものを見ると心も綺麗になる。

 さて、わたしには自慢じゃないが、これと言った特技も無い。

 平凡な人間で平凡な日々。

 成績も中の中。

 スタイルと顔も中の中らしい。

 ……うう、色々と救えない。


「藤堂、お疲れ!」

「お先です」

 夕暮れが夜の闇を連れて来る時間帯。

 わたしは先輩達にお辞儀をする。一人一人に「お疲れ様です」を繰り返した。

 

 町の外れとは言え、この時間帯は勤務帰りの車が沢山。

 交差点近くを行くと瞳のはしっこに、『それ』が映った。


「は!?」

 声を上げてしまう。

 カラスが横たわっていたのだ。見ればしっかり生きている。


「わー!! 待った待った。殺さないで!!」

 危機一髪。

 行きずりの車に撥ねられる前にカラスの体を両手でわし掴む。慌てたカラスがバタバタするのはお構いなし。

「有難う御座いました!!」

 停まってくれた車に一礼すると腕の中のカラスを見下ろす。

 わたしは素人だけど見れば怪我は無かった。骨折も無かった。……じゃ、病気かな? 


「よし。近くの犬猫病院に寄って見ようか」

 お小遣いが足りるかな。

 わたしのお小遣いは1ヶ月3千円である。結構きつい!!


『カ、カァ!!』

 その時。腕の中のカラスがジタジタと暴れた。結構大きなカラスである。 「わわ!?」堪らず瞼を閉じると、鴉は元気に飛んで行ってしまった。

「元気でねー!!」


 カラスに一声かけて見上げた時には、すっかり日が暮れた。


「あー! ごはんの当番わたしだ!!」

 両親は仕事の為に毎日帰りが遅くなるのでごはんの支度は兄弟の当番制。

 今日のメニューを考えながらわたしは走ったのだった。

 

 

『5時ト30分、か』


 次の日のこと。

 初めは幸の一言だった。


「美影ー。昨日、結局何時に帰ったのよ。声かけたけど気付かなかったでしょ!」

「……んー。気付かなかったのかな。わたし、5時には学校出たけど」

 

「んなわけないじゃん」

 幸は首を傾げた。

「わたし昨日日直だったでしょ。先生に仕事言い付けられて遅くなったの!! わたしが校門で美影を見たの6時15分くらい?」


「ん? いやー。昨日はわたしごはん当番だもん。そんなに遅く帰れないよ」


 幸の何時もの悪戯雰囲気が消え、真顔になった。

「……わたしの、見間違いだよね」

「だよね」

 

 見間違いくらいあるよね。

 わたしがけろっと言うと幸は納得したみたいだった。

「あはは。驚いた!」


 この時は全然気にしなかったのに。


 休み時間に一人、廊下をスキップしていた時だった。

 鬼十字先生とばったり遭遇してしまった。

「藤堂! 廊下を走るな……、んん? スキップは走ってないよな? ダメなのか?」

 どーだろう?



「どうでもいいな! ん、藤堂。お前、さっきお前の担任の先生に呼ばれて職員室に居なかったか?」

「は!?」

 わたしは暫く考えると失礼します!! と走り出した。鬼十字先生が走るなと声を上げるも、緊急事態だ。ごめんなさい。


 

 オ カ シ ク ナ イ?


「小川先生!!」

 わたしはノックを忘れて扉を横に空けた。小川先生は確実に50過ぎの白髪の先生だ。

「おー、早いな。悪い悪い。図書室に本を運んで貰っちゃって!!」

「!? そんなの……、」

 

 そんなの 知 ラ ナ イ。

 

 わたしはここに居るのに。小川先生に本を頼まれてなんか、無い。

 

「あ、う……!!」

 パニックだった。わたしはここに居るのに オ カ シ イよ。

 

 わたしは必死に図書館に向かっていた。


『……』



「……」

 わたしは図書館の扉を開ける。

 休み時間なのに無人だった。利用する人間は放課後が圧倒的に多い。わたしは、「わたし」を捜した。


 い、居るわけ無いよ。

 

 けど、先生はわたしと、ナニカを見間違えた。

 きっと形も、格好も、声も全部同じだったんだ!!

 

「……わたしの他にわたしが居る!?」


 パニックと得体の知れない怖さに押し潰されそうになった。


「わたしの、他のわたし? 中々興味深いわね。新しい小説かな。分類はホラーで?」


「うわあああああああ!?」

 

 そりゃ驚く。

 わたし捜しもそうだけど。そんなパニック中のわたしに後ろから声をかけられれば。


「ご、ごめん、ごめん。そんなに驚かれるとは思わなかったんだ」

 

 見れば美しい女性が居た。

 腰まである黒髪と真っ黒な制服。不思議な紫色の瞳が何処か怪しく光っている。

 この学校の制服じゃなかった。

 この人の周りだけ慎ましやかな雰囲気が漂っているようだ。

 

 その黒い人は近くの椅子に腰かけると真っ白な指を組んだ。

「……貴方、不思議でお悩み? わたし、そう言うのちょっぴり詳しいの。貴方の名前は訊かないわ。ただネットで見知らぬ誰かに愚痴を吐くみたいにわたしに相談して見ない?」


 知らない人に、愚痴を吐く程度に。

「わ、わたし。わたしはここに居るのに。別のところにもわたしが居るみたいで。その! 嫌だァ。()()()よゥ」

「……」

 

 溺れるものは藁にも縋る。

 わたしはわけが解らない言葉を吐き出した。


 黒い人は真顔で首を傾げて、

「ドッペルゲンガー、かな」

 と言った。


「簡単に言うと。『このよ、には同じ顔の人が二人、三人は存在するの。普段は決して遭遇することの無い同じ顔の自分達。万が一、その同じ顔の自分に遭遇してしまったら』……、」

 

 ああ。訊いたことがある。


「遭遇してしまったら、……『死ぬ』」


「色々と説があるけど、ドッペルゲンガーに遭遇すれば死ぬのは同じ」

「……! そんな、早く殺さなきゃ…、」

「ドッペルゲンガーを殺そうとしちゃダメ。貴方も死ぬことになる」

 

 遭遇する前にどうにか消さなきゃ。

 わたしは、わたしだけだもの。

 わたしがふふっと危険な笑みになると黒い人が悲しそうにわたしを見た。


「メリーさんと言う人形はただ、大好きな持ち主に逢いたかったの。そう考えたのは藤堂 美影よ。己と全く同じ己と遭遇して殺さなければならない。貴方ならどう思う? ……優しい藤堂 美影ならどう思うの?」


 本物の藤堂 美影なら。



「……わたしは!?」


 その時。

 鬼十字先生がわたし達の声を訊き付けて入って来た。

「休み時間終了だ。お前達、授業は…、」

 

 わたしと黒い人の居る図書室の中を見渡すと、


()()()()()じゃないか」

 と、扉を閉めてしまったのだ。


 ふふ。

 可笑しい。


「ドッペルゲンガーは()()()()()だったのか」








「危なかった」

 わたしは職員室を飛び出したところで一人の青年に腕を掴まれていた。

 

 見たところ、悪い人じゃ無さそう。て言うか。人でも無さそう。

 青年はカラスの面を被ってるし、その、黒い翼が生えている。

 ……不思議だったので問答無用に引っ張ったら、痛い痛い痛い痛い!! と堪らずに声を上げたので正真正銘生えてるみたい。


「お前とドッペルゲンガーはこのまま行くと、図書館で遭遇してしまうはずだったのだ」

「……!?」


「遭遇したとたん。お前だけが消えるはずだった」

 ドッペルゲンガーの噺通り、そのまま二人は入れ替わり、何も変わることは無い。

 わたしは今頃青ざめた。


「お前は優しい。きっとドッペルゲンガーがお前に近付こうと『わけがあるはず』などと吐き、決して向こうを否定しきらない」

 ……。

 わたしなら。

「どうしてわたしを殺すのか訊いてみたい。ドッペルゲンガーはわたしが嫌いなの? わたしに成りたいの? 色々訊かせてよ。同じ『わたし』じゃない?」


「しかし、向こう側は貴方と同じ存在なのに、ドッペルゲンガーをお前だと思い込み、まず、消そうとした」

 青年は続けた。

「我々怪異のルールなのだ。ドッペルゲンガーは同じものでなければ成り替わりは許さない。無論、異なるルールのドッペルゲンガーも居るがな」

 ルールって?


「お、お化けのルールなの? お化けのルールにわたしは救われたんだ?」

 わたしの例えに青年は吹いたようだ。


「ああ。……お前は清く正しい。学び舎と自然を心から慈しみ、先人達に礼儀正しい。何より、車に殺されそうになった俺を救ってくれた。病院に連れて行こうとしてくれた。消すには惜しいのだ」


「カラス!? あのカラスさんなの!? お化けだったのか」

 

 わたしは目の前の仮面に掌をあてて、撫でた。

「有難う!!」

 

 よく解らないけど、わたしは死ななくて済んだみたい。

 カラスさんのおかげらしい。お化けって凄い。


「カラスさん。ドッペルゲンガーのわたしはルール違反でどうなるの?」

 

 カラスさんには思いきり呆れられた。

「お化けを気遣うとは。お前は天然だな。……詳しくは解らんが、悪いようにはならん」



「ルール上。貴方は藤堂さんにはなれなかったみたい」


 湿った図書室の中、分厚い本を捲り、黒い人は小さく言った。

 ドッペルゲンガーのわたしは椅子に腰かける。己がドッペルゲンガーだと自覚するとするすると本来のわたしが目覚めた。


「……惜しかったなー。成り替わりは難しそう」

「人間て不思議よね。業に溺れて汚れて真っ黒だったり、美影ちゃんみたいに清く、真っ直ぐだったり。わたしだって八柳に言われなきゃ、救わなかったわ」

 

 八柳?

 わたしの疑問に黒い人は答えた。

「美影ちゃんの救ったカラスのこと。人を気に入るって凄いことよ」


 わたしはどうなるのだろうか。

 生まれた時と同じく暗い処に帰るのだろうか。

「……お前はわたしが連れて行くわ。闇に還るなりなんなり好きにして頂戴。けど、この学校には残らないで。七不思議は揃ってるの」


「は、はあ。宜しくお願いします」



「美影ー」

「美影、美影。この学校にお化けの転校生が居るんだって!」

 

 わたしは相変らずの幸の恐い話に苦笑した。

「知らないな。何それ」

「七不思議が替わったらしいの」



「前の七不思議の六番目を誰も覚えてないらしいの。これ、本物かも。新しい六番目は図書室に…、」


 

 黒い人はくすくすと図書室の椅子の上で優雅に足を組んだ。


「七不思議の六番目。 『本 を 読 む、 (アメジスト) の 瞳 の お 化 け が 居 る の』」



 了。

読んでくれた貴方さまに有難う(土下座!)


貴方さまの一言がわたくしを変えます。よければ評価とご感想を!!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 読みました、面白かったです~。 以下ネタバレ ドッペル入れ替わりトリック、全然気づきませんでした。笑 ドッペルちゃん可哀想、と思いましたがちゃんと彼女?…
[良い点] 掴みは上々。メリーさんの怪談は人によってアレンジが違ったりしますが、吸引力が凄いんです(結構な個人的見解) >「そのメリーさんはさ。きっと棄てられたくなかったんだね。持ち主の子が大好きな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ