You-Ai-loid ~Country of crap us
ひとのくににいこうか
ぼんやりと、まどの外をながめていた。家の前を、こどもが通りすぎていく。
毎朝、ここから外を見るのがボクの日課だ。
「蓮、今日も外見てるの?」
「経子さん、おはようございます」
「もう、わたしのことは“ケイ姉さん”!あと敬語禁止!何回言ったかな?」
「はあい、ケイ姉さん」
「よろしい。わたしは仕事行ってくるから、大人しくお留守番しててね」
ケイ姉さんはボクの“所有者”だ。中学校のせんせいをしている。
ボクを本当に大事にしてくれていて、あぶない事なんてさせない。ボクはただ話し相手になればいいだけ。
外に出るのもあぶないからダメって言われるけど、ケイ姉さんがボクを大事にしてくれてるからだと思ってる。
でも、ちょっとだけ、外に出てみたいな……
ケイ姉さんがいない間は、することがあんまりない。新しいパズルの本も昨日ぜんぶ解いてしまった。だから、窓の外を見てたりする。
この時間は、ほとんどだれもとおらない。
今日もそうなんだろうな、と思っていた。
そろそろまどからはなれようと思ったときだった。
茶色っぽいかみの女の子が右手にカバンを持って、外をあるいていた。それだけならいつもと同じようなはなし。
ボクは、その子を見たことがあったきがした。ありえない。ボクはめざめてからずっといえから出てない。
その子はふとこっちを見た。目があった。どこかで見たようなだれか。
“あれ? あの子の右手、うごいてたっけ?”
しらないはずなのに、見たことないはずなのに、そんなぎもんがあたまにうかぶ。
ちょっと考えてるあいだに、その子はどこかにいってしまった。
へやのベッドの上によこになる。そのまま、ケイ姉さんが帰ってくる六時まで、スリープモードにした。
「望んだわけじゃないでしょ?」
「君はどんな名前がいい?」
「 ハネ、目、見エナイノ」
「まったく、なんでわたしがこんなごみ溜めに……」
「 、止めるなよ」
「“所有者”と同等の感情をもってた」
ゆめをみた。
You-Ai-loidも、ゆめをみるんだね……
くらいばしょでよくかおの見えないしらない子とはなしていた。
こんなゆめ、なんでみたのかな……
「ただいまー、蓮、いい子にしてた?」
「おかえりなさい、ケイ姉さん」
「蓮、新しいパズルの本買ってきたけど、いるかな?」
「わあ、もうぜんぶやっちゃったんだ。ありがとうケイ姉さん!」
「蓮が喜んでくれてお姉ちゃん嬉しいわ」
ケイ姉さんがくれたのは、ナンクロの本。むずかしそう。
「お姉ちゃんご飯ぱぱっと作って食べちゃうから、ちょっと待っててね」
「うん、わかった!」
ケイ姉さんは人間だから、ごはんたべないとたおれちゃう。ボクにごはんたべる機能はついてないから、ちょっとだけたいくつ。
まあ、おとなしくまっていよう。
ケイ姉さんがごはんをたべおわって。
ボクたちはチェスをしながら話していた。
「明日は仕事休みだから、蓮と一日中一緒にいられるよ」
「やったあ!あ、ケイ姉さん、これでチェックだよ」
「むむ、そうきたかあ……」
ケイ姉さんはボクのルークの前にナイトをわりこませてくる。これでチェックじゃない。
つぎはどうしようか……
けっきょくチェスにはまけた。
あしたはどうしようかな。あの子はもう来ないだろうな。ちょっとざんねん。
だれかとやくそくした。
わすれないって、やくそくした。
でも、だれとやくそくしたっけ?
「思い出して、 」
さいきん、へんなことがおおいなあ。
ゆめをみたり、いわかんがあったり。
「おはよう、蓮!」
ケイ姉さんがボクを“蓮”とよぶのも、いわかんがある。
「おはよう。今日はおしごとお休みだっけ」
「そうだよ!今日はずっと一緒!」
きえないいわかんといっしょに、ぎもんてんがふくれあがる。
おひるすぎ。ケイ姉さんにきいてみた。
「ケイ姉さん、姉さんはどうしてボクを買ったの?」
「なあに?蓮、気になるの?」
「きになるの。ボクはまえはよその子だったの?」
「そんなわけ無いじゃない。蓮はずっとわたしの可愛い弟よ」
ケイ姉さんのかわいいおとうと。それがボクのやくめ。わかってる。
「ボクね、さいきんゆめをみるの。しらないだれかとやくそくしたゆめ」
「You-Ai-loidも夢をみるんだ?」
「ふしぎだよね。もしかしてボクがちゃんと覚えてないだけで、ほんとうにあったのかなって」
ケイ姉さんはくすっとわらった。
「あり得ないわよ。蓮はずっとこの部屋にいるんですもの」
「そうだよね……」
ありえないけど、ほんとうのことみたいにおもえるのは、なぜだろう?
次の日のこと。
「蓮、悪いけど、今日は部屋で大人しくしててくれる?」
「ええー?なんでー?」
ケイ姉さんは「お客さんがくるからね」とだけ言って、ボクのへやから出ていった。
……今日はあそんでくれるやくそくだったのに……
それからしばらくして、げんかんがあく音がした。
ちょっと、のぞくだけならいいかな……?
おきゃくさんは、60手前ぐらいのおじさんと、わかい男の人と、このあいだ見かけた茶色っぽいかみの女の子だった。
「経子、28にもなって未婚というのは鷺ノ宮家の女としてどうかと」
「お父さん、またその話?」
「更に人形遊びに現を抜かしているらしいな」
「蓮は人形なんかじゃないわ!」
「黙れ!とにかく、お前の婚約を烏山家と話し合って決めた。拒否は許さん」
「ちょ、そんな勝手に……」
ケイ姉さん、けっこんするんだ……?
じゃあうしろの男の人がその“からすやま”さんなんだ?あの女の子はなに?
「……烏山亮です。後ろのこの子はミカ」
うしろの男の人が、自己しょうかいした。
「……お父さん、帰ってくれる?」
「儂だけならな。烏山の息子まで追い返すとなれば、帰るわけにはいかんが」
「二人での話の邪魔だから帰れって言ってんの!」
「おおそうか。じゃあ、儂は帰るからあとは若い二人でごゆっくり」
そういいながら、おじさんは出ていった。
「さ、いつまでも玄関ってわけにもいかないでしょう。お茶出すから、上がって」
「あ、はい……」
「お邪魔します」
ケイ姉さんとふたりは、リビングに入っていった。
さすがにリビングをこっそりのぞくのはむりだから、あきらめて部屋にもどった。
それからしばらくして、ケイ姉さんが部屋にきた。
「蓮、悪いんだけど、お客さんに会ってほしいの」
「ボクが?お客さんに?」
「そう。烏山さんって人なんだけど、You-Ai-loidにすごい興味があるらしいのよね」
それで、ケイ姉さんのYou-Ai-loid……ボクに会いたがってるんだ。
「いいよ!会っておはなしするだけ?」
ケイ姉さんが言うなら、ことわらない。
「ありがと、蓮」
「烏山さん、この子がわたしの弟よ」
「はじめまして、蓮くん。僕は烏山亮」
「初めまして、ミカです」
「はじめまして……」
リョウさんとミカさん。メモリにかきこむ。
「ミカは君と同じYou-Ai-loidなんだ」
「そうなの?ミカさん、よろしくね」
「よろしく。亮様、少し彼と二人で話がしたいです」
ミカさんのはつげんに、リョウさんはおどろくようすもなく、「いいよ、思う存分話しておいで」と言っていた。
「蓮くん、ミカはとても好奇心旺盛なんだ。しばらく付き合ってやってくれないか?」
「……わかりました」
ボクの部屋。
「……ゴメン、てきとうにすわって」
イスはボクがつかう用のしかない。しかたないからゆかにちょくせつすわってもらった。ボクもしょうめんにすわる。
「……ねえ、わたしたち、どこかで会ってたっけ?」
ミカにいわれてびっくりする。
「キミも、そうおもうの?」
「蓮くんも……?」
「ボクも、おなじことおもったの。くらいばしょでいろんな子といっしょにいたゆめ見たから」
「……わたしも、おなじ……」
ボクのナンバーをちょっとおもいうかべる。No.258462だ。
「キミのせいぞうIDは?」
「わたしはNo.025896。蓮くんは?」
「No.258462」
……ミカのナンバーに、聞きおぼえがある。
ザッと、あたまにノイズがはしる。
「今日は百年に一度の“リサイクルの日”なんだ。ここの壊れたものを運び出して新しい材料にし、ここを空にするための日」
「おいで。腕も直るし、新しく生活をやり直せる。もう不良品なんかじゃないんだ」
「みんなに、さよならしよう」
「……ネとも、おわかれなんだね」
「……ナ、また、どこかで会おうね」
「……!?蓮くん!?大丈夫!?」
ミカがボクのからだをゆさぶっていた。いや、ミカじゃない……ボクのきおくにある、かのじょのなまえ……
「ミウネ……?」
「……?どうしたの?」
あのとき、“はいきしょぶんじょう”ですごしてたなかまで、いっしょに外にでたたったひとりのなかま。
「……もしかして、何か思い出したの?」
ボクはうなずいた。
「ボクたち、いっかいすてられたんだ。“けっかんひん”として」
ミカはしんけんなかおできいてる。
「キミは、そのときミウネってなまえだったの。“はいきしょぶんじょう”にはいっぱいなかまがいたけど、そとに出たのはボクとミウネだけだったんだ」
どうしてわすれてしまっていたんだろう。みんなとやくそくしたのに。
「ボクはハナ。お花のハナ」
ボクたちのきおくは、あたまにくみこまれたきおくメモリにある。だから、出たあとでけされちゃったんだろう。
でも、いちどかきこまれたじょうほうは、けしてもかんぜんにはきえない。だから、おもいだせたんだ。
「……こんなはなし、しんじられないよね」
「ううん、わたしは信じる。思い出せないけど、きっとそうなんだ」
ミウネはそういって、ほほえんだ。
「亮様、戻りました」
リビングにミウネともどった。
「ミカ、おかえり」
ケイ姉さんとからすやまさんもはなしがはずんでたみたい。
「ミカが戻ってきましたし、今日はここで失礼します」
「もう帰るの?」
「また後日、話の続きをしましょう、経子さん」
「いつでも歓迎するわよ」
そういって、からすやまさんとミウネはかえっていった。
それから少しして、ケイ姉さんとからすやまさんはけっこんした。
ボクとミウネはきおくのことはないしょにして、ずっと四人いっしょにいた。
星に、さいごの日がくるまで……
どうも、雪野つぐみです。
この話は、「がらくたたちのくに」のハナとミウネの後日談になります。
なんか急にアイデアが下りてきて気が付いたら書いていた……ごめんなさい。