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最終推論 邪馬台国  作者: 六津 江津子(むつ えつこ)
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第8章 二つに分かれゆく邪馬台国<その3>

三国時代が邪馬台国にもたらした悲劇。


  古代中国の歴史の中でもインパクトのある時代である三国時代。その壮大なドラマを描いた三国志は日本にも熱狂的ファンの多い大作です。実は筆者は、この三国時代もまた、邪馬台国のすう勢に影響を与えた大きなファクターだと考えています。

  邪馬台国が存在したとされる2~3世紀頃、中国の北東部を勢力圏においていた王朝は公孫子でした。卑弥呼はこの公孫子を後ろ盾にして鉄を輸入し、国の発展に役立てていたようです。

  しかし、両国の蜜月関係は決して長くは続かず、やがて大陸の様相が風雲急を告げてきます。公孫子は新勢力の前に滅び、魏蜀呉の三国の三つ巴の争いの時代がやってきたのです。

  この際、重大な決断を迫られたのが邪馬台国です。国の安定を考えると、公孫子に代わる新しい後ろ盾を確保しなければなりません。そための選択肢は二つに一つ。魏を選ぶか、呉を選ぶか…。

  結論から言えば、邪馬台国は魏を選び、後に「親魏倭王」の名を贈られることとなるわけですが、決断に際しての卑弥呼と重鎮たちの苦悩はいかばかりであったでしょうか。


  そこで筆者は想像するのです。この時の苦悩によって、自らが確かな防衛力、軍事力を持つ国の建設への希求が生まれたのではなかったのかと。それが武力を重視する分国の勢力を育てていったのではなかったかと。

  ただ、このことは、結果として日本の歴史の必然になったとも筆者は考えています。なぜなら、もしも倭が邪馬台国とはまったく根っこを別にする民族であったとしたら、大陸との交易ははたしてスムーズに成立したでしょうか。

  いや、もっと言うなら、倭が邪馬台国(大陸と交流のあった国家)に敵対し、これを滅ぼそうとする者であったとしたら、はたして大陸の国々は倭の邪馬台国迫害を手をこまねいて眺めるだけに終始したでしょうか。

  応えは否です。そうです。倭は新しいい国家といえども、邪馬台国の系譜であるからこそ、大陸からの脅威に晒されずにすんだのです。これもまた、筆者が発見した傍証のひとつです。



ソロモン王の秘宝伝説に隠された卑弥呼の悲恋物語。


  唐突に思えるかもしれませんが、ここで一時、徳島県の剣山がポイントではないかと話題になったソロモンの秘宝伝説にふれてみたいと思います。

  ソロモン王はキリスト教の拠り所である新約聖書よりもさらに前、この世の創生が語られた旧約聖書の登場人物です。レオナルド・ダ・ヴィンチと並ぶ偉大な芸術家と謳われるミケランジェロの代表作品「ダビデ像」のモデルのユダヤ王・ダビデの後継者であり、世紀の知者とされた人物です。その秘宝がソロモン王の支配地にして故郷からはるか彼方の日本、それも四国の地に隠されているという伝説や噂はこれまで幾度か語られてきました。

  もっとも、ここにソロモン王を登場させたからといって筆者がソロモン王の秘宝が四国・徳島に有り…を信じているわけではありません。むしろこれについては否定派であることをはっきり申し述べておきます。


  このソロモン王の秘宝は徳島に有り…の説は大半が古代歴史のミステリーに関心を持つ人ならば、まず、本でその名を目に、あるいはテレビやラジオで耳にしたことがある「竹内文書」をその根拠としているのですが…これ自体が世紀の偽書であるということは今日、数多の歴史学者及び歴史研究家の共通見解です。筆者もまた、これについては、多数に迎合するという意味ではなく、自らの推論を以て賛同したいと考えます(※その理由については、当著とは無関係と考え、ここに記すことは控えます)。

  では、その本当とも信じていない『噂話』をなぜ、ここで登場させるかと疑問に思われるのは当然です。では、その理由をお話ししましょう。


  筆者がソロモン王伝説に着目するのは、「なぜそれが語られるか」に関心があるからです。面白いことにソロモン王の秘宝伝説は現代に始まったことではなく、昔から幾度となく繰り返し、その時々の流行のように語られてきているのです。

  これは何故でしょうか。筆者は考えます。それをインスパイアさせる“何か”が阿波の地にあるからです。

  インスパイアさせるもなにも、遠い異国の、それも旧約聖書の話など、昔々の日本に伝わっているわけがないではないか…そう思われるかもしれませんね。

  しかし、それは認識不足です。人の話、噂といったものは意外に軽々と国境も人種も超えるものなのです。羽衣伝説や七夕伝説によく似た伝説は世界各地に存在しますし、アイルランドの神話であるケルト伝説には、日本の浦島太郎そっくりの話があります。

  オーストラリアの先住民族アボリジニに伝わる民話も興味深く、一人の女神が洞窟から地上に姿を現すと、世界はあまねく光に満ちたと…。どこかで聞いたような…という気がしませんか。

  また、火の神を産んでしまったために死んでしまったイザナミノミコトイを慕うああまりに、イザナギノミコトが死者の国まで出向きイザナミを連れ戻そうとする話が記紀の中にありますが、これなどは、帰り道では決して後ろについてくる妻を振り返りみてはならないという約束事を破り、そのために連れ戻しに失敗するという結果までそのまま同じストーリーがギリシャ神話中に存在します。

  これらのどちらが、あるいはどれが先かという問題はさておき。似通った話がそれぞれの地で、時代で偶然に発生したのでしょうか。いや、やそれよりも。どこかに源流があり、それが伝播してそれぞれの地域や時代で神話や伝説となったと考えるほうがよほど無理がないと筆者は考えるのですが。

  ちなみに、時代劇で有名な大岡越前の名裁きの一つ、子ども取り合う二人の女の訴えを受け…という話はそのままソロモン大王のエピソードの一つで、旧約聖書にはその名裁きのことがはっきりと記されています。


  それではここで、ソロモン王について別の面を紹介していきましょう。旧約聖書に記されたソロモン王に関する事柄の中でも、世俗的なニュアンスも含めて比較的有名なのがシバの女王との関わりについての話です。

  シバの女王は、現在のイエメン辺りにあったのでなないかとされる国の女王でソロモン王を訪問し、謁見したことが旧約聖書に記されているのですが、この二人が出会いの結果、恋愛関係に陥ったという話は、けっこう後世も語られ続けてきました。見てきたかのように、まことしやかに二人の恋物語を綴ったそれらの話は人々にとってことさら興味深かったのか、旧約聖書の内容に退けをとらぬ説得力をもって各地に伝えられていきます。中には、アジア大陸を東へ東へと進んだ「話」もありました。

  旧約聖書に端を発した恋物語はやがて、アジア大陸の東の果て、海に浮かぶ小さな国にたどりつきます。そこで、その時すでにその地にあった恋物語と出会い、人々の噂と時の流れにもまれつつ、二つの恋物語は完全に一つに同化していきました。そして、それ以降に語られ始めたのがソロモン王の秘宝伝説です。その伝説の舞台こそ、何を隠そう、日本の四国は阿波の地……。

  そうです。それがいつ頃のことかは筆者もまだ具体的な時期を特定できていませんが、ソロモン王とシバの女王の恋物語と同化しうる可能性がある密かな言い伝えがその頃の阿波の地にはあったのです。少なくとも、最初にソロモン王の秘宝伝説を唱えた人々の脳裏には、この事実がくっきりと存在したはずです。

  では、ソロモン王とシバの女王を想像させる二人とは誰なのか…?当然、単なる一庶民ではないでしょう。同化の対象が対象なのですから。


そこで、ここからは筆者の重要な推測です。女性はシャーマンであり、ある種の宗教によって国を統治する立場にあった人物でしょう。すなわち、卑弥呼の後継者であり、邪馬台国の象徴。


では、男性は……?


  あえて断定しましょう。男は、邪馬台国から国を分けて旅立った独立派のリーダー、すなわち、最初の大和朝廷であったと。


  国の行く末において守旧派と独立派の対立によって騒乱の危険すら眼前に迫る非常時、もしも両陣営の中心人物が恋愛関係に陥ったとしたら…。いや、あるいは恋愛物語は国のもめごととは別のところで密かに進んでいたのかもしれません。

  しかし、たとえ本人たちがどんなに望んでも、立場を考えればその恋を成就させることは不可能であったことは容易に推測できるでしょう。

  当然、愛し合う二人にはどちらにも、自らの立場と責任を捨てるという選択肢もあったことでしょう。しかし、女も男も、それを選ばなかったのです。自らの支持者たちの支えとなるために……。

  かくして、男は想いを振り払って旅立ち、女は愛しさを封印して旅立つ者たちを見送ったのではなかったでしょうか。だからこそ、独立派は“滅ぼさず、追いつめず”を愛しい人に約束したに違いありません。

「治外法権を認めることで収める」。

  そんな選択肢が生まれるのは、決して無理な成り行きではないはずです。そう考えを進めていけば、ワカタケル大王が邪馬台国にふれなかったことは、あるいは彼自身がかつての“母なる国”の密かな信奉者であった可能性すら浮上してきます。むしろ、それを時代の変化から守る“盾”たらんとしたのではないかとさえ思えてくるのです。―――いかがでしょうか。(第8章その4へ続く)


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