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夢小説【短編集】

その中身は  ~夢見る手料理?!~

作者: SR9

 私は中島加奈。

 今日は久しぶりに彼氏の横山幸太とデートの約束をしている。

 近所でやっている小さなお祭りに誘われたのだ。

 彼の仕事が終わってから待ち合わせなので実際に会えるのは夕方からだが,朝から張り切って準備をする。

 せっかくお祭りに行くのだから浴衣でも着て行ってみようか…等と考えていると,机の上の携帯がぶるぶると震える。

 画面を見ると,メールが一件。

 差出人は横山幸太だ。

 時計を見るとちょうどお昼の12時になった所で,幸太の職場もお昼休みが始まったらしい。

 わくわくしながらメールを開いた私は,しかし,その文面を見て首を傾げた。



『今日は午後から仕事が休みになった。夜に使う物の買い出しをしたいから,スーパーに1時集合で』





 約束の1時,私はスーパーの入口で幸太を待っていた。

 何を買うのかは分からないが,早く会えるのは嬉しい。

 少し待っていると,慌てた様子で幸太がやってきた。


「ごめん,遅れた」

「ううん,平気。私も今来た所だから」


 出会えたところで早速店内に入る。

 幸太はもう買う物が決まっているのか,買い物カゴを持ってどんどん先に行ってしまう。

 私はただ幸太の後についていき,次々と入れられる商品を眺めていた。

 様々な食材,冷凍食品,フルーツ等々……

 一体何に必要なのか,大量の商品がカゴに収められていく。

 店内を一通り見て回り満足したのか,レジで会計を済ませる。


「ちょっとこれ持ってくれる?」

「う,うん…」


 大きな袋を二人で手分けして持ち,幸太の車で彼の家へ。

 家に入ると,キッチンにはすでに様々な調理器具が並んでいた。


「ね,ねぇ幸太。ちょっと良い?」


 私はここでようやく口を開く。


「今から何をするの?」

「…え?」


 私の質問に,幸太は目を丸くして答えた。


「何って,決まってるじゃないか。


 ――餃子,つくるんだろ?」




 机の中央に置かれたホットプレートから香ばしい匂いが立ち込める。

 正面に座っている幸太は,手に持ったストップウォッチとホットプレートを交互に見ている。

 個人的にはもう蓋を開けても良いと思うが,あまりにも真剣な表情でそれらを見つめる幸太に,私は何も言わずに黙って見守る事にする。


「よし! 出来た!!」


 満足のいく時間になったのか,幸太は素早く蓋を開けて綺麗に並んだ餃子を皿に移す。

 ほかほかと美味しそうな湯気を立てるそれを,幸太は嬉しそうに見つめている。


「さぁ,食べよう」


 小皿に醤油を垂らし,まずは一つ。

 パリパリと心地良い食感の皮,それに包まれたジューシーな肉汁溢れるタネ。

 熱々なはずなのに,不思議と箸が止まらない。


「美味しい…」

「おう,そりゃ良かった」

「料理,こんなに上手かったんだ。ちょっとびっくりした」

「ははっ。少しは見直したか?」

「うん。凄く見直した」


 言いながらすぐに二つ目に箸を伸ばす。

 同じようにパリパリ食感の皮と,それに包まれた――







 ――熱々のドロッとしたチョコレートが私の口内を満たした。


「ッ?! な,なにこれ…?」

「ん? どうした?」


 幸太は何事も無かったように二つ目も食べている。

 私は思わず今食べたばかりの餃子を彼に突き付けた。


「これ! 何?!」

「何って……あぁ,それはチョコレートだな」

「そうチョコレート! ……って,え?」


 冷静に返され出鼻を挫かれた私に,幸太はいたって真面目に続ける。


「それはオリジナルのチョコレート餃子だよ。他にも,オレンジ餃子,桃餃子,お好み焼き餃子…色んな味を試してみた。ほら,これ食べてみ?」

「う,うん……」


 差し出された餃子を恐る恐る食べてみる。

 皮は相変わらずパリパリだ。

 でも,口に入れただけでも広がるこの甘ったるい香りは…


「あ,あんこ……」


 微妙な味だが,心の準備が出来ていただけあって先ほどよりはマシだ。

 これはたい焼きと同じような感覚で食べれば何とかなりそうだ。


「…何で,こんな事を?」


 普通につくればとても美味しい餃子なのに,あんな事を聞かされてしまっては安心して

食べられない。


「何でって,この前言ったじゃないか。今日の屋台で餃子を出すから,何を入れれば一番おいしいのか味見してくれって」

「そんな事…」


 一度も聞いた事はない。

 ない,はずなのだが,言われてみればどこかで聞いた事があるような気もする。

 何だか頭が混乱してきてよく分からない。


「とにかく,今は色々な餃子をつくったからたくさん味見してくれ。加奈が美味しいって言ってくれた物を本番で出すんだ」

「わ,分かった……」


 釈然としないが,目の前に並んでいる餃子はどれも美味しそうで,昼食を食べていない私のお腹にはとても魅力的なものに映る。

 気持ちとは裏腹に自然と箸は伸びて――


「い,いただいます…」



 ――お願いだから,フルーツ入りだけは来ないで――――




























 プルル,プルルと遠くから音が聞こえる。

 完全に覚醒していない頭を働かせ,何とか手探りに音源を探す。

 どうやら携帯が鳴っていたらしい。

 いつものアラームだと思った私は電源ボタンを押して音を止める。


 しばらくして,また音が聞こえた。

 スヌーズ機能にしては間隔が短い。

 私は少しだけ目を開け,改めて携帯の画面を確かめる。

 そこに表示されていたのは,横山幸太の名前。


 私はすぐに覚醒し,急いで電話を取った。



「はいもしもし?!」

『ぅん?! ど,どうしたんだいきなり大声出して…』


 思っていたより大きな声が出ていたらしい。

 戸惑う幸太に構わず私は言葉を続けようとして…



 ……そこで気づく。

 私は今どこで何をしている?


 起き上がった勢いで上半身から滑り落ちた毛布。

 ふかふかの敷布団に,着慣れたパジャマ。

 焦点が合っていないのは,普段かけている眼鏡をかけていないから。


 それはつまり――




「全部幸太のせいよ…」

『え? 俺何かした?』

「最近幸太が変な夢ばっかり見るから,私もうつっちゃったじゃない」

『あれ,じゃあ今日は加奈が変な夢見たのか。どんな夢だった?』

「…幸太が餃子をつくってくれたの」

『餃子? 俺が? また現実じゃありえない夢見たもんだ』

「全くよ…」

『じゃあ詳しい話は後で聞くとして……今何時だか分かるか?』

「え?」

『今の時間だよ』

「えっと,6時30分だけど…」

『今日は久しぶりに会えるから,早起きしてどっか遠出しようって言ったのは誰だっけかな~』

「…もう,幸太のイジワル」

『はははっ。まぁのんびり待ってるから,ゆっくり準備して来いよ』

「すぐ行くから!」



 こうして私の朝は過ぎていく。

 今日も良い日になりますように。


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