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小さな恋のうた 2

「こんにちは。高山さんが来るまで待たせて貰いますね」

前回の打ち合わせから1週間後。今日は例の時代劇のプレスリリースの帰りの打ち合わせだ。そんな僕の今日は和装姿だ。自宅にいる時いつもという訳ではないけど、一番落ち着くのはこの姿かもしれない。

「あれ?家業の帰りですか?」

「いいえ。今日の夕方前には配信されるでしょうから。次回出演のドラマのプレスリリースの帰りなんです。で、僕は自前だったもので」

結局、衣装さんとの話し合いで決まったのは、基本的に茶室で茶を立てるシーンなので、僕の着物は基本的に自前という事になった。

今日はメインキャストの皆さんが衣装を身につけている。僕は既に身につけているので、衣装さんと一緒に他の役者さんの衣装のお手伝いをしたりしていた。



今回のキャストの中で、僕の立ち位置はそんなに重要ではない。シーンにしても全部で10分あるかないかなのだが、茶道家として進んでいく事を決めるという重要なシーンがある。

マスコミにもその事を聞かれる。一応、家元にも相談して決めておいた答えをそれらしく答えていく。流派が違えど茶道の心得があった事が今回のドラマの役に立てれば幸いですと。それからベテラン俳優さんから僕が衣装さんのお手伝いをして着付けていった事をばらされてしまった。そこも想定していた答えで回答する。実家が茶道教室を営んでいるので自分で着るのも、男性の着付け位はできますよ……と。

まあ、僕の名前は本名じゃないと言いながら、実家の家業に対してはNGになっている。

家元の方にもマスコミから問い合わせがあるようだけども、ノーコメントを貫いている。

この業界で僕……柏木雅を知っている人は本当に限られている。それにそれが表に出る事もないだろう。それはなぜか?実質的に僕が時期家元になる可能性が限りなく高いからだ。

そこのところが表に出た時点で僕はアイドルと辞めるという契約にもなっている。

僕の周囲をマスコミが追いかけるという事は基本的にしない。それを逆手に取って遊ぶなんて事もしないけどね。結果的に面倒くさいことになるのだけは勘弁だ。



前のチョコレートケーキの時に、企画として初恋の人と対面なんてしたっけ。

僕の場合は中学校の時に付き合っていた彼女。今は別れている。

とは言っても、彼女は桔梗屋さんのお嬢さんなので交流はある。

今の彼女は、実家を支えるべく、経営学科か経済学科を目指している。

菓子職人にならないのではなくて、小麦アレルギーがあるのでなれないのだ。

そんな人にも、お菓子を楽しんでもらいたいと、米粉を使った和菓子の商品開発を二代目達と行っている。その成果は、少しずつ店頭で売り始めた所だ。

明日の、事務所の茶道教室は、和菓子の講座に変更になっている。

二代目と彼女が一緒に行ってくれるという。そう言う意味では僕は恵まれているのだろう。

僕の場合は、彼女とご対面は彼女の方からNGにしてくれて手紙を読むという事になった。

実家の事が悟られないようにって彼女の配慮には頭が下がる。

樹は、潔く今初恋中だから呼べませんと宣言していたっけ。あいつの初恋はもう一人のマネージャー。CMがきっかけで付き合い始めたけど、これはかん口令が敷かれている。

昌喜は幼稚園の時の先生。双子は……お隣に住んでいたお姉さん。

そこから、10月のDVD撮影の企画ができたんだよな。ファンクラブイベントで先行されたDVDは先週から発売されているが、ヒットチャートで上位になったとか。



今日の打ち合わせでは何を決めていくのだろう?僕はアイドルになってから使い始めた手帳を広げる。自分なりに纏めたアイデアの確認をする。

あの後に自分なりに決めていった内容を確認しながらイメージしたけど、やっぱり片思いって、切なさが先行しているイメージが多い。じゃなければ、ドキドキして暑くなるイメージだ。これをどう高山さんに伝えて理解してもらえるか、それが重要だなと思った。

あのハートの形のマカロンのアイデアはどうなったんだろう?

やっぱり、気持ちって言ったらハートの形だと思うんだ。そのハートの形を大事に包み込むように持って、そっと唇に合わせる。漠然とだけども、スチール広告のイメージが浮かんだ。僕はそれを手帳に簡単に絵にして書き込んでいく。

「楓太君?お待たせ。楓太君?」

僕はよっぽど集中していたのだろうか?高山さんが来ていたのに気がつかないで手帳にアイデアを書き込んでいた。

「あっ、すみません。集中していました」

「いいんだよ。今日は和装か。前のCMでも来て貰ったけど、やっぱりしっくりするね」

「家でも来ている事がありますからね。今日の着物の理由は夕方には分かると思いますよ。こないだのアイデアはどうなりました?」

「それはね、会議室に言ってからね。まだマスコミリリースしていないから」

高山さんは、口元に人差し指を重ねる。そう言えば、マスコミリリースはクリスマスイブだっけ?今は11月中旬だからって思うけど、業界は年末進行なので結構忙しい。

僕だって、今週末には京都ロケが決まっている。僕のロケの合間に皆はDVDの撮影をして、最終的には僕も合流する。ちなみに僕は集合場所に遅刻するって設定だ。

その設定もかなり無理があるけど、進行上致し方ない事なので僕は諦めている。

「それでは行きましょうか?」

僕達は会議室に向かって歩き出した。



「こないだのハートの形ね、ランダムに混ぜることにしたよ。それだけの形っていうのはちょっと無理だと返事が来てね。プレミア感があっていいだろ?」

「だったら、それに簡単なメッセージを入れこみますか?」

「それは、面白そうだな。できるなら直筆がいいかな」

「変なプレッシャーを与えないでくださいよ」

「まあ、その話は今回の僕の宿題かな。さっき手帳に書いていたのは?」

高山さん、やっぱり気になっていたんだ。

「アレはなんとなくイメージしたスチールのラフです」

僕はそう言って、手帳のページを破いて渡す。

「ふうん、なんかいいね。ちょっと試作品があるからやって見て?」

僕は置かれているサンプルから、レモン味のマカロンを手に取って絵に描いたように大事そうに両手で包み込むように持って口元に寄せる。

「ごめん、コンデジで撮らせて貰っていい?CMとかスチールの絵コンテはまだ出ていないんだよ」

「あっ、そうなんですか?僕余計なことしちゃったかな?」

「そんなことないよ。楓太君のイメージを優先しようって方針になったからね」

高山さんは、本当に楓太君はいろんな引き出しがある子だね。僕もいい刺激になるよ……なんていいながら、パソコンにコンデジで撮影した画像をアップして保存している。

「今日決めたいなあって思っているのは、商品名何だけど……僕達が考えているのはコレなんだ」

そう言って1枚の紙を見せてくれた。そこには片恋マカロンって書かれていた。

「どう思う?楓太君のイメージだともう少し違うと思うんだけどね、僕以外のメンバーはこれでいいって言っていてね」

成程。高山さんはこの商品名に納得していないんだ。僕も何となく違う感じがする。

「楓太君のさっきのスチールのイメージだと確実に違うよね?」

「確かに片想いって一方通行だけども、片恋っていうんじゃなくて、うーん……」

「そうだね。さっきのポーズだと、思いを大事にしているって感じ?漢字で書くと想うだよね?」

「そうですね。片想いマカロン?そっちの方がいいですね」

「うんうん。それもアイデアにしてもいいかな?」

「いいですけど……想うを使うのだったら、もっとダイレクトでも……君想いマカロンは?」

何気なく僕は思った事を口にした。片想いの相手は普通特定の相手だけのはずだ。

だったら、君と特定してもいいのではないのだろうか?

「楓太君、凄い。それいいよ。僕達が何日も考えた商品名もあっさりと塗り替えちゃうね」

「高山さん、ちゃんと考えて決めましょう?僕は素人なのですから」

「でもね、買ってもらうお客さんも素人だよ?忘れてない?」

高山さんは目を輝かせて何処かにメールをした。

「ごめん、今日は在籍している僕の上司にメールしちゃった。楓太君に会いたいって言っていたしね」

「えぇっ!!そんな、忙しくないんですか?」

「僕の上司が同席して貰った方が、確実に話が進みそうだからね。あっ、すぐに来るって」

いきなり話が進んでしまって僕は一人で取り残されてしまった様な気がした。


無事に「君想いマカロン」の名称が出てきました。

次回でようやく具体的な商品化の話が決まってきます。

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