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ビギン ザ ビギン 3

 いつもの様に、エントランスで受付をしていから、簡易応接スペースで待たされる。

 この時の時間が今でも慣れないものだ。そんな僕を見て、澤田さんは苦笑いしている。

「やっぱり、まだ慣れないか?」

「ええ。それじゃいけないんですけどね」

 あまりひどくはないけれども、最初の一歩的なアクションが苦手だ。

 皆がいる時はそうでもないけど、今回の様に単体で活動するとなると意識してします。

「でも、年末に向けて一人で動く事が多くなるからな」

「そうでしたね。国営放送の顔合わせは年明けですか?」

「あの番組は、4月からの半年間だそうだから。2月位にはあるんじゃないか?」

「分かりました。久しぶりに指が動くようにしないといけないですね」

「そうだな。同時にそこから仕事の幅が増えるかもしれないからな」

 澤田さんはそう言って僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。

 この年でそういう仕種って結構恥ずかしいものだけども、澤田さんにされる分には僕はなぜか平気だ。一番いやなのは……ここだけの話だけど社長だ。

「お久しぶりです。お待たせしました」

「御無沙汰しています。お元気でしたか?」

「それなりですよ。それでは行きましょうか」

 コンビニの担当者が現れたので僕達はビルの奥に進んでいった。



 僕達が通されたのは、そこそこの広さの会議室だった。

 そこで今回の企画の資料を渡される。

「まずは目を通して下さい」

 担当者に促されて、僕達は資料に目を通し始めた。

 コンビニスイーツ第二弾と大きく表紙には書かれているけれども、商品名はない。

 今回の商品は、マカロンだという。マカロン……男はあまり食べないなぁと考える。

 女の子が好きそうなパステルカラーな色合いのお菓子を思い出す。

 定番のフレーバーがあって、それと同時に期間限定のフレーバーが出るそうだ。

 ふうん、ずっと同じだと飽きてしまうというのは良くあることだ。

 僕はページを進めていく。

 今度は今回のコンセプトが書かれていた。

 今回は、『甘いけど、脆く壊れやすい。けれども大切に扱いたい』と書かれている。

 マカロンは確かに甘い。それに崩れやすい。男なら一口で食べられるが女の子はそうはいかないだろう。そこに切なさとかいじらしさを加えたいという事だろうか?

 ターゲットは、甘いものが好きな女子がメインとなっている。

 僕らがCMしている初恋ショコラはOLをターゲットにしていたはずだったけど、結果的に幅広い年代に支持されているようだ。

 今回も最終的にはそうあって欲しいという思惑があるだろう。



「では、今回の企画を担当します。高山と申します。よろしくお願いします」

 先程資料を渡してくれた人……高山さんが改めて企画の説明をしてくれるという。

「今回のCMキャラクターは、初恋ショコラを購入して下さった方に店頭アンケートを実施した結果を参考にこちらで決めさせていただきました。サンプル数は1万人です」

 僕達が貰っている資料ではなくて、ホワイトボードに、アンケート結果が張り出されていた。そこには僕の名前が一番上に書かれている。他には、今話題の子役が続いていて、ビビッドのメンバーの名前もあった。

「商品名はまだありません。それは、これから楓太さんも一緒になって考えて貰います」

「えっ?」

「今回は、企画の段階から参加をお願いします。今回のコンセプトからイメージ出来る恋ってありますか?」

 高山さんにいきなり質問された。コンセプトは、甘くて壊れやすくて脆い……片想いでいいのだろうか?社長の宿題の答えはこの事だったのだろうか?



「片想いでしょうか?でも片想いマカロンだとベタですよね。うーん、難しいですね。僕のイメージだと、水風船の方がイメージ出来たもので」

「水風船?」

「想いがどんどん募るとどんどん膨らんで、ちょっとした刺激で弾けて壊れてしまう。告白して成就するだけが片想いって訳ではないですよね」

 僕は答えとしては正しくないかもしれないけれども、思った事を正直に答える。

「成程。楓太君の水風船の弾けるイメージが、マカロンの脆くて壊れやすいと同じものだと思います。どうです?メインキャラクターを受けて貰えますか?」

「澤田さん……僕の予定は?」

「企画からですよね?発売予定はいつになりますか?」

「来年のバレンタイン商戦に当てます。チョコレートが苦手だったり、コーヒーが苦手だったりする男性もいますから。バレンタインは想いを伝える日という事に焦点を絞ります」

「成程。だったら、スケジュールは調整できるから楓太がやりたいのなら受けてもいいぞ」

 澤田さんは、僕に微笑んで見つめている。片想いをした事がない僕がこの仕事を受けてしまってもいいのだろうか?僕は自問自答をしてしまう。僕よりも他のメンバーの方がいいのではないか?



「僕以外のメンバーには声をかけていないのですか?」

「実はかけていません。昨日の皆さんのDVDを見て、どうしても楓太さんにとなったんです」

高山さんは、僕達の前に10月に撮影したDVDを見せる。あぁ、ミニリサイタルDVD。

「初恋を聞いてコレだって思ったのです。楓太君、ちゃんとこの曲をCMで歌って貰えないかい?」

「鼻歌に近かったあの歌ですよね?歌だったら樹の方が……」

「樹君の声じゃなくて、楓太君の声の方がイメージに合ってます。今回のシリーズには色気とか艶は必要じゃないので。清涼感とか清潔感とか……そうなると、楓太君だと思ってね」

「僕なりに頑張ります。この仕事受けます」

 僕は、僕だから必要だと言われたのが嬉しくて無意識に引き受けていた。

けれども……僕……片想いってしたことないんだよな。

「ありがとう。皆の記憶に残る商品にしよう。よろしく」

 澤田さんは大きな手を僕に向ける。僕はその手を握る。

 恋をしたらいいのかな?でも誰を相手に?なんてことをのんびりと僕は考えていた。


CMは引き受けましたけど、片想い若葉マーク(笑)

次回の章は企画を形に作り上げていったりします。

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