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明日へ 1

最終章になります。

君想いマカロンの売り上げは、最初に予測していたもののおよそ3倍の数字を叩きだしていた。初恋ショコラの時と違うのは、このマカロンは常温保存ができること。それに工場も年末進行で相当量を前倒しで生産していたので、生産ラインがパンクするという事を免れたようだ。先輩達が同時期に発売するケーキは期間限定の上、予約注文も可能にしたのでこちらも工場ラインがパニックを起こすという事はないらしい。

僕とナツミが歌うCMソングも好評で、事務所にも君想いマカロンの公式ページにも問い合わせが殺到している。こちらは事務所から今度オンライン配信でデビュー予定のアーティストという回答しか出していない。もちろん僕らもnatsuの事に関してはノーコメントを貫いている。そんななか、バレンタイン限定のコンビニ会社限定で僕とnatsuのミニアルバムの発売計画が立ちあがった。名前も「君想いマカロンのうた」今までCMでオンエアされた曲と収録したけど、結局採用されなかった音源を使うという。その頃の僕らは本格的に忙しくなっていてメールとスカイプでのやり取りしかできなくなっていた。


ある日の夜。夏海ちゃんからメールが届いた。

そこには、バレンタイン当日は、どんなに遅くてもいいから隣に来て欲しいと書いてあった。それが何を意味しているかなんて、分からないほど間抜けではない。俺は分かった。ちゃんと行くからねと返信をした。

僕らのCMの方は、二人のスケジュールが会うと纏めて収録したり、CMソングをレコーディングしながら制作を進めている。今僕が考えていたのは、春からの通学途中の電車で見かける女の子に恋をする設定で勧めるシリーズだ。絵コンテとシナリオは3回分までは決定している。今日は4回分だ。急の雨で傘を持っていた俺は傘を差して駅まで歩く。駅に近いコンビニで不安そうに外を見かける彼女を見かけた。名前までは知らないけれども互いの存在の認識がある程度。コンビニにの中にいる彼女に気がついた。制服が雨でぬれている。店内はクーラーが入っているからこのままだと風邪をひいてしまう。鞄の中にあるものの存在を思い出して、僕は彼女の傍までやって来て帰ろうと誘い出す。

鞄から出したのは、折りたたみの傘とスポーツタオルと学校のジャージ。もちろん着た後ではない。冷えたら風邪を引くから良かったらと僕はそれらを差しだす。躊躇う彼女に風邪をひいたら学校どころじゃないでしょう?と俺は諌める。恐縮しながら彼女は俺のジャージを羽織ると、身長差のせいか、袖から手が出ないで、ミニ丈のワンピースの様になってしまった。

「私って、ちっちゃいのね。なんか恥ずかしい」

「俺のだからね。ごめんね。いきなり話しかけて」

「本当の事を言うと、体が冷えていたのは事実だったから……嬉しかった。名前……田中君っていうんだね。ありがとう田中君」

「うん、傘もあるから帰ろうか?」

二人の距離が一気に近付いた。設定では彼女は歴史のある女子校に通う生徒さん。夏服のセーラー服に紺色のスカーフが爽やかに感じる。俺のジャージを来た彼女はちょっと待って欲しいと言って、もう一度店内に戻って行く、やがて戻って来た彼女はお待たせしましたと言う。そして僕達は駅に向かって歩いて行く。そして暗転。コピーが流れる。今回のセカンドシーズンから、CMの最後に僕がアドリブで一言言う事になっている。

「今回はどうしようか?俺の名前を始めて呼んでくれたのか……お願い、俺の名前を呼んで?か、見ているだけじゃ前に進めないか、お願い、君の名前を教えてほしいんだ……だろうな。後は高山さんに任せるか」

俺は絵コンテと簡単なシナリオを書いて今日の作業を終了した。

2月末に引っ越すから部屋の中は持って行く荷物が段ボールに収納されている。着物をどうしようかと考えた末に、普段着タイプだけ持って行く事にした。必要になれば実家に取りに帰ればいいのだから。

それと、オフの時間をかけてようやく車の免許を取る事が出来た。明日には俺名義の車が納車される。最初の車は、ファミリータイプのミニバン。コンパクトカーも考えたけど、アイドルが軽自動車というギャップで変装のアイテムになると考えていたけど、両親からは止めてくれと言われた。

確かに時期家元が軽自動車は問題かもしれない。


翌日は4月から始まる教養番組の顔合わせと言う事で国営放送の会議室に来ていた。

一応、楽器を持ってくるようにって話だったから僕は自分のトランペットを持って来ていた。

僕の集合時間は一般生徒さんよりも実は1時間程早い。先生役になるトランペット奏者さんに僕のレベルをチェックして貰う為だ。先方には僕のアイドル前の経歴は提出済みだ。

5歳からクラシックピアノ、小学4年からはトランペット、中学からはアルトサックス。

今はオフの時に個人レッスンで継続中となっている。

「おはようございます」

「おはようございます。これからよろしくお願いします」

「そんなに堅苦しくしないで。楓太君の経歴はみたよ。音楽はずっとやっていたんだね」

「はい、隣のお宅がピアノ教室だったんですよ。母もピアノは嗜みましたから」

「譜面は読めることは分かったけど、ジャズだから大変だよ」

「ジャズトランペットは初めての経験なので、僕も楽しんでマスターしたいですね」

「うん、分かったよ。それじゃあ初見でいいからこれを拭いて貰っていいかい?」

タイトルを隠された楽譜。でも譜面を追っていくと僕もしっているジャズの名曲ワンフレーズだった。

「分かりました」

僕は楽器を手にしてデジタルチューナーでチューニングをする」

「そこから始めるとは……本当に真面目だね」

僕は曖昧に微笑んで返した。そして楽譜の音符と記号を合わせて演奏をしていく。

「あんまり上手じゃないですね。すみません」

「ごめん、僕の方が謝らないと。さっき楓太君のコンクールの演奏を聴いたよ」

「えっ。僕の演奏って画像になってました?」

「この局のデータベースは侮っちゃいけないよ。全国大会に出ているだろう?あの時、君はファーストだったろう?」

そう言われてそうだったと思い出した。なんでファーストだったか思い出せない。

「そうだったかもしれませんね」

「あの時と同じ状態を維持し続けるのは大変じゃないかい?」

仕事と楽器の両立の事だろうか?俺……そんなにびっしりと働いていないからな。

「僕……そんなにハードなスケジュールを組んでいないんです」

「でも、今はテレビで見かけない日はないよね?」

「そう言って貰えると有難いです」

「ってことは、僕が吹いてお手本でなくても、楓太君がお手本のでもいいかな?番組を見ている人はそれを望んでいる人もいるからね」

「そうですか?むしろ僕は初心者の方が良くないですか?」

「この講座は、基礎が吹ける人達だからそこまで気にしなくていいよ」

「分かりました。では半年間よろしくお願いします」

そしてその後、スタッフ全員と自己紹介を兼ねた打ち合わせをした。生徒さんの方は今選定中という事で今日は出席していなかった。次回からは参加すると言う。

僕が楽器を持っているってことで、先生とセッションってリクエストを貰ってしまって急遽先生の持っている楽譜を借りて僕が主旋律で先生がアドリブでセッションをした。

それが思った割に好評だったみたいで、番組でもやってみようかって話になった。


それと、音響のスタッフさんがしているマフラーが可愛くてどこで売っているのか?と聞いたら指網で編んだと言う。簡単に編み方を教えて貰うと思った割に簡単に編む事が出来た。お勧めの手芸店と毛糸の太さを教えて貰った。編み物って無心になれるものなんだね。

別に俺が自分用に編んでいてもおかしくはないかと思って次のオフに手芸店に行ってみようとスケジュールの確認をした。


そんな調子で、僕らは僕らのスケジュールをこなしていった。そんな中、ナツミのモデルデビューした雑誌が発売した。実家で定期購読をする事にしていたので届いたそれを家族と見る。今では実家にも夏海ちゃんは来ていて、俺の両親とも馴染んでいた。家元も茶室でお稽古をしたとか。中学から始めたにしては筋がいいんじゃないか?こっちで稽古できない時は事務所の茶室で見てあげるようにと家元から言われた位だ。

「ねえ、なっちゃんのお祝いをしましょうよ。日程はお母さんが決めておくから……いいわね?」

「母さん、なっちゃんも忙しいんだよ?そこは分かってて?」

「やだ、なっちゃんのスケジュールはお隣から貰ったもの。後はあなただけよ」

半ば脅かされる様に俺はスケジュールを渡す羽目になったのだった。

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