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じれったい 1

「雅?目覚ましが鳴っても起きなかったけど……体調が悪いの?」

「そんなことはないよ。今日はオフで最近疲れる事が多かったから」

「そうね。珍しいわね。のんびり寝ているなんて」

「ああ、ちょっと仕事先で宿題を出されてつい熱中したみたいで」

「コンビニの新作だったかしら?発売はいつ?」

「プレスリリースして、発売開始はクリスマスイブからだよ」

「随分と詰まっていない?」

「そうだね、本来は1月に発売だったはずだけど……そこは何も言えないし」

そう言うと、俺はカフェオレボールの中のミルクティーを飲んだ。

「とりあえず、体は丈夫じゃないのだから。分かっている?」

「分かっているよ。頂きます」

焼けたトーストにバターを塗って一口齧る。焼けたパンの匂いが更に空腹を誘う。

アイドルだろうが、男子高校生だろうが健康的な生活が健康を維持できると思う。


「ところで、今日は事務所だけか?」

朝食を食べ終わって新聞を広げている父親が問いかける。

「今日はオフだけども、来年以降の着付けと茶道のスケジュール確認しに事務所に行ってもいいかなって」

「そうか。年末のこっちの仕事に出て貰いたいのだが……どうだ?」

「だったら、社長に直接言うから手紙でも書いておいたら?」

「分かった。事務所に行くまでには用意しておくようにしておこう。すまないな」

「別に。俺はいるだけでいいんだろう?」

「まあ、次期家元としていてくれればいいだけだ」

「分かったよ。俺が高校卒業ってのもかかってきてるのか」

「一概には言えないが。お前仕事続けながら家元やるか?」

「それができればそうしたいさ。でも……それが可能になりそうな気配?」

「正しくは、してもいいって方向だな。お前の実家が茶道教室って設定のおかげでどの流派も生徒さんが増えているんだよ」

「成程。それは業界的には貢献しているよな。俺」

「そうそう。基本的に流派を隠している事が多分ここだとふうくんに会えるって妄想心を擽るらしい」

ああ、いわゆる乙女心ってやつですね。変に弄らない分には問題ないと思いますが。

「だから、ある程度仕事が落ち着いたら……二十代後半には家業の事をカミングアウトしてもいいかと思ってな」

「アイドルキャリア十年位でならいいでしょうね」

「そこのところは社長と相談になるから、一度長期的視野を確認したいからお前も同席しろよ」

「分かったよ。父さん」

俺は、父さんに頭を下げる。俺がこの仕事をしているのは父さんの後押しのお陰だ。

「父さん、ニューミュージックのCDを借りてもいいかい?」

「仕事絡みか?」

「もちろん。例のCMのプランを考えるのに聞き流してみようかなって」

俺が答えると父さんは驚いた顔をする。

「えっ、お前。そんなところから参加しているのか?」

「うん。たまたまアイデアを伝えたら採用されるようになって今では俺が言った事から、CMのコンセプトに合わせるように変わったんだ」

「ふうん。それは大変だけど、楽しいだろう?代理店みたいな事も出来る訳だし」

「そうだね。滅多にない機会だから思い切って楽しんでやる事にしたんだ」

「お前はそういう仕事には恵まれているな。そこには感謝の心を忘れるなよ」

「分かっているよ。時間までCMの方の宿題をやっているから」

「宿題か……。お前が好きそうな。頑張れよ」

俺は父さんと話をしてから自分の部屋に戻って行った。


-おはよう、今が一番辛いかもしれないけど頑張って-

9時になる前に夏海ちゃんにメールを送る。もう学校には行かないって夏海ちゃんも決めた事で朝の送り迎えはなくなって、その代わりに9時から俺が見てあげられる範囲で勉強を見る事になっている。どちらかが仕事で出来ない時はこうやってメールを送っている。

-曲は出来ました。今はアレンジ待ちです。お姉ちゃんが私にボイストレーニングしてくれるって-

俺のメールに対しての夏海ちゃんの返信があった。ボイストレーニング……これからのスケジュールを見越してのレッスンだなと確信する。

-分かった。無理だけはしちゃダメだよ-

俺は返信をして、父から借りたCDをMP3に取り込んだりして作業を進めることにした。

新たに取り込んだ楽曲を再生しながら、学生時代に使っていたノートのあまりでCMの簡単なシナリオを考えてみる。今のところ決まっているのは、4回分までだ。朝の校門で昇降口の君を見つける2回め、廊下から階段に向かう所を見つける3回め、彼女の教室で座っている彼女を見つける4回目。彼女との距離は徐々に近づいている。今の距離間は、ちょうど20メートル。今回も少しだけ距離と縮めたい。テスト前の放課後の教室。図書室では勉強をする生徒でそれなりに混んでいる。空いている席に座った僕は、自分のテーブルの向かい側で勉強している彼女を見つける。その距離15メートル。勉強しながら彼女を見つめると、顔色を変えながら勉強している。その笑顔を持って見ていたいなあって表情で見つめるところで暗転してキャッチコピー。おまけでちゃんと勉強はしようね?って入れてみるのはどうだろう?そんな感じで、僕は数回分纏めて設定を書いておいた。書き終わった時には、お昼を過ぎていた。両親は事務所で取るから、俺はあるもので簡単に済ませる。

今日は乾麺の蕎麦があったから増えるワカメと卵で終わらせることにした。

事務所にメールを入れてあった事を思い出して受信メールの確認をする。澤田さんからのメールがあって、来年度の着付けと茶道の日程は、僕のスケジュールに合わせて行うから多忙過ぎたらやらないよって書かれていた。確かに、今の講座を受けていたのは、映画の出演で和装を着るとか、ドラマで茶道のシーンがあるという子達だ。今のところはそういう状況の子がいないと言う事だろう。

「って事は、これでいいのか?分かりました。任せますが、父から実家の仕事の要請が来たので社長の所に行きたいのですが、いいでしょうか?……かな?」

今度はすぐに、社長に直接連絡をするようにって返信が来たので、蕎麦を食べてから俺は社長に連絡を取る事にした。


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