パーティーを始めよう 1
無事にプレス発表の日になった。会見は有名はホテルの宴会場を二つ借りたという。
今日のプレスリリースは、期間限定初恋ショコラと僕がCMする君想いマカロンの同時発表だ。最初に先輩達が公表するので、俺と高山さんはホテルの一室を控室として利用している。
「ふう君は……リンはどうするの?」
「そうなんですよ。両親にべったりして欲しいのに、僕を飼い主って思ったみたいで」
高山さんとの話のメインは、スチールの時の子猫が可愛いって両親が衝動買いしたペットのロリアンブルーの子猫。大人しくて穏やかなのだが、両親に懐く前に俺に懐いてしまった。
「確かに、最初の世話はオフだった僕がしましたけど……来年の春には自活する予定なのでそれまでにはどうにかして貰わないと」
「一人暮らしするの?」
「はい。基本的には一通りは出来ますけど、一度は外に出た方がいいって両親が」
「いいご両親だね。メンバーは皆自宅?」
「いいえ。樹だけは寮です。たまに親代わりのお宅にお泊まりしていますけど」
「樹君の親代わりって……確か、こないだトーク番組に一緒に出ていた」
「あの方です。お母さんが高校時代の同級生だそうですよ。お父さんは後輩になるそうですし」
「それじゃあ、樹君に張り込む記者はいないか」
「芸能というよりは、政治記者に撮られる可能性は高いでしょうね。本人も楽しんで泊まりに行っているのでいいんじゃないですか?」
「ふう君は、彼に会ったことはあるのかい?」
「ありますよ。樹と一緒の場にいる時に」
「ビビッドは恋愛禁止だったっけ?」
「そんなことないですよ。僕だって好きな人いますよ」
「えっ、彼女がいるの?」
「いません。今は片想い中です。CMと同じようにね。見ているだけで嬉しいってのもあるんだなって始めて知りましたよ。この企画には本当に感謝しています」
高山さんと会って、あの帰りの日に夏海ちゃんに会わなければ俺は彼女に恋をしなかった。彼女の事を知ってしまった今は、この気持は本人に伝える訳にはいかない。彼女にとってこれからが一番大切な時だから。それはアイドルとして活動している俺が一番分かっている。
「相手に告白しないの?」
「今はいいですよ。仕事にイメージが膨らむので、今を僕は楽しむことにしました」
「大人だねえ。そうですか?片想いは一人で十分楽しめるんだから。徐々に相手との距離が近付くだけで嬉しいって普通見落としませんか?そこをCMで表現したいなあ」
俺がそう言うと、高山さんは感心している。
「アイドルの自覚なのかな。それともふう君の性格なのかな」
「さあ?どっちもどっちでしょう。こんなに早い時間のプレスリリースは……お昼のワイドショーをターゲットにしていますか?」
「気付かれたか。ここからならどのテレビ局でもサンプルを番組中に出してくれるだろ?」
「流石ですね。そう言うフットワークの軽さは僕も勉強しないと」
「ふう君はしなやかって言葉がぴったりだね。自分が必要になると思う事はどんどん吸収しているよね。それはどこからだい?」
「うーん、先輩方を見てですか?言いたい事をちゃんと通して自分達のカラーを前面に出す所は僕にはないところです。僕は調和を望んでしまいますから」
「それがいけないって訳じゃないけどね。ふう君は今を満足していないと」
「そうですね。だから、今までとはちょっと違う自分を出していきたいです。ドラマでも殺人者役とかもオファーがあれば受けますけど……今はタイミングが悪いんで辞めときます」
「あはは……ふう君らしいや。そろそろ会場に移ろうか?」
「そうですね」
僕らは控室を後にして会場に向かう事にした。