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初恋3

「すみません、片岡先生……あっ、すみません」

 音楽室を覗きながら顔を出した女の子が逃げ出そうとした。

「先生と待ち合わせているのかな?だったらおいでよ」

 多分、僕達が割り込んだ形になるだろうから女の子に音楽室に入るように促す。

「えっ、でも……」

「うーん、そうだね。今見た事は秘密だよ?約束できる?」

 女の子は僕が楓太である事に気がついたみたいでポカンとしている。

 多分、この子は今見た事は口外する様な子ではないだろう。

「いいのかい?ふうちゃん」

「別に。楽器が来るまでは暇だからね。ピアノの練習?」

「はい、市の音楽祭の伴奏を頼まれたので」

 声が小さいながら女の子はしっかりと答える。市の中学生を対象にした音楽祭の伴奏者ならある程度ピアノが弾けるはずだ。

「それは大変だね。僕もやったことがあるよ。4年位前にね。折角だから弾いてみて?」

「いいんですか?割り込んでしまって」

「僕らの方が割り込んでいると思うよ。音楽の先生の部活がまだ終わっていないんでしょう?」

 音楽の先生は確か女子テニス部の顧問をしているはずだ。最終下校30分前にならないと来ないだろう。

「別に僕達は休憩って事でいいですよね」

「そうだな。だったら、次のロケ先探してみるよ。ふうちゃんはここにいて」

「はいはい、了解です。お願いしますね」

 そういうとカメラマン達は音楽室を後にした。

 音楽室の中には僕と彼女二人きりになった。


「そのリボンは1年生だよね?部活は吹奏楽部?」

「いいえ。ピアノを習っているので茶道部です」

「ふうん、僕の逆だね。ちょっと前に廊下を歩いていた?」

「かもしれないです。私荷物が多くて良く分からなくって」

 身を縮めてしまう女の子を可愛いなと思いながら見つめる。

 13歳か……。自分があの頃はもっと子供染みていたような気がする。

「伴奏弾いてみてよ。テノール楽譜があれば合わせて歌うよ」

「えっと、あり……ます。どうぞ」

 彼女は自分の楽譜を手渡す。自分ものを手渡して大丈夫なのだろうか?

「君の楽譜は?」

「暗記していますよ。平気です」

 そういうと、彼女は課題曲になっている4部合唱の曲を弾き始める。

 伴奏はあくまでも伴奏であって、メインになろうとしてはいけない。

 僕が当時の音楽の先生に教わった事だ。今弾いている彼女も自分のカラーは抑えているように見える。それでいて、各パートが歌いやすいように導いている。

 知らない曲ではないものの、歌った事は初めてだったのに、スムースに歌えた。

 自分の技量の無さと言われればそこまでなのだが、彼女の才能が羨ましいと思った。


「将来は、音楽家に進みたいの?」

「音楽家ではなくて、音楽の教師になりたいんです」

 何気ない僕の質問に対して、きっぱりと言ってくれる。

 こういう子は教師にならないで、音楽の道を極めた方が成功すると思うだけどな。

「それじゃあ、お礼がてらこの曲を」

 そう言って、僕はさっき歌っていた初恋をピアノで弾き語りを始めた。

 ピアノの部分は、元は合唱曲のものだけども、即興にしては結構覚えているものだ。

 彼女は歌えるみたいで、澄んだ声で僕の声に重ねてきた。

 こうやって、女性とアンサンブルで歌う事はないからとても楽しく感じる。

 仕事以外で音楽を楽しいと思ったのは……何年振りの事だろう。

「やっぱり、本職ですね。私だけ一人占めしてしまっていいのかな?」

「いいんじゃない?ここだけの話にしておけば」

 名前も知らない後輩相手に僕は連弾までして音楽を楽しんでいた。

 まるで、ピアノが楽しくって堪らなかった幼稚園児の頃の様に。


雅(楓太)にとっては、音楽の趣味が同じ方向の中学校の後輩位な扱いです。

なので、名前を聞くことすらしていません。会いたければ、母校に来ればいいと思っていますので。夏海は楓太に人並みにドキドキはしていますが、秘密だよって約束を守らないと!!と意気込んでおります。


まずは、ヒーローとヒロインが揃いました。恋愛フラグはありませんが(笑)

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