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mystery of sound 2

朝、珍しく俺は目覚まし時計で起こされた。いつもの俺は時計のアラームが鳴る前に起きるのに。それだけ昨日は疲れていたんだって痛感する。

床には昨日考えていたCMのアイデアが散乱していた。とりあえず、10回分のアイデアがちゃんと形になって纏まっている。残りは、もっとざっくりとした話の展開を纏めたもの。しかも途中でライバルとかがいてもいいようにずっと二人きりの展開と第三者の乱入の二通りに分岐している。

そこのところは高山さんに任せればいい。今日の仕事は昨日の仕事の続きを事務所のレコーディングスタジオで行う事になった。

ぼんやりとした頭のまま俺はゆっくりとダイニングに向かっていく。



「おはよう。今日は誰もいないんだっけ」

母さん達は昨日は何処かのホテルに宿泊したようだ。そんな内容のメールが父さんから届いた。家では父さんと呼んでいるけれども、外では家元で通している。事務所的には家元との共演はNGにして貰っている。どんな所でボロが出るか分からないから。

ダイニングに映って、コンポの電源を入れて、ラジオを選択する。

テレビでもいいけれども、個人的にはラジオを聴いているのが好きだ。

朝の顔としてお馴染みになったタレントさんが切り盛りしている番組。

俺はこれから……どんな方向の活動をしたいんだろう。いつまでアイドルをしていられるんだろう?家業の事を考えるとずっとこのままではいられないだろう。

4月からの国営放送のオファーは個人的に渡りに船かもしれない。

コンスタントに定期的に仕事が出来るのが一番理想的かな。

休みがないのも嫌だし、グループでの仕事も嫌じゃない。

キャラとして大人しくしているのも窮屈でもないし。

電気ケトルのお湯が沸いたのを確認して、頂き物のミントティーを入れる事にした。

今日のマイボトルに入れるお茶を何にしようか考える。



ラジオの仕事……してみたいなあ。ゲストでは何回か出ているけれども結構楽しかった。

来週には、クリスマスのケーキとコラボしたラジオ特番の収録がある。

今回は、限定のケーキもあって、そっちは俺達の先輩達が担当する事になった。

いつものケーキよりちょっとゴージャスだから起用されたらしい。

僕らはクリスマス用の撮影の絵コンテを貰ったばかりだ。

共通で貰った資料には、撮影現場で走って貰いますと書いてある。

俺の設定は、高校の委員会の先輩と後輩って設定でずっと進んでいる。

いつもは俺の掌で転がしている彼女に振りまわされている設定。

放課後の教室を走って彼女を探す設定。いつもの様に、近くのコンビニで買ったケーキを片手に彼女からメールでくるヒントから彼女を探すのだ。

彼女は……俺らが最初に出会ったその場所に座っていた……というオチ。

今回はお決まりのキャッチコピーはなしで、ノープラン。俺と共演の彼女で決めるようにという事だ。僕は、最初から共演させて貰っている女優さんとコンビを組んでもう少しで一年になる。ちょうどデビューしてすぐで、このCMから着実に役の幅を広げている。

今期は主役の学園モノのドラマにトライしている。気軽に相談できる貴重な相手だ。



今回のCMでケーキのキャラクターは俺達から後輩アイドルに変更になる。

年明けのCMは彼らに引き継いだところを隠しカメラで撮影から始まる。

その前に君想いマカロンのCMも流れる事になる。

最初は、相手役にケーキの彼女って話もあったけど、売れっ子になってしまった彼女の時間を抑えるのはかなり困難だろうって事で却下になってしまった。

なので、しばらくは女の子の固定採用はなしになっている。初回は同時期に新作シリーズ発表になるパンのCMに出るアイドルをワンカット採用になった。よく見ないと分からない程度だけどね。

暫くは女の子役は声だけのシーンが多いから、若手声優さんの起用でいいかなって思っている。教室のシーンは、共学を前提にしているので、エキストラで学生さんも必要になってくる。それは、事務所の女の子にオファーをかければ問題はないはずだ。

うちの事務所はモデルでも多少の演技指導をしているからCMオファーは結構くるらしい。



スマホを取り出して、今日の打ち合わせの時間の確認をする。

集合時間の時間が午後に変更になっている。結果的に午前中がオフになった。

昨日、ゆっくりとお風呂に入ったけれども、もう少し入りたい様な気がする。

確認事項を見ながら、俺はお風呂のスイッチを入れた。

湯船にお湯が溜まるまで、新聞を読む事にした。特に取りたてて事件らしいものもない。

全体的に年末進行という事なのだろう。お湯が晴れたと音声メッセージが流れたので俺は浴室に向かって歩き出した。

浴室で聞くプレイヤーを設定して湯船につかる。CMで使うであろう楽曲がランダムに流れている。ゆっくりと半身浴で体を温める。今日浴室に持ち込んでいるのは、今までの資料が入ったファイルだ。ドラマの時は台本が入っていたりする。

リラックス効果のあるバスソルトのハーブの香りが心地良い。

頭を空っぽにして、ゆっくりと曲に耳を傾ける。そしてゆっくりと目を閉じた。

好きと言えないもどかしさ、揺れている心。もっと見ていたいのに、見れない。

ジレジレと恋焦がれていく光景が浮かんでは消えていく。女の子なら小指に歯を立てる仕種も可愛いだろう。けれども、俺がそんなことをしても可愛いわけがない。唇と噛み締める位しか表現ができないな。

俺らしく、CMキャラクターらしく恋焦がれて切なくなるにはどうしたいいのか……それが今の俺の課題なのかもしれない。この表現はいずれそう言うシーンになった時までに結論づければいい訳で今スグに欲しい答えではない。

何気なく、最近話題になっているCMソングも入っていた事に気がつく。大御所と呼ばれるシンガーが歌っているモノを女性歌手がカバーしたもの。アコースティックなメロディーラインが更にセンチメンタルな効果を生み出している。

いつかは、俺の曲はコレってモノができるのだろうか?ユニットだからユニットソングの定番見たくなるのだろうか?まだ分からない未来が少しだけ楽しくなって体が温まった俺は風呂から出る事にした。


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