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Can you keep a secret? 1

「夏海、そんなに緊張しなくてもいいのよ」

「そうは言っても……無理です」

「全てが社会勉強だよ。自分のペースで受け入れていこうね」

「はい……楓太君」

「本当にふうに懐いているわね」

食堂でガチガチになっている夏海ちゃんを励ましている。

今、この場にいるメンツで一番会っている時間長いのは俺だろう。しかたないじゃないか。

次に懐かれているのは、親戚だから社長だろう。里美さんは分かっていながらいじっている。

「そのうち、里美さんにも懐きますよ。ピュアな子なんですから、癒されますよ」

「「えっ?」」

俺が何気なく答えた事に二人が同時に反応する。

「だって、この仕事をしていたら、一般の女の子と接するなんてほとんどないですよ。自分の心が洗われる様なそんな感じです」

「私は逆に仕事柄、一般の女の事も接するけど、かなり礼儀正しく躾けられているわね」

「そうでしょうか?」

「若干、大人と過ごす時間が多いからじゃないですか?なっちゃんは、自分のデビューの経緯を覚えておいた方がいいよ。事実をそのままには言えないでしょう?」

俺はやんわりと、現実に引き戻す。俺達のテーブルを興味深そうに見ている事務所の人達。

気持ちは分かるけど、あまりにもあからさまなので呆れてしまう。

「そうね。次の打ち合わせでは聞かれる事もあるからね。それと事務所の中とはいえ、個人情報の部分は気をつけましょうね」

「はい。分かりました」

「本当、この子って癒されるわ。私暫くは一緒に現場に行くわ」

「里美さん、現場に行くのはいいですが、現役復帰は社長と相談して下さいね」

「もう仕事は原則的にやらないわよ。アレ以外は」

「アレ……ですか。まあ、仲良き事は美しきかなってことで良しとしますよ」

アレ……樹絡みの仕事だけ受けるということか。それはそれで仕方ないだろうな。

あいつのあの表情を引き出せる人は里美ちゃんだけな訳だしね。

なにより、樹がそう言う仕事はマネージャーを恋人役じゃないとやらないって言っているし。仕事を恋人と会う時間に上書きしているんじゃなかろうか?

「今回期間限定で先輩がCMを務めてくれてかなり好評だから、あなた達もCMは継続するけれども、今までよりは露出は減らしていくから」

「僕はいいですよ。他のがありますから」

「他のメンバーもそれなりに仕事は入っているからね」

俺らは本日の日替わりランチを食べている。メインはオムライスで、サラダとミニグラタンがついている。塩分控えめの優しい味なので事務所にいるときは大抵ここで食事を済ませている。



「里美!この可愛い女の子は新人ちゃん?」

里美さんの隣のテーブルに滑り込むようにして、俺も良く見知った人がやってきた。

モデルをメイン仕事をしている真澄さんだ。里美さんのモデル時代の同期の一人。

「真澄。ちゃんと食事しているの?」

「していますよ。それが私の仕事の源だもの」

真澄さんはそう言うと、美味しそうにサラダを頬張る。

「真澄さん、そろそろ代謝量が減ってきているお年頃ですから、そのランチを全部食べてしまうのはどうかと思いますよ。コーヒーの砂糖の量も控えて下さいね」

「……出た。お小言魔人。食事の時位静かにしなさいよ」

「真澄。楓太の言う事もあながち間違っていないわよ。この子は新人だけども、活動方向をまだ決めていないの。だから暫く私の側に置いて何がいいか決めてから本格的に活動していくのよ。ナツミ、ご挨拶は?」

「初めまして。ナツミと言います。よろしくお願いします」

「そうそう。その調子よ。ねっ?いい子でしょう?」

里美さんが目を輝かせている。こういう時は自分なりにプランを決めているって感じだ。

そんな時は、里美さんに任せてしまうのが一番賢い。

「そうね、少し大人びているから、年齢より少し上に見えるメイクをさせてみたいわね」

「でしょう?服は?」

「逆に、アメカジであっちの高校生風にするのもいいね。ギャル服は一部に取り入れる程度の方が、この子の個性が出ると思うの」

「アドバイスありがとう。歌えるの?」

「私は……アイドル志望では決してないので」

「この子、こう見えてもピアノのジュニアコンクールの入賞の常連者よ。音楽関係はそれなりにこなせると思うわよ」

「ふうん、新人モデルでも行けると思ったのに。残念」

「一つに絞らないでこの子の受け入れられるペースで仕事を入れていくの。それに契約したばかりだから。今は社会科見学みたいなものよ」

「成程ね。困った事があったら、お姉さんに相談しなさい。そこの五月蠅い坊主よりは相談しやすいかもしれないわよ」

「真澄さん、僕は誰かれ問わず五月蠅くはしていませんが?何か言いたい事でもおありですか?」

「あぁ、こわっ」

真澄さんは、俺の発言に怖がりながら、ランチを食べ始めた。



「……ご馳走様でした」

「食べきれなかったんだ。どうしようか?ドギーバッグ作って貰おうか?」

「ドギーバッグ?」

夏海ちゃんがきょとんとしている。これは習慣としてあるかどうかだからね。

「次の打ち合わせで、歌とか入ったらお腹が空くからね。残っている分を持ち帰れる様にして貰うわね」

里美さんはそう言って、夏海ちゃんのランチプレートを持って食堂のおばちゃんにお願いしに行った。

「凄いですね。持ち帰れるって?」

「仕事柄、一日に何回も分けて食べる人もいるからね。俺もスケジュールによってはそうしているよ」

「僕も食堂にお弁当箱置いているから、ナツミも置いておいたら?今度はスープジャーを置いて貰おうかな。寒くなるし」

「楓太、それガテン系のおじさんみたいよ」

「やっぱり、冬は暖かいお弁当がいいじゃん。事務所に寄る時はお弁当にして貰う事の方が多くなりましたよ。ロケ弁も悪くないんですけどね」

体が資本な仕事だから、一番気をかけたくなるのはどうしても食事になってしまう。

誰が最初か分からないけど、事務所に寄ってから現場に行く時にお弁当箱にランチを入れて貰う様にしている。そうすると、多少は暖かいし、野菜もロケ弁とかよりは食べられるような気がするから。

メンバーの中では俺しか実行していないけど、モデルさん達は結構実行しているようだ。それと、食いしん坊担当の先輩も俺のお弁当箱を見て真似しているらしい。

でも、先輩はしっかりとロケ弁も食べている。けれども、体細いんだよな。

あの食事は一体どこに消えているんだろう?

「へえ、私もお弁当箱欲しいかも」

「そう?だったら今日の仕事が終わったら、私の行きつけの雑貨屋さんで買っていきましょう。ふうもいいでしょう?スープジャーがあるか聞いてあげるわ」

「ありがとうございます」

里美さんのかつてのモデル仲間で今は雑貨を営んでいる人がいる。俺達もオフの時はこっそりと覗かせて貰っている。引っ越しのインテリアで相談したいから、今度のオフに行って相談してみようかな。

「あの人にイメージで頼むとその通りの雑貨をそろえてくれるので助かるんですよ」

「でしょうね。あの子、インテリア系の資格持っているし、設計の図面も引けたはずよ」

「えっ?建築系の学校を出たんですか?」

「そう、この業界には珍しい理系女子。現場実習でヘルメット被ってたわよ」

いつもは、おっとりとして朗らかなオーナーさんの意外な一面を見た気がする。

「まあ、あの子はいずれは実家を継ぐだろうから今はいいんじゃない?」

里美さんは、ちょっとだけ遠い目をする。その日が来るのが近いのだろうか?

「実家ですか。俺の周囲ではよくある話ですね」

「あの子の家は、建築事務所なの。実家に戻ったら、インテリアコーディネーターに転身よなんて言っているわ。今でもしているくせにね」

「俺もお願いしようと思っているんですけど」

「いいんじゃない。じゃあ、今日はふうも寄るってメールしておくわ」

里美さんはそう言うと、貰ってきたお弁当箱をランチバッグにしまった。


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