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YES-NO 2

「おはようございます」

「おはよう、ふう。制服を何着が来て欲しいんだけど……いい?」

そこには、数着の学生服が並んでいた。

今日の仕事はスチール撮影。その後に夏海ちゃんを連れて音楽スタジオに行く事になっている。

「かなりたくさんの制服がありますね」

「そりゃ、まあね。ふうの制服のイメージあったものを最初に取って見て?」

僕は言われるままに、紺色の学生服を手に取った。

「それね。次に着たいのはどれ?」

たくさんある制服をみて少し悩んだ僕はチャコールグレーの上着のスーツタイプを選んだ。

「まずは、一着ずつ着てみてくれる?バランスを考えて決めるから」

「はい」

僕は学生服を手に取ってパーテーションの奥に入る。

中学生の時は黒い学生服だった。今の学校には制服はあるけれども着用義務はない。

着替え終わった僕はスタッフさんの元に戻った。

「ふう、背景はこんなところなんだけども……選んだ制服でどっちがいいと思う?」

高山さんに見せられた背景は、教室の後ろが映っていた。セピア調のスチールを考えているのだろうか?だったら……今来ている制服の方がいいかなって僕は思う。

「今、着用しているのでしょうね」

「俺もそう思う。それじゃあ、あのラフのままの設定でいいからサクッと終わらせよう」

僕の手に、初回で販売予定のマカロンが渡される。

白・ベージュ・レモンイエロー・ピンク・オレンジ・緑……味は、バニラ・ミルクティー・レモン・ラズベリー・マンゴー・抹茶ミルクに決まった。

決まったマカロンを一つずつ手に取って大事そうに両手で包み込んで愛おしそうに見つめたり、唇を寄せたりと一通りの動作を繰り返した。

「お疲れ様でした」

約1時間で撮影は終了。撮影は午前中を予定していたので2時間位時間が開いている。

「ふう、CMの打ち合わせをさせて貰ってもいいかい?」

「いいですよ」

僕達は、撮影スタジオの片隅で打ち合わせを始めることにした。



「最初の女の子の役は、スタッフがかつらを被って対応する予定だったんだけども……急遽女優さんと共演になったから」

「はあ、女優さんですか」

「去年、初恋ショコラでマコちゃんと共演したでしょう?今度、マコちゃんにパンのCMをお願いすることになってね。その都合で初回だけ共演して貰うんだ。マコちゃんは一瞬だけ振りかえって帰るって設定。ふうの視線のCM撮りだから良く見てないと分からないように配慮はするよ。事務所が違うからね」

「分かりました。収録は別ですね」

「そう言う事。マコちゃんが加わった事についてはふうは知らなかったって事でよろしくね」

「別にいいですが、僕の方も何かあるんですか?」

「ふうは何もしない。コンビニが君想いマカロンのスチールだらけの店内での撮影なだけだから」

「そうですか。彼女に迷惑がかからないといいんですが」

「分かっているよ。一応、ごり押しで決まった事だけどもよろしくね」

「分かりました。それでは、一度事務所に戻ります。午後は音楽スタジオですよね?その時に今回のCMのサポートをお願いする人を連れて行きます」

「太田さんから話は聞いているよ。ピアニストの卵だって?本当にふうの事務所のタレントさんは多彩だね」

「あははは……それはどうなんでしょう?では午後にまた」

僕は撮影スタジオを後にした。そのまま事務所に向かう。



事務所に着いた僕は真っすぐレッスンルームに向かう。

レッスンルームに近付くと、ピアノの音が聞こえてきた。

どうやら自習練習をしていたようだ。

「おはよう、夏海ちゃん」

「おっ、おはようございます。楓太さん」

「楓太さんはおかしいから、楓太君でいいよ。レッサ―パンダみたいだけど」

「分かりました。楓太君」

「良くできました。自主トレ?」

「はい、先生も朝学校に来る前に寄ってくれるようにしてくれたんです」

僕にはにかみながらも夏海ちゃんは答えてくれる。

「それでは、お嬢様?お茶の時間にしませんか?おやつも貰えた事ですし」

僕は頂いたマカロンを紙袋で転がす。

「分かりました。里美さん呼んできますか?」

「そうだね。今日は同伴してくれるはずだから」

僕はレッスンルームの電話を使って、里美さんのデスクに内線をかけて、こちらに来て貰う様に頼んだ。

「何?ふう?あらっ、マカロン?」

「はい、今日はスチールの日だったので、思った割に早く終わったのでスタッフさん皆で製品サンプルを分けて持ち帰ったんです」

「社外秘だよね?」

「もちろん。食べきれる量を貰ったんです。きっと午後も貰えますよ」

「今回のスイーツはマカロンね。初恋ショコラのようにコンビニパニックなんて事になってしまうのかしら?」

「今回はそうならないように、チルド品ではないんです。お菓子の陳列の側に配置するそうですよ」

「そうなのね。なら日持ちがするから工場もパニックにはならないわね」

「えっ?初恋ショコラってそんなに大変だったんですか?」

僕らの会話に夏海ちゃんが不思議そうに聞いてきた。

去年グループでCMをした初恋ショコラはOLさんをターゲットに発売したはずだったのに、実際には女子中高生を中心とした女性に受け入れられた形になった。

今でも発売中のそれは、今度デビューが決まっている後輩アイドルと先輩アイドルがCMをしている。

期間限定のはずだったそれは、今ではコンビニの主力製品になってしまったそうだ。

「夏海ちゃんが今回担当するのは、CMソングのピアノ伴奏。これが決まるとふうがCMを撮っている間は継続されると思ってね」

「今回は初恋でいいんですか?」

「うん、それでいいよ。後はこないだのリストの通りで大丈夫」

「ピアノ用の楽譜は全て取り揃えたので目は通しました」

「あらっ、こっちが楽譜渡したのは一昨日よ。もう大丈夫なの?」

「完璧とまでは言えませんけど、楓太君の足を引っ張らない程度には」

「本当に楽器が弾ける子は羨ましいこと。ふう、例の個人レッスンはどうにかなりそうだから、年明けから定期的にレッスンを入れるように調整ついたわよ」

「ありがとうございます。ピアノの方は、夏海ちゃんにレッスンをお願いしてもいいですか?」

「それも聞いているからそうしたわ。CMでナツミが売れると難しいかもしれないけど」

「そうしたら、ピアノだけ前撮りして貰えるように頼んでみましょう」

「そうね。それで問題はないでしょう」

「ピアノって何ですか?」

全く話が分からない事が話されている夏海ちゃんは困ってしまったようだ。



「ごめんね。これは僕の4月からのドラマの仕事で、クラシックピアノを少しだけ弾くんだ。毎回違う曲を引く事を要求されているからその練習パートナーにナツミをお願いしたってことなんだ」

「私でいいんですか?」

「プロのピアニストに頼む予算がないんだ。アマチュアで芸能活動を始めたばかりの君だからお願いしたいんだ。それに僕だって、収録の場ではちゃんと演奏する予定だよ。スケジュール的に難しくなった時に代役でお願いするかもしれないけど」

「そういうことですね。分かりました。曲目リストが分かった時点で教えて下さい」

「そう言う事で、里美さんお願いしますね」

「はいはい。来年のふうは一気に忙しくなるわね」

「そうですね。今まではメンバー以外の仕事は抑えて学業に専念していましたから」

「そうね。今度は大学でしょう?大丈夫なの?」

「教養を深める程度なので問題ないと思いますよ」

「でも、通信制高校を3年で卒業するのは大変でしょう?あの子達は後1年通うんだから」

「仕方ないですよ。皆と僕では若干違いますから」

「そうね、そうだったわ?」

「楓太君?」

「ナツミは僕の実家を知っているだろ?その都合で皆の様にソロでみっちりと仕事しなかったんだ。樹は元から子役で活動していた分最初から忙しかったしね」

「ふう、いいの?」

「この子は、僕の弟子ですから。ねっ?なっちゃん?」

「はい、いろいろあって、教室で教えて貰うんです」

「成程。社長がふうの側に置いた理由が分かったわ。私と澤田が知っていればいいのね」

「ええ。そう言う事でお願いします」

里美さんにはいろいろとお世話になるので、僕らの関係をさらっと明かす事にした。

「ナツミの家は……どこなの?」

「今は、いろいろあって楓太君の隣の家にいます。4月からは社長のお宅で暮らします」

「成程。で、同時期にふうも引っ越すと」

「僕の場合は親から最初から言われていましたから。一度は家を出て自活するようにって」

ふうんと言って、里美さんは意味深で僕を見ている。

家の話は単なる偶然だ。どこにも疚しい所なんてない。

「偶然ですよ。腹黒い事をする訳じゃないですか」

「まあ、そう言う事にしましょう。このまま午後の打ち合わせを簡単にするわよ」

そう言って、お茶を飲みながら僕達は午後の打ち合わせを始めたのだった


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