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歌うたいのバラッド 2

打ち合わせが終わって自宅に戻ろうとした時に、スマホの着信音が鳴る。画面を見ると事務所からの電話だ。

「はい、どうかしました?」

「楓太?お疲れ様。早速いいかしら?」

電話をくれたのは、事務所で待機がメインの里美さんだ。

「構いませんよ。何かありましたか?」

「えっと、事務所に寄って欲しいんだけども……いいかしら?」

「はい、分かりました」

「今度ね、新人の音楽家の卵のマネジメントするんですって」

「はあ、そうですか」

新人の音楽家の卵のマネジメント……ですか。

僕達の事務所は、まれに音楽家のマネジメントもしている。でもそれは日本に帰国した際のバラエティー番組等のセッティングとかトークショーの管理とコンサートの事務局位。

大抵はレコード会社が行う事がらしいけど、僕らの事務所の関連会社には制作会社もあるから社長の知り合いの音楽家数人が契約している。

音楽家の卵ってことだから、まだ10代なのだろう。それでもマネジメントを契約したって事は、アイドル性があるということか。

僕は事務所に行く為に、タクシーを捕まえて事務所に向かう。



「すみません。遅くなりました」

「ごめんね。楓太。社長室に行って貰ってもいい?」

「はい、分かりました」

僕は事務所に入る早々、里美さんに社長室に行くように言われた。

皆そうだろうけど、社長室に入るにはかなりの勇気が必要になってくる。

今でも緊張してしまう状況ではある。

僕は社長室のドアをノックする。

「楓太です。遅くなりました」

「入りなさい」

僕はゆっくりと社長室に入って行った。そこにいたのは、社長と僕にとっては最近よく一緒に行動している……ピアノ教室の先生と夏海ちゃんだった。

「とりあえず、座りなさい。今度マネジメント契約をすることにしたナツミだ。ナツミ、彼は知っているよね?」

「はい、楓太さんですね。始めまして、ナツミと申します」

僕は社長から彼女の今までの経歴を見せて貰う。

僕が感じていた通りに、彼女の能力は高くて、海外で活動も視野に入っているのだろうかと思えてしまうものだ。

市民オーケストラとの共演。著名なピアニストのゲスト演者として共演というのが年に数度行っている。

「君は、やっぱり凄い才能の持ち主なんだね。ナツミちゃん」

僕は、思わず本音を言ってしまう。まずい、俺……まだ楓太が雅な事言ってないぞ。

「えっ?」

「楓太?お前まだ言っていないのか?だったらこの場で説明したらどうだ?」

社長に促されて、僕はウィッグを外して、カラコンを外す。

雅としての僕の姿を見て、ナツミは呆気に取られていた。



「えっ……雅さん?やっぱり楓太さんだったんですね」

「ナツミはやっぱりそう思っていたんだ」

「そうですね。でも話をする時のトーンとか違うのでもしかしたら……って思ったんです」

先生と社長は僕達を見て、微笑んでいた。

「今までの彼女の経緯を聞いていて、現状を聞いたら暫く学校に行くってのは考えることはないと思ってな。彼女の音楽の幅を広げてみたらどうだろうと思って契約したんだ」

……成程。そう言う事ですか。彼女と先生が行動を共にしている分には問題はない。

そして、僕にとっても後輩に当たるから僕がお世話をしていても表向き問題はなくなる。

「楓太の実家は知っているね?」

「はい」

「そっちとの都合で、雅としてデビューが出来なくて楓太だけが芸名なんだ。なので、そこのところの使い分けを君にもお願いするから」

「ごめんね。僕の口から言いたかったけど、そういう大人の事情があってね。実家の門下でもお堅い人は今でも僕の仕事を快く思っていないからね」

「分かりました。私も注意します。私はこれからどうしたらいいんでしょうか?」

「そうだね、楓太の新しいCM撮りの時のCMソングのお手伝いして貰おうかと思ってね」

社長は、ついさっきの打ち合わせで決まった事が正式な書面になったものを見せてくれた。

「ふうは、既に調整してあるだろ?」

「はい、今度はCMの撮影が先ですね」

「そこにナツミを連れて行って、今回のピアニストとして参加させるように。先方にはもうナツミの経歴は送付済みだ」

「えっ、私一緒に行くんですか?」

「そうだよ。ロケ地は学校だから、音楽室のピアノで君の腕前は披露できるだろう?それにふうとは知らない相手ではないから気楽に望んでいいんだよ」

社長は柔らかく微笑んでナツミを見ている。多分当日は先生も同伴なのだろう。

「分かりました。頑張ります。でも、私の今の姿のままだと……」

「夏海、ここは元モデル事務所よ。外見なんてあっという間に別人よ」

先生はあっけらかんとして言う。そういえば、この人が音楽家としての最初の契約者って聞いた事がある。社長とはどういう関係なのだろう?

「あの、社長と先生って……どういうお知り合いなんですか?」

「この人?旦那の兄。だから夏海とも一応親戚なのよ」

「一応親戚って失礼だな。彼女の両親も家に籠っているのは良くないから勉強に支障の内容に活動するのならいいという条件付きだがな。ずっと口説いていたのがようやく身になった訳だ」

ずっと口説いていたんですか。社長は決めた事は諦めないタイプだから親御さんは大変だっただろう。



「学校はどうするんだい?」

「今年度は今のままだろうな。新年度から俺の家に住ませる。ふうは家を出る予定だろ?」

俺の方も、高校を出たら暫くは自宅から出て一人暮らしをするようにと言われている。

多分、事務所の近くの部屋を借りる様になるのだろう。今の俺が事務所寮に入る訳にはいかない。

「とりあえず、防音効果のしっかりした物件を探します」

「防音……ピアノ可・子供可・ペット可って当たりで探してやろうか?」

「あるんですか?そんな部屋?」

「あるぞ。俺の家の下。丁度2LDKが春に空く予定だぞ」

社長の家の真下か。事務所の寮にいるのとほとんど変わらない。探す手間が省けるから決めてしまおうか。

「それじゃあ、お願いします。契約書は後日下さい」

「お前は本当に即決だな。いいのか?」

「別に。僕はいつも通りの生活をするだけですから社長の家の下ってことは、マンションの住民は基本的に関係者でしょう。いろんな意味で気楽です」

「お前らしいや。この話はこれで終わりな」

社長は手帳に部屋の事を書き込んだ。

「それじゃあ、ふうからCMソングになりそうな候補を絞って二人で練習しておいてくれよ。これで打ち合わせはお終い。二人が知り合いなのは、澤田と里美は知っているから。メンバーには話す必要性はないぞ」

最後に釘を刺されて、社長の話は終わった。



社長室を出た後、僕らは先生の車に乗って自宅に戻った。夏海ちゃんは僕の家の隣に春まで住みこむことになったとか。

「もう、自宅を出るだけで視線が痛くって」

それだけ噂が噂を広げているのか。同じ学区でも僕らの住んでいる当たりはいわゆる中学生が少ないので暫くは問題ないだろう。

公立校なので、ある程度出席がしっかりしていれば芸能活動は問題ないだろう。

「先生、学校は?」

「毎日、朝に課題の回収と新しい課題を下さるって。その提出で登校を認めてくれることになったわ」

先生は苦々しく言っているけど、それが解決策だと言われるとあんまりだなと思う。

夏海ちゃんの社会とのかかわり方が僕らと同じ方向に向いた事が意外でもう少しだけ話を知りたかった。


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