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初恋2

「音楽室の許可も取ってあるよね?」

「あったと思いますけど……」

 僕らは音楽室を開けて奥に入り込む。ベランダからはグラウンドが一望できる。

 グラウンドでは陸上部がランニングをしていて、サッカー部が練習をしている。

「ふうん、ここから撮影してみようか。丁度夕方っぽくなったし」

 カメラマンは、撮影の支度を始める。僕はのんびりと外を眺めた。

 部活の時は、椅子を持って良くベランダで練習をしていた。

 基本的にはトランペットを演奏していたが、編成によってはピアノも弾いたし、アルトサックスを吹く事もあった。

「楽器を持ってきたら良かったかな」

「えっ?ふうちゃん楽器……そうか、吹奏楽部なら吹けるよね。実家って近いの?」

「まあ、それなりにですが。それ以前に、自宅に誰かいればですけど」

「ちょっと聞いて貰ってもいいかい?確かPVでサックス吹いていたよね?」

「楽器は持っていますから、サックスもトランペットもありますよ。ピアノも多少は弾けますけど」

「ふうちゃんって、実は何でもそつなくこなすタイプ?」

 アシスタントさんに聞かれる。そう見えるだけだよ。僕なりに努力しているよ。

「まさか。ピアノは幼稚園からやっていたし、トランペットは小学校のブラスバンド部からだし、サックスは中学に入ってからですよ。指が分かればクラリネットも音は出せると思いますよ」

 実家の隣はピアノ教室だ。かなり厳しい先生けれど、優しい先生だ。

 今は指慣らし程度にオフの時に個人レッスンをして貰っている。


 スマホで家族に楽器を持って来られる人がいるか確認する。暫くすると、母から着信があった。

「雅?楽器がいるの?」

「うん、撮影で使ってみようかって話になって。中学まで届けてくれる?」

「いいわよ。どこに届ければいいの?」

「音楽室。それじゃあよろしく」

 簡単な連絡事項程度の通話で着信が切れた。後10分もすれば届くだろう。

「後10分で届きますよ。それまではどうしましょうか?」

「うーん、ベランダから外を見るシーンを撮影しちゃおうか。やりたいようにやっていいよ」

 やりたいようにね……それが一番難しいんだよ。

 当時の彼女とこうやってベランダで一緒に眺めた事もないし……。

 ふと頭の中に村下孝蔵の『初恋』を思い出した。

 あのサビの部分なら、今見える光景そのままだ。グラウンドでは走っている人がいるし。

 僕はカメラマンを一瞥してから、初恋を歌い出す。とりあえず一番位でいいか。

「初恋って言うと、僕はこの曲を思い出すんだ。本人が活躍していた時って僕はまだ小さかったんだけど、母が好きで良く歌ってくれたし、音楽としても良く聞いた。それに、ねえ、グラウンドでは陸上部が走っているし……まさに初恋の歌詞の世界だね」

 そう言って、僕はにっこりとほほ笑む。


「はい、カット。ふうちゃん、樹君よりも歌がうまい?」

「まさか。僕は絶対音感があるだけです。歌う事になると樹の方が確実に上ですよ」

 児童合唱団で基礎をしっかりとやってきた樹と僕が同等であるわけがない。

 樹はバリトンで僕はテナー位の音域が楽なので得意な楽曲は変わってくる。

 カメラマンは取った映像をチェックする。

「今のシーンはこのまま使おうか。次は……それじゃあ、何かピアノ弾いて貰ってもいいかい?」

 今度はピアノ……ですか?最近、あんまり練習していないんだよね。

 音楽室のグランドピアノの蓋を開ける。椅子の高さを調節して……指慣らしに何を弾けばいいのだろうか?

 暫く考えた挙句僕は、愛の夢を奏で始める。最近フィギアスケーターが使っている楽曲なので聞いた事はあるだろう。

 少しテンポが崩れてしまったけれども、無難に弾けた気がする。

「愛の夢。この曲は知っている人は多いよね。僕は愛する人と穏やかに過ごす所をイメージしたけれども、皆はどんな愛の夢を見るのかな?」


「はい、カット。ふうちゃん、アイドルのDVDと言うよりもPVに近いものになりそうだよ」

「それは最大の褒め言葉にしておきますね。このシリーズって樹が体育館で今度の舞台の自主トレで、昌喜がシルバークレイに挑戦。双子はバスケ対決でしょ?見事にカラーが出ていますね」

「さすが、ビビッドだよね。メンバーで喧嘩するの?」

「ないですよ。僕の苦手な事を他のメンバーが出来るのは尊敬に値しますよ」

 そんな事をスタッフと話していた時に、音楽室の扉が開いた。


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