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YELL 2

「おはようございます。雅さん」

「おはよう、夏海ちゃん。今日は正門にタッチで帰ろうね。久しぶりの制服はどうだい?」

「どうって言われても……」

彼女は言葉を濁す。自宅で何かあったのだろうか?

「大丈夫だよ。中学生に見えるよ。それじゃあ行きましょうか?」

僕達は学校に向かって歩き出した。

あの後、光から聞いた事を先生に報告した。話し合った結果、僕達は今日は校門まで行くことにして。校内には入る事を辞めた。

光が聞いてきたことに対して学校が対処しているのか、何もしていないのかでは、話がまったく変わってくる。

先生の方は、夏海ちゃんが学校に行って戻ってきてから、夏海ちゃんの保護者が学校に行って今後の対応をきちんと話し合うと決めたそうだ。

学校の方も何もしていないわけではない。放課後にスクールカウンセラーは訪問しているらしいのだが、同級生は一度も自宅を訪れていないそうだ。

夏海ちゃんはそこにも心を痛ませているのだろう。それを癒してあげることは僕でもできるかもしれない。けれども向き合わせることは僕の仕事ではない。

それは保護者であり、学校であるべきだ。



「夏海ちゃん、歩くの早いかい?」

僕は隣を歩く夏海ちゃんに聞いてみる。

「そんなことないですよ。いつもは時間ぎりぎりだったので走っていることが多かったので。ちょっとだけ新鮮ですよ」

「良かった。女の子と歩くことがほとんどないからね。歩くことは好きなんだけども」

そう答えて、夏海ちゃんに微笑む。

「雅さん、その笑顔反則です」

「そうなの?そんなつもりじゃないんだけどな」

「勘違いしちゃう女の子いっぱいいますよ」

「それは困るから、今度は気を付けようかな……クスクス」

笑顔が反則って言われても仕方ないじゃないか。

好意を持っている女の子と一緒に道を歩くなんて僕にとっては申し訳ないけどラッキースケベみたいなものなのだから。

素直に喜んでしまえる男心を分かってくれって言うのは無茶ぶりなのは分かっている。

今の彼女は大人になる為の大切な時間。いろんな経験をして素敵は女性になって貰いたい。



「夏海ちゃん。茶道部が辛いのなら僕がオフの時に稽古してあげるよ」

「でも……雅さんだって。大学とかいいんですか?」

「僕?大学は仕事の都合があるから、通信制の大学だからそんなに忙しくないよ。それに僕ががむしゃらに仕事しているように見える?」

メンバーの中では比較的マイペースに仕事をしているほうだ。

選んでいる訳ではないけれども、長寿番組のアシスタントボーイ的なポジションが多い。

メンバーが個々の仕事はかなりバラエティーに富んでいる。樹と昌喜は演技をするのがメインな仕事が多い。特に樹は舞台に積極的に取り組んでいる。

子役時代に、助演男優賞を取っただけあるので、基礎はしっかりしているからメンバーでは一番仕事が多いのは確かだ。

昌喜の方は、人懐っこいキャラクターで青春ドラマの主人公の友人の役がよく回ってくる。

不思議な話で、恋愛ドラマのオファーはあっても、いわゆるいい人の役が多い。

今の昌喜はそのキャラクターをチェンジしたくて頑張っているところ。

双子は、元々タレント志望だったので、トーク番組とかクイズ番組を中心に活動している。

二人でって仕事がいいってしている分、レギュラーは少ないけど、ゴールデンにしっかり出ているので効率はいいだろう。番組改編期には僕らのグループもだけども、二人のオファーはかなりあるって澤田さんが言っていた。



「雅さんって、楓太さんに似ていませんか?」

「そうかな?どんな所が?」

急に夏海ちゃんに聞かれて僕は内心焦っていた。

まだ僕の正体を彼女に知らせるには早いからだ。

「何となく……。声とかは違うんですけどね。そうやって微笑んでいるところが」

やっぱり女の子は見ているなあと思って感心する。

「似ている人は3人いるって言うからね。偶然だと思うよ」

「そうなんだ」

「それって、残念なの?」

ちょっと残念そうな、夏海ちゃんに僕は問いかける。それは僕の事を男として見てくれるってことなのだろうか?

「残念と言えば残念ですけど、ちょっとだけ嬉しいです」

「ん?何?それ?」

「こんな側にアイドルさんがいるなんて驚きです。楓太さん、高校生ですよね。お仕事をしているせいかしっかりしているからそうなのかなって。違うのなら、こんなに素敵なお兄さんを一人占めできるなんてラッキーってところです」

夏海ちゃんの本音にホッとするのと同時にがっかりする。

同じピアノ教室に通う、年上のお兄ちゃんというのが、本音なのだろう。

僕が楓太である事を明かしたらどうなるのだろう?僕から離れていくのだろうか?それとも僕の正体を周囲に漏らしてしまうのだろうか?

不安が僕の心を一気に襲いかかる時に、スマホの着信が鳴り響いた。

聞き慣れた着信音は、澤田さんの通話を示すものだった。


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