何度でも 1
今日はちょっと短くて申し訳ありません。
リビングに移動した僕達は、早速休んでいて遅れているはずの勉強を始める。
あまりお利口じゃないって言っていた夏海ちゃんは、自分なりに勉強をしていた。
どんな形であれ、学校に戻りたいって意思はそれだけでも分かる。
それに学校のノートも凄く分かりやすく取られている。これなら学年でトップグループにいるはずだ。学校内の彼女を生活・性格を調べた方が早いかもしれない。
「それじゃあ、夏海ちゃん。今教えた問題と同じレベルの問題を解いていてくれる?」
「はい、分かりました」
「僕はちょっと電話をかけたいところがあるから、もし終わったら……応用問題を融けたら解いてごらん?」
僕はそう告げると、リビングからダイニングに移動する。
「雅?」
「ちょっと気になったらから、僕なりに調べさせて貰うよ」
「えっ?」
「僕は卒業生だからね。忘れてない?」
僕は手早くスマホを操作して、中学校に電話をする。最初に出るのは事務の人。目的の人物が今の時間授業がないのは知っている。案の定、すぐに取り次いで貰えた。
「おぉ、雅元気か?」
「それなりです。早速何ですが、調べて貰いたい事が」
「内容によるけど、言ってみろ」
「夏海ちゃんの事です。先生1年生の学年主任だから、概要でいいから話して下さい」
「お前はどこまで知っている?」
「僕は多分事件の会った日の放課後に彼女に会ったのと、知人を通じて彼女のサポートを開いている時間でする程度です。あの日に何が会ったんですか?」
「悪い……その話は今、ここで話せないから。放課後お前の家の側のあの店に行く」
「いいですよ。学校を出る時連絡下さい。夏海ちゃんが見ても平気なように登録名を一時的に替えますよ」
「ああ、済まないな。夏海は元気か?」
「僕達の前ではですね。今の学校にはもう行きたくないそうです。そこの原因が先生にあるのが、生徒にあるのか……それだけでも知りたいんです」
「分かったよ。お前も頑固だからな。それじゃあ放課後に頼むな」
「ええ、それでは。また」
僕は通話を切った。多分かつての僕の担任は、今は彼女の担任の可能性は高い。
彼女の事をとにかく気にしていたからだ。あの態度からすると、彼女が被害者な事は確実に分かった。今はそれだけでも十分だ。
「雅……どうだった?」
「明日には分かりますよ。現場の本音が。夏海ちゃんをどうしたいのかも」
「雅はどう考える?」
「被害者ですからね。普通は守るべきなんですが、尾びれ背びれがついたものまでは学校には対処しきれません。親御さんにはそこを突いて貰うのがいいかと思います。」
「それは、誰を相手に?」
「保護者と校長先生に対してでしょう。少額訴訟をしてもらってもいいんですよ。夏海ちゃんが完全に被害者であるって認定が取れればいいんですから」
「転校は、自宅から通える範囲で親戚がいて、学区が変わるのであればその方向がいいと思いますよ。無理なら……僕の家でも使いますか?行きたい学校区のお弟子さんに頼んで住民票を移しましょう」
「いいの?」
「新入生ではないし、経緯があるので問題は然程ないはずです。それとも僕が部屋を借りて、そこに移しますか?実際に住まなくてもいいんだから」
「雅……そこまでは」
「でも、僕は働いていますから。そろそろ節税対策を始めてもいい年収になってくるんで、家……というか、マンションを持つ気なんです。これは親たちと話していることなので完全に別件になるのですが」
「でも、雅はどうして夏海を構うの」
先生に聞かれたその一言に僕は答える事が出来なかった。
「どうしてか……な。気になるっていうの?」
「それは私が半ば強制したからじゃない?」
「だから、その前に出会っているじゃないですか」
僕は冷静に先生の言う事を否定する。強要されたからって簡単に引き受ける性格じゃないこと位、この人は分かっているはずなのだ。
なのに、この事を聞いてくるという事は、僕が心の奥に隠そうとしている事を引きずり出そうとしているのかもしれない。
僕が……5歳も年下のこの少女に恋をしつつあるということを。
「だから、気になっているんだ。仕方ないじゃないか。初めて会った時に僕らのスチールを見て、ケーキもキスも嫌いなんて言われたら、嫌でも気になるでしょう?」
隠せないと観念して、僕は本音を明かした。
そうなんだ。僕らビビッドは否定されたけれども、僕個人は否定されていない。
まあ、僕が楓太であることに気が付いていないからだろうけど。
彼女が僕の事を知ったら彼女はどうなるんだろう?
その事だけが今の僕の不安だった。