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初恋1

始めて彼女にあった時を僕たちは互いに覚えていない。

「ふうちゃん、何年振り?母校に来るの?」

「えっと、中学を卒業してからは全くですね。僕は今でも実家にいるんで来ようと思えばいつでも来る事はできますけど……」

 10月上旬のとある公立中学の校内。僕は今、DVDの撮影で卒業以来一度も来ていなかった母校に来ている。

 もちろん、学校の許可も貰ってはいるけれども、僕の撮影シーンは放課後がメインなので他のメンバーよりは撮影開始が遅い……らしい。

推測ではあるが、僕の前に撮影したのが、元気っ子キャラな樹だからだろうか。

あいつの事だから部活で登校していた生徒たちと一緒になってはしゃいだのだろう。

 グループ内での立ち位置は茶道を嗜むちょっと和風でクールなキャラとなっている。

 服装もそれを意識してニットとシャツにスリムジーンズとかスリムなパンツな井出達が多い。

 今日の衣装は、3年ぶりに袖を通す制服。僕が在学中に来ていたのは流石に着られないので学校に置いてあるもので丁度良さそうなものを借りた。

 3年経つのに、妙にしっくりしているのは、制服が学ランなせいだと思いたい。

 僕自身は……3年前よりもたくさんの経験をしているから成長はしているはずだ。そうありたい。


 3年前の今頃、図書館で本を借りた帰りにいきなり社長にスカウトされた。

-君、アイドルとしてデビューしてみない?-

 最初は冗談だと思ったのだが、それから数度となく待ち伏せされて冗談ではない事を知った。その後、家族や親族と話し合った結果……柏木雅としてではなくて、楓太としてアイドルデビューを目指すことになった。

 どうしてこんなことになったのか?それは実家が茶道の家元だからだ。

 プロフィールには実家が茶道教室を営んでいるってことにしている。

 間違っていないよ。教室やっているのは事実だから。流派等は隠している。

 いずれは実家をと思っているけれども、家業の方は免状は既に持っているからアイドルとして賞味期限切れを起こしてからでも問題はないと言われたが、稽古は怠らないようにと灸をすえられている。

 だから、事務所の一角に茶室を作って貰って、事務所内で教室を持っている。

 生徒さんはスタッフとその家族とアイドルの卵達。教養はいくらでも持っていた方がいいという社長の方針だ。他には書道教室・華道教室もある。


 もちろん、アイドルとしてのレッスン……ダンスや歌もあるし、通信制で学校にも通うから学校の勉強の補習授業もあった。そのお陰で、成績は学校でもトップクラスを維持できている。デビュー前の期間にしっかりと単位を取得したので、僕は3年で卒業が出来そうだ。一応、大学への進学を希望していて勉強はしている。志望しているのは、事務所からほど近い私立大学。

 ここには史学科があって、僕はそこに進みたいと思っていた。

「ふうちゃんは、来年卒業?」

「はい、そうです。デビュー前に学業を優先していたので」

「成程ね。それじゃあ大学進学?」

「その予定です。ちゃんと受験勉強はしていますよ」

「ふうん?今日のコンセプトは知っている?」

「もちろんです。僕の初恋のイメージや思い出を語っていくんですよね?」

 僕は今DVDを撮影するカメラマンと一緒に校舎を歩いて撮影ポイントを探している。

 廊下の向こうから、女子……ネクタイのカラーからすると1年生のようだ……が歩いて来る。文化祭は今月末。文化部ならそろそろ忙しくなっていく頃だろうか?

 僕達が通り過ぎた時、慣れ親しんだ香り……抹茶の香りが仄かにした。

「お茶の匂い?」

「僕らの中学には茶道部がありますから、茶道部の子なのでしょうね」

 カメラマンが不思議そうに呟いたので僕は答える。

 中学の頃、僕は吹奏楽部に在籍していた。茶道部にも籍は置いていたけど普段は練習していない。吹奏楽部の忙しくない時に参加する程度だ。いわゆる幽霊部員の一歩手前ってやつだ。

「ふうちゃんは、部活何をやっていたの?」

「僕ですか?吹奏楽部ですよ。結構スパルタなんですよ?筋トレとかもするし」

 アイドルスマイルをしっかりと貼り付けてカメラマンを見る。

「ふうちゃん、今日のそれはダメだよ。無理に笑う事もないから。いいね」

「分かりました」

 僕らは撮影予定の音楽室に向かって歩いて行った。


今回のヒロイン、夏海と会っております。が、すれ違うだけです。

そんな出会いからでもいいかなって。

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