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泣かないで 3

去年に公開したかったのに、寝オチしちゃってました。

いつのも僕なら、その子のそばに寄ってハンカチを差し出した事だろう。

けれどもそんなことが今の僕には出来ずにいた。

女の子は更にこう呟いたからだ。……ケーキも……キスも……もういらないって。

僕らのCMしたケーキのキャッチコピーは『ケーキとぼくのキス、どっちがすき?』だった。

発売開始から爆発的ヒットした製品は、定期的にCMを変えて僕達が今もCMをしている。

アレ以来、メンバー各自の仕事も増えて今までよりは多忙の生活になった。

ファンレターでも、恋が叶ったとか、初恋を思い出しながら食べたとか好意的なコメントが多い。

なのに、今僕の目の前では、どう見ても恋愛的にバッドエンド的な終わり方をしたと思える女の子が悲しげに涙とポツリポツリと零している。

それも、僕らのスチールポスターを見ながら。



さて、どうしようか?まずは声をかけるべきだよな。それとも、何か暖かいものを買って一緒に渡した方がいいのかな?

寒いと心も冷えて更に悲しくなってしまう様な気がしたからだ。

僕の考えが乙女チックだと言われても別にいいよ。僕なりに女の子には優しくすべきだと思っているから。

今の僕の恰好は、ひょっとすると楓太と分かってしまう可能性が高かったからスル―すべきかなとも思った。

変なスキャンダルに何の関係のない彼女を巻き込むのもどうかとも思ったから。

けれども、スチールの前で立ち尽くしている彼女を見ているとそんな事を考えた僕が凄く悪い人に思えたからだ。

僕は、スキャンダルになった時の対応を考えてからコンビニに入った。

まずは、女性用のハンカチを一枚買う。そして、キャラメルを一箱とホットのミルクティーを買った。

現金でモタモタしたくなくって、電子マネーで清算して受け取る。

女性用ハンカチを袋から取り出して、ドリンクは鞄に、キャラメルはコートのポケットに忍ばせた。

そしてゆっくりと近寄ろうとしたら、彼女はゆっくりと歩き出した。



彼女の足取りはゆっくりとしているけれども地をしっかりと歩いているように見える。これなら大丈夫。

僕は彼女の左側に寄れるようにそっと近づく。交差点はラッキーなことに赤を表示していた。

「ねえ?そのままでいると、心も体も冷え切っちゃうよ」

そう言うと、僕はハンカチを差し出した。彼女はびっくりしている。そのせいか一旦涙は止まったようだ。

「ハンカチはそこの店で買ったばっかり。気にしないで使っていいよ」

僕は彼女が怯えないように、柔らかく微笑んでいるつもりだ。

「すみません、見ず知らずの人に……ありがとうございます」

「こんな事言うと乙女チックかもしれないけど、君が悲しみの海でもがいているように見えたから。そのままにしたら溺れちゃいそうだったから」

「そんなこと……ありません」

洟をすすりながら、彼女は小声で答える。実際にはそうじゃないかもしれないけどさ、僕にはそう見えたんだ。

「実際にはそうじゃないかもしれないけど、でも僕にはそう見えたんだ。僕に見つかったのが不幸と思ってちょっと一緒にいてもいいよね?」

僕よりも小さな女の子……コートを来ているから高校生か中学生か分からない。

外はいつ雨が降ってきても分からない位。更に雲がどんよりと低く垂れこめている。

雲よりも彼女の心の方が早く雨が降り出してしまった様なそんな気がした。



やがて、信号が青くなった。

「信号渡るの?」

「はい、お兄さんは?」

「僕も渡るよ。それじゃあ、僕らが別れる所までは一緒にいようか?」

「えっ?でも……」

「弱っている子を僕が一人にする事ができないだけ。隣を一緒に歩くだけ。それ以上は……そんなにしないよ」

「本当に?」

「うん。泣き止んだね。それじゃあ、冷えた心を暖めようか?どうぞ」

僕は鞄からミルクティーのペットボトルを渡す。僕も一緒に買ったカフェオレを取り出す。

「僕も一緒に飲むからさ。だって、寒くない?」

僕は彼女ににっこりとほほ笑んだ。今の僕は一方的な優しさを押しつけている怪しい人そのものだ。

知らない人に警戒心を解かないっていうのは、女の子としては凄くいい事だと思うよ。

「すみません、なんか図々しくて」

「僕がしたいだけ。自己満足みたいなところ?だから気にしないで。この位は甘えでもないから」

彼女はゆっくりとペットボトルを開けて口を付ける。甘いミルクティーが彼女の心を溶かしてくれますようにと祈る。

「あったかい。おいしい」

彼女は一口飲んでから、ポツリと呟く。

「それだけ冷えていたんだよ。家に帰ったら、体を温めないと風邪をひいちゃうからね」

「そうですね。お兄さんは大丈夫ですか?」

「僕も、ちゃんとケアはしているよ。この季節は毎年多忙だから風邪を引いたからって休めないからね」

デビュー前は、年末に一度酷い風邪をひいたものだ。でも今はそんなことになったら仕事に迷惑がかかってしまう。

そんなことにならないように出来る範囲のケアはしっかりしている。君を見つけるまではマスクをしていた位だからね。

今の僕はマスクをしていない。マスク男が近寄ったら完全に不審者に見られるだろうと思ってコンビニを出る時に外したから。

僕は視線を感じて、彼女に目線を向ける。彼女は僕をジッと見つめていた。



「どうかしたの?」

「どうして、こんなに優しいの?」

「うーん、難しい事を聞くね。僕は女の子に対しては優しくしたいだけだよ。困っている子をほっておく事も出来ないからね」

僕は、その声を何処かで聞いた事がある気がした。でもそれがどこなのか分からなかった。

「すみません、あんなところで泣いて」

「仕方ないでしょ?泣きたくなるほど辛い事があったんでしょ?」

さり気なく僕は、何があったのか聞き出そうと試みた。

「はい。ありました」

「だろうね、でも落ち着いた?」

「少しだけ」

「そっか。無理することないよ。心が落ち着くまでゆっくりと自分のしたい事をしたらいい」

「いいんですか?」

「まずは、ご両親と、学校が絡んでくるのなら、かかわる先生に報告した上でが前提」

「言わないとダメ?」

「ダメな事もあるから。心と閉ざすにも理由があるからね。ちゃんとそこは話してから。分かるよね?」

「はい」

彼女がそう言うと、にっこりとほほ笑む。さっきまで悲しみの打ちひしがれていた彼女は最初を一歩を踏み出せたみたいだ。

僕達の家はすぐそばにあるみたいで、僕の家の見える交差点で別れることになった。

「へえ、僕の家の隣のピアノ教室に通っているんだ。先生厳しいよね。僕も完全には辞めてないけど続けているよ」

「お兄さんもピアノ弾くんですか?」

「うん、今は暇な時にレッスンして貰っているからね」

「あの……お借りしたハンカチ。先生に頼んで渡して貰ってもいいですか?」

「それは君にあげる。僕も最近レッスンしていないし、それに僕が女性のハンカチ持っているのもおかしいでしょ?」

彼女が手にしているそれは、小花が散らされたいかにも女性向けのモノだ。僕が常備していたら変に誤解される。

「いいんですか?」

「いいんです。高いものでもないからね。でも、覚えていて。どんなに辛くっても君は一人じゃないんだ。手を伸ばせば手を差し伸べ、手を握ってくれる人が必ずいるよ」

僕は彼女を諭すように話す。辛くても逃げないで欲しい。

「もし……辛くなったら」

「そうだな。ピアノの先生に雅さんに会いたいって伝えて。そうしたらどうにかしてみるから」

「それでいいんですか?」

「うん。ごめんね。本当に忙しいんだよ。今日は早めに仕事が終わったからこの時間にこうしているだけで」

「そっか。社会人は大変なんですね」

彼女はしゅんとしてしまった。学生じゃ分からないのは当然。僕だって3年前にはそこまで分かっていなかった。

「本当に年末が近づくと僕も少しは暇になると思うからね」

「ふうん、そうなんですね。あれ?着信ですか?」

確かに。この着信は事務所からだ。何のことだろうか?

「職場からだ。ごめんね」

「大丈夫です。走って帰ります」

そう言うと彼女は走って帰ってしまった。一人取り残された僕は事務所からの着信に出るのだった。


ようやく、夏海と雅が出会いました。夏海は雅の名前を知りましたが、雅は名前を知りません。

しかも、中学校で会っていることを二人して思い出せていません。

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